キーエンスが徹底する「数値化の技法」で圧倒的な成果を出す――岩田圭弘氏セミナー・レポート

本記事は「"数値化の魔力"著者が解説!キーエンスが徹底する数値化の技法」セミナーの内容をもとに記しております。セミナーの視聴はオンライン上で無料で視聴できますので、こちらよりご覧ください。
キーエンスには、属人的な勘や経験則に頼らず、「行動」を数値化し、確率でマネジメントする独自の手法があります。 本セミナーでは、その仕組みを体系化した書籍『数値化の魔力』の著者・岩田圭弘氏が登壇。現場で実践されている「数値化」の技法と、それが社員一人ひとりの行動にどう落とし込まれているのかの要点を解説しております。
1. キーエンスで数値化が重要視される理由
1.1 数値化により努力の方向性を明確化することが成果につながる
企業活動で得られる成果は、「行動の量」と「行動の質」の積で説明できるというのが基本原理です。たとえば30代男性向けの商品であれば、接点を持った顧客の数が量、接点の中から実際に購入に至る割合が質となります。
量を増やすか質を高めるか、あるいはその両方を同時に引き上げれば、売上は確実に伸びる構造です。この極めてシンプルな掛け算の視点を持つことで、努力の方向性が明確になり、無駄な試行錯誤が激減します。
1.2 数字はストレスを軽減するマネジメントツール
目標が未達となった際、人はしばしば原因を感覚で語りがちです。例えば営業において、「クロージングが弱い」「顧客の質が悪い」など、真因が曖昧なまま責任を押し付け合う状況が生まれると、メンバーは精神的負荷を抱えます。
プロセスを数値化することで、どこにボトルネックがあるかが可視化されているため、議論は課題の事実確認に集中し、解決策も具体的になります。結果として感情的な摩擦が減り、チーム全体のストレスは大幅に低下します。
1.3 再現性を担保する仕組みとしての数値化
行動と結果の因果関係を日々記録し続けることで、成果を生み出すプロセスを次の期にも再現可能にすることができます。キーエンスでは、特定のスター社員が偶然高い業績をあげるのではなく、誰が担当しても安定して成果を出せる「仕組みの再現性」を重視しています。
成功したプロセスはナレッジとして組織内で共有・蓄積され、社員一人ひとりの行動へと確実に落とし込まれるため、組織全体のレベルが年々向上し続けるのです。キーエンスの仕組み化の技法についてはこちらの記事で解説しております。
2. キーエンスで実践される数値化
2.1 背伸びした KGI が行動を引き上げる
数値化の最初のステップとして、目標(ゴール)=KGIを設定します。KGIがこの後の原点となる数字になります。
ここでのポイントとして、会社や上司から与えられた数値目標より3割高い KGI を自ら設定することです。また、例えば営業においてトップ層を狙う場合は2倍のストレッチゴールを掲げることを推奨します。
高い目標を掲げることで、メンバーには自然と危機感が生まれ、自ら現在の行動プロセスを根本的に見直そうとする意識が芽生えます。その過程でこれまで気づかなかった課題や改善ポイントが明確になり、結果として一つひとつの行動の質や密度が高まっていくのです。
2.2 ファネル分解で変数を洗い出す
目標設定の次に行うべきは、プロセスを上流から下流へ細分化し、各プロセスごとに達成しておくべき数値であるKPIを設定する作業です。営業活動であれば、ダイレクトメール→電話→アポ→面談→商談化→受注という順序が典型例です。
これらの各工程における転換率を数字で具体的に示すことで、「どの工程が自分たちの努力や工夫によって改善可能なポイントか」がはっきりと浮かび上がります。
各プロセスの数値変化を常にモニタリングすることで、どこで課題が生じているかを瞬時に把握でき、素早く対処が可能となるのです。
2.3 KPI を月次から日次にブレークダウンする
ファネル分解で得られた各プロセルの月間目標を営業日数で割り戻して日次の行動の量に落とし込むと、今日やるべき具体的なタスクが明確になります。
まず設定した最終的な目標(KGI)をもとに、それを達成するために必要な転換率を割り出し、各プロセスごとのKPIを設定します。このとき、転換率はあえて低めに見積もり、余裕を持った行動の量を設定しておくことで、予期せぬリスクにも対応できるようになります。
たとえば「月間5件の受注」というKGIから逆算すると、商談化は10件、そのための面談は54件、さらにアポは60件、電話は242件というように具体的な数字が導き出されます。
これらを20営業日で割って日ごとのノルマに落とし込むことで、メンバーは毎日の行動目標を明確に認識できるようになります。こうした具体的な数値化によって、メンバーは自身の業務の意義を常に実感しながら業務に集中して取り組めるようになるのです。
3. 行動実績を記録し、1日、1ヶ月、3ヶ月、半期で振り返る
3.1 日次レビューで異常値を即座に補正する
数値管理は体重計に乗るのと同じです。日次レビューで目標との差分を確認し、不足分があれば当日中に追加の行動を実施します。面談が1件足りなければ夕方に1本余分に電話をかける。こうした即時補正が貯金となり、月末に慌てて帳尻を合わせる必要がなくなります。
3.2 週次と月次で戦術を更新する
週次レビューではファネル全体を俯瞰し、工程ごとの落ち率を比較して改善箇所を特定します。転換率の低下が見られる工程に対しては、スクリプトの刷新やターゲットリストの見直しを実施します。月次レビューではさらに踏み込み、チャネルそのものの変更や価格戦略のテストなど大胆な施策を検討します。
3.3 半期レビューで戦略を根本的に見直す
市場環境や競合状況が変化した際、従来の戦術だけでは成果が頭打ちになることがあります。半期ごとのレビューで KGI やターゲット設定を再検証し、戦略そのものを刷新することで、数値化の仕組みは時代遅れにならずに機能し続けます。
4. 「行動の質」より「行動の量」の改善を優先する
4.1 「行動の質」より、まずは「行動の量」を極めるべき理由
例えば営業活動において、電話・メール→アポ→商談における下流工程は顧客の意思決定や社内稟議といった外的要因に影響されやすく、短期間に劇的な改善を行うのは難しいのが現実です。そこで、電話やメールなど上流の行動の量を増やし、ファネル全体の分母を拡大することが最も確実かつ迅速な打ち手となります。
4.2 3つの比較軸でギャップを把握する
行動の量を評価する際には、①目標との差、②前年同期との差、③チーム内トップとの差を同時に確認します。とりわけトップとのギャップは、真似すべき行動を具体的に示してくれる指標となり、チーム全体の底上げを促します。
4.3 時間を再配分し、行動の量を確保する
一日の時間を「やる」「後回し」「委任」「やめる」の四象限で分類し、緊急だが重要度の低いタスクを委任し、重要度も緊急度も低いタスクは思い切って削減します。空いた時間を最上流の行動に投入することで、行動の量が飛躍的に増加します。
5. 行動の量の確保が確率を高めることにつながる
5.1 勝ちパターンを抽出する
十分な行動の量を確保すると統計的に意味のある母数が集まり、受注率が高い案件の共通項が浮かび上がります。成功要因を提案資料、トークスクリプト、価格条件などに分解して抽出します。
5.2 仮説を検証し、ナレッジを組織で共有する
抽出した成功要因をシナリオ化し、A/B テストで実際に成果を測定します。最も高いパフォーマンスを示したシナリオは社内 Wiki や営業資料として即座に共有し、組織全体で標準化します。
5.3 共有されたナレッジを定期的に更新する
ビジネス環境は日々変化するため、一度共有したノウハウも放っておけばすぐに古くなってしまいます。そのため、3か月ごとに内容を見直し、必要に応じて更新する仕組みを整えることが重要です。行動の量と行動の質、それぞれの改善を継続的に繰り返していくことで、成果の出る確率は着実に高まっていきます。
6. 数値化の文化を根付かせる3つの要素
6.1 評価制度と KPI の連動
行動KPIと結果KPIの両方を評価に明確に結びつけ、「決められた行動の量をしっかり積み上げていけば、確実に評価される」という仕組みを作ります。
メンバーにとって「行動の量を守ることが自分自身の評価や報酬に直結している」とはっきり理解できるため、日々の行動の量を意識的に確保しようとする意欲が高まります。
6.2数字をチーム全員で定期的に確認する仕組みづくり
CRM と BI を連携させ、経営陣が週次で、リーダーが日次で、メンバーがリアルタイムで同じ数字を参照できる環境を構築します。数字が共通言語になれば、意思決定は迅速かつ客観的になります。
6.3 数字を語る文化の醸成
毎朝の短時間ミーティングでKPIを確認し、その日の成功体験や失敗から得た気づきをすぐにチームで共有する――そんなルールをあらかじめ仕組みとして定めておくことで、数字に基づくコミュニケーションが日常になります。
さらに、月に一度の表彰イベントでは、数字をもとにした改善の取り組みを称賛し、「数字で語れる人」をチームのロールモデルとして讃える。こうした積み重ねが、組織全体に自然と“数値で考える文化”を浸透させていきます。
7. まとめ
まず、少し背伸びしたKGI(最終目標)を掲げる。次に、その目標を達成するために必要なプロセスをファネル(段階的な流れ)に分解し、各ステップに数値目標(KPI)を設定する。
そして日々の行動の量を管理しながら、週次・月次・半期と定期的に改善を重ねていく――この一連の流れは一見すると複雑に見えますが、実際には「目標設定」「プロセスの数値化」「継続的な改善」という、たった3つのシンプルな柱で成り立っています。
キーエンスが実践する「数値化の技法」は、数字を叱責や管理のために使うのではなく、“最小の努力で最大の成果を導くためのナビゲーションシステム”として活用することを意味します。
数字というレバーを正しく握れば、誰もが再現性のある成長曲線を描くことができる。企業の規模や業界に関係なく、どんな組織にも応用できる――それがこの手法の普遍的な強さなのです。
8. 無料セミナーと書籍のご紹介
本記事は「"数値化の魔力"著者が解説!キーエンスが徹底する数値化の技法」セミナーの内容を元に記しております。セミナーの視聴はオンライン上で無料で視聴できますので、こちらよりご覧ください。
また、本セミナーは「数値化の魔力(出版: SBクリエイティブ) 」の内容に基づいておりますので、書籍も併せてご覧いただけますと幸いです。
また、本セミナー講師の岩田圭弘氏は、Exgrowth株式会社にて、成長戦略・組織設計・実行オペレーションまで一気通貫で支援するサービスを提供しておりますので、ご興味の方はお気軽にお問合せください。