【成功事例で学ぶ】ストックオプション「設計と実装」ガイド!タイプ別の開示・税務リスクを徹底解説

【成功事例で学ぶ】ストックオプション「設計と実装」ガイド!タイプ別の開示・税務リスクを徹底解説
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ストックオプションは、スタートアップから大企業まで幅広く利用される報酬制度です。単なる制度の知識だけでなく、実際の「事例」に触れることで、どう設計し、どのように運用していけばよいかが具体的に見えてきます。 この記事では、税制適格/非適格/信託型/株式報酬型(いわゆる1円SO)といった制度の型を整理し、会社法と税務の基本を踏まえながら、上場企業やIPO企業の実際の導入事例を解説します。さらにスタートアップの制度選択や投資家が注目する観点までをつなげ、制度設計の一連の流れを“事例ベース”で理解できるようにしました。

事例に入る前の基本整理(会社法・税務の“枠組み”)

会社法の骨格:新株予約権(SO)の発行手続と決議要件

ストックオプションは会社法上「新株予約権」に位置づけられる制度です。そのため発行には必ず法的な手続きを踏む必要があります。公開会社では、取締役会で募集事項を決定するのが原則ですが、「有利発行」とみなされる場合には株主総会の特別決議を経なければなりません。一方で、非公開会社の場合は原則として株主総会決議が必須となります。

ここで重要なのは「誰に付与するか」で要件が変わる点です。取締役に付与する場合は役員報酬の一種とみなされるため、会社法361条に基づく特別な決議が必要になります。従業員付与と比べると事業報告や開示の書き方も変わってくるため、制度設計の初期段階で決議の要件や順序をしっかり整理しておくことが求められます。実務では「どの会議体で決めるか」「どの程度委任できるか」を型として理解しておくことで、導入時のスピード感と法的安全性の両立が可能になります。

税制適格SOの要点:課税タイミングと“行使価額の原則”

ストックオプションの設計で特に重要なのが「税制適格か非適格か」という区分です。税制適格SOの最大のメリットは、付与時や行使時に課税されず、売却時の譲渡益課税だけで済む点にあります。これにより、従業員が税負担を先送りでき、モチベーション維持にもつながります。

ただし適格SOとして認められるにはいくつかの要件があります。その中でも大前提となるのが「権利行使価額が付与契約時の株価以上であること」です。未上場企業であっても株価算定を行い、その価格を下回らないように設定しなければなりません。株価算定は原則方式や特例方式(純資産価額方式など)を用いて算定し、算定方法や根拠を付与契約や議事録に残しておく必要があります。

さらに、権利行使が可能となるのは付与から一定期間経過後であることや、株券の保管方法など、細かい要件も設定されています。これらを漏れなく満たして初めて「税制適格」として扱われるため、要件ごとにチェックリストをつくり、付与から保管・行使までの一連の流れを制度設計段階で確認しておくのが実務上のポイントです。

株式報酬型(いわゆる1円SO)と信託型SO:仕組みを正しく理解する

「1円SO」という言葉を耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、これは正式な法的区分ではなく通称に過ぎません。実際には税制適格SOの仕組みの中で、株価算定の結果として権利行使価額が極めて低くなる場合があり、それを「1円SO」と呼んでいるのです。重要なのは名称ではなく「株価を公正に算定しているか」「適格要件を満たしているか」であり、この点を誤解しないことが大切です。

また「信託型SO」は、会社が一度信託を通じてストックオプションを取得・管理し、その後受益者を指定して付与するという仕組みです。この方式は、従業員や役員への配布を後から柔軟に調整できる点でメリットがあります。ただし税務処理は複雑で、信託組成時から受益者指定、行使、売却に至るまで、それぞれに課税関係や記録を整理しておく必要があります。

つまり「1円SO」や「信託型SO」は流行的に取り上げられることが多いものの、実務上は呼び名に惑わされず、株価算定の根拠や税務上の要件を正しく理解し、それを制度文書や議事録にきちんと残すことが本質的な運用のポイントになります。

上場企業・IPO企業の事例(目的・普及度・投資家目線)

ソフトバンクのSO発行事例に学ぶ

大手企業のIR資料は、ストックオプション設計の実務を学ぶうえで格好の教材になります。ソフトバンクは2025年に大規模なストックオプションを発行しましたが、その際には会社法上の根拠条文を明示しつつ、「従業員の意欲を高め、株主との利害を一致させる」という目的を明確に開示しました。

このように、誰にどれだけ付与するのか、行使条件をどう設定するのか、目的をどう説明するのか、といった基本項目を一望できる形式になっています。実際に自社で制度を設計する際には、こうしたIR資料の書きぶりを参考にすることで、投資家や従業員に分かりやすく伝える文書を作りやすくなります。

IPO企業における普及度:85%が制度を導入

近年のIPO企業では、ストックオプション制度の導入はほとんど標準装備といってよい状況です。2024年に上場した企業のうち、約85%がSOを導入していたという調査結果もあります。

この数字は「なぜSOを導入するのか」を考えるうえで重要です。人材の採用や定着に活用するのはもちろん、IPO準備段階で投資家への説明責任を果たすうえでも、制度設計が欠かせないことを示しています。SOは単に“報酬制度”ではなく、資本政策や上場戦略とも直結する制度であることがわかります。

投資家の視点:希薄化と報酬連動が評価を決める

投資家がSOを見るときに特に注目するのが「どの程度株式が希薄化するのか」「報酬が企業価値の向上にきちんと連動しているのか」という点です。

行使条件が不明確であったり、リテンション目的と成果連動の目的が曖昧であると、投資家からは制度設計に対して疑問を持たれることになります。一方で、潜在株式比率や付与総量の上限、行使条件のロジックを定量的に説明できる場合には、投資家は「経営陣と株主が同じ方向を向いている」と評価しやすくなります。

つまりSOの導入や改定を検討する際は、内部の設計だけでなく、投資家への説明の仕方まで含めて制度を作り込むことが必要です。

スタートアップの設計事例(税制適格SO/信託型SO/RSU)

税制適格SOの実装手順:算定から付与までの“流れ”を固める

スタートアップがストックオプションを導入する場合、まず候補となるのが税制適格SOです。適格SOを実装するには、いくつかのステップを順序立てて進める必要があります。

最初に取り組むのは「株価算定」です。非上場企業の場合は、原則方式や特例方式(純資産価額方式など)を使って、付与契約時点の株価を合理的に算出します。この金額を行使価額の基準とし、それ以上で設定しなければ要件を満たしません。

次に会社法に基づく決議を整理します。公開会社か非公開会社か、取締役への付与があるかどうかによって必要な会議体が変わります。取締役に付与する場合は「報酬としての付与」扱いになり、特別決議が必要になります。ここを見落とすと後から無効リスクが出てくるので注意が必要です。

さらに、ストックオプション規程や就業規則との整合性も取る必要があります。付与対象者や行使条件を規程に反映させ、個別の付与契約書に落とし込みます。保管の仕組み(株券や電子記録の管理方法)、権利行使可能期間、権利消滅の条件なども文書に盛り込んでおきましょう。

最後に、行使後の課税関係(売却益課税)を従業員が理解できるように説明し、制度をスムーズに運用できる体制を作ります。要件は細かいため、国税庁のQ&Aなどをベースに「チェックリスト化」しておくのが、漏れを防ぐ実務的なコツです。

信託型SOの仕組みと留意点:柔軟さの裏にある管理の重さ

信託型SOは、最近スタートアップで利用が増えている仕組みです。これは会社が信託を通じてSOを取得し、その後に受益者を指定して実際の付与を行うという流れになっています。

この仕組みのメリットは「柔軟さ」です。たとえば創業時点では将来のキーマンがまだ決まっていなくても、後から貢献度に応じて受益者を選び、SOを渡すことができます。採用競争が激しいスタートアップでは、この柔軟性が人材確保の強力な武器になります。

一方で、運用上は注意点も多くあります。信託を組成した段階、SOを購入した段階、受益者を指定した段階、実際に行使・売却が行われた段階と、それぞれに課税関係が発生する可能性があります。そのため、経理・法務・人事の各部門が連携し、記録や議事録を細かく残していくことが求められます。

信託型SOを導入する場合は、「柔軟性」と「管理コスト」のトレードオフを理解することが肝心です。特にIPOを目指す企業では、監査や投資家への説明で信託の仕組みや記録の妥当性を説明する場面が必ず出てくるため、透明性を意識した制度運営が求められます。

RSU(譲渡制限株式ユニット):SOの代替手段としての事例

ストックオプション以外の選択肢として、RSU(譲渡制限株式ユニット)を導入する企業も増えています。代表的な事例がメルカリで、2018年に広範な従業員にRSUを付与する新しい制度を発表しました。

RSUの特徴は「権利確定時点で株式が付与される」という仕組みで、SOのように「行使するかどうか」「資金を払えるかどうか」といった不確実性がありません。社員にとっては将来的に株式が確実に得られるため、モチベーションにつながりやすい制度といえます。

一方で、会計処理上は権利確定の時点で費用計上が発生するため、会社としてはコスト負担をどのように管理するかが課題となります。また、付与株式が増えることで希薄化が進むため、投資家に対しては「なぜRSUを導入するのか」「SOとどのように使い分けるのか」を丁寧に説明する必要があります。

スタートアップの場合は「SOとRSUを組み合わせて設計する」ことで、人材戦略と資本政策の両立を図るケースが増えています。成果連動をSOで担保し、幅広い従業員のリテンションをRSUで支えるというハイブリッド型が有効です。

株式報酬型(いわゆる1円SO)の実務論点(要件・会計・開示)

名称に惑わされない:要件の本質は“算定と価額”

「1円SO」という言葉はキャッチーですが、あくまで俗称に過ぎません。本質は、付与契約時点で株価を正しく算定し、その金額以上で行使価額を設定することにあります。算定方式は、原則方式(DCFなど)か特例方式(純資産価額方式など)があり、会社の状況に応じて選択します。

非上場企業では、直近の増資や株主間取引なども株価評価の材料になるため、「なぜその算定方式を選んだのか」という説明責任を果たせるように記録を残しておくことが不可欠です。名称にこだわるのではなく、制度設計が適格要件に沿っているかどうかを一次資料で確認する姿勢が大切です。

会計と開示:費用処理・希薄化・投資家への説明

株式報酬型SOは会計上、付与時点から費用計上が進みます。ベスティング条件(勤続や業績条件)によって費用認識のタイミングが変わり、失効があればその分を戻し入れる処理も必要です。IPO準備企業では、この費用処理と合わせて「潜在株式比率」や「行使条件」の説明を投資家に明示することが不可欠です。

東証などが公表している事例集を見ると、投資家が高く評価する開示の共通点は「報酬が企業価値と連動しているかどうか」です。単なる人件費としてではなく、「どのように成長や株主価値につながる制度なのか」を定量的に説明できることが、信頼を得るためのカギとなります。

上場局面での活用:有報・目論見書の読み込み

IPOを目指す企業にとって、株式報酬型SOをどう扱うかは非常に重要です。有価証券報告書や目論見書には、SOの残高、行使条件、潜在株式比率、費用処理の詳細などが必ず記載されます。

これらの一次資料を分析することで、「投資家はどのポイントを重視しているのか」「どんな表現で説明すると納得されやすいのか」を学ぶことができます。制度を導入する際は、同業他社や同じ市場区分でのIPO事例をいくつかピックアップし、実際の開示表現を参考にして自社の設計に反映させると実務に直結します。

タイプ別・実装の勘所(チェックリストと“使いどころ”)

税制適格SO:採用と定着を支える“基礎体力”

税制適格SOは、スタートアップから中堅企業まで幅広く利用される最もオーソドックスな制度です。採用・定着に直結する「従業員の長期的モチベーション」を生む基盤として機能します。

実務上の勘所は、形式要件を一つひとつ漏れなく満たすことです。たとえば、行使価額は必ず付与契約時点の株価以上に設定する、行使開始は付与決議から2年以上先とする、株券の保管方法を明示する、などです。これらの要件を外してしまうと「税制適格」の扱いが失われてしまい、課税が従業員に重くのしかかることになります。

特に非上場企業の場合は「株価算定の正確性」が要であり、直近の資本政策や増資イベント、事業計画との整合性を常にチェックする必要があります。算定根拠は議事録や契約書に明記し、監査や税務調査でも説明できるように準備するのが実務的なコツです。

信託型SO:柔軟性を生かす“アドバンスト設計”

信託型SOは、より高度な設計を求める企業に向いています。その魅力は、後から受益者を指定できる柔軟性にあります。つまり、採用した人材の貢献度や成果を見極めたうえで、必要なタイミングでSOを配分できるのです。

ただし、その柔軟さは「管理の複雑さ」と表裏一体です。信託を組成した時点、SOを信託で取得した時点、受益者を指定した時点、行使・売却した時点と、それぞれに会計処理や課税関係が発生します。そのため、経理・法務・人事・監査対応を横断的に進める体制が必要です。

IPOを視野に入れる企業では特に、開示の透明性が欠かせません。信託スキームは投資家にとって分かりづらい部分もあるため、制度設計の背景や配分ルールを具体的に説明できるように、ドキュメントと記録を徹底して残す必要があります。

RSU/株式報酬とのミックス:人材戦略と投資家対話を両立する

最近のトレンドは「SOとRSUの併用」です。SOは成果連動性が高く、一定の株価上昇がなければ価値が発生しないため、従業員にインセンティブを強く与えられます。一方でRSUは権利確定時点で確実に株式が得られるため、リスクを軽減しながらリテンションを狙えます。

この二つを組み合わせることで「短期的な成果」と「中長期的な定着」の両方に対応できる仕組みになります。たとえば、エンジニアなど流動性が高い人材にはRSUを中心に配分し、経営幹部や営業など成果が直接業績に反映されるポジションにはSOを厚めに設定する、といった設計が考えられます。

投資家との対話の場でも「制度の狙い」「成果連動の仕組み」「潜在株式比率の上限」などを数値で説明できれば、希薄化リスクに対する不安を和らげられます。単に「SOを導入しました」という説明ではなく、「RSUと組み合わせて人材戦略と資本政策を一体化している」というメッセージを伝えることが、企業価値評価の向上につながります。

まとめ:ストックオプション事例は“税・法・開示”を結ぶ設計図に

ストックオプション制度を成功させるには、単なる制度導入にとどまらず、税務・会社法・開示の三つをつなぐ「設計図」として捉えることが大切です。

第一に、税制適格SOの要件を一つずつクリアすること。株価算定、行使価額の設定、行使開始時期、株券保管、契約書への明記といった要件を漏れなく実装することが基本です。

第二に、会社法の規制に沿って正しく手続きを踏むこと。特に取締役付与の場合の株主総会決議や、有利発行に当たる場合の特別決議を忘れてはいけません。制度導入はスピード感が重要ですが、法的な抜け穴を残すと後から大きなリスクとなります。

第三に、投資家が納得する説明を準備すること。潜在株式比率や付与条件、報酬と企業価値の連動性を、開示資料や有価証券報告書で定量的に示すことが求められます。

事例は「制度の設計図」として活用し、設計図は「実務のチェックリスト」に変えていく。この流れを意識すれば、採用・定着・成長資金調達を支える制度として、ストックオプションを企業経営の強力な武器にできます。

出典:国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)
出典:国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)案内ページ
出典:Business Lawyers『取締役・従業員へのストック・オプションの付与手続き
出典:Business Lawyers『新株予約権の募集事項の決定委任
出典:ソフトバンク『新株予約権(ストックオプション)の発行に関するお知らせ
出典:ソフトバンク『発行内容確定に関するお知らせ
出典:PLUTUS Consulting『2024年の新規上場企業におけるストック・オプションの事例
出典:JPX『事例集 スタンダード市場編(改訂)
出典:JPX『投資者の目線とギャップのある事例
出典:JPX『新規上場申請のための有価証券報告書(GVA TECH)
出典:Yahoo!ファイナンス『上場に伴う決算情報(GVA TECH)
出典:あかつき証券『GVA TECH IPOレポート(概要)
出典:メルカリ『新インセンティブ制度(RSU)導入

カテゴリー:会計・財務

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