【実務で失敗しない】株主間契約の重要条項チェックリスト!デッドロック回避と戦略的EXITを両立させる要点を徹底解説

【実務で失敗しない】株主間契約の重要条項チェックリスト!デッドロック回避と戦略的EXITを両立させる要点を徹底解説
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株主間契約の重要条項は、投資後の経営運営や情報開示、株式移動、そして最終的なExit(IPOやM&A)までをルール化する中核的な取り決めです。 この記事では、投資契約や財産分配契約とどう切り分けられるのかを最初に整理し、そのうえで「事前承認」「取締役指名権」「情報開示」「創業者の専念義務」「先買権(ROFR)」「共同売却参加権(Tag Along)」「同時売却請求権(Drag Along)」といった条項を実務の流れに沿って紹介します。 さらに、IPO/M&Aを見据えたExit協力義務や、万一の紛争時に備えた仲裁・準拠法の条項までを取り上げ、交渉の勘所や社内運用の注意点を解説します。定義のズレを避けるちょっとした工夫も盛り込み、投資家や同業者との合意形成を滑らかに進めることを目指します。

株主間契約の基本と「重要条項」の全体像

株主間契約とは:投資後の運営・情報・Exitを束ねる軸

株主間契約とは、発行会社・創業株主・主要投資家の間で「投資後の経営ルール」を定めるための合意文書です。投資契約(投資実行までの条件を規定する契約)や財産分配契約(M&Aのときの分配ルールを定める契約)と並び、スタートアップやベンチャー投資の実務における“三本柱”のひとつと位置づけられます。

この契約は、いわば投資家と経営者の間で共有する「共通憲法」として機能します。投資家が1社であれば特約ベースで処理できる場面もありますが、複数の投資家が加わると特約が入り乱れ、後続ラウンドで矛盾や対立が起きやすくなります。たとえば、ある投資家には情報提供義務を負い、別の投資家には取締役指名権を与えるといった“バラバラの特約”が積み重なると、後から参画する投資家や創業者がルール整理に苦労することになります。

このため、早い段階から株主間契約を整え、ガバナンス・情報開示・株式移動・Exitといった主要テーマを一括して合意しておくことが望ましいのです。これにより、投資契約側に個別特約を残す必要が減り、ラウンドを重ねても運用を一貫させやすくなります。

重要条項の系統図:①ガバナンス②情報③株式移動④Exit

株主間契約に含めるべき重要条項は、実務上は大きく以下の四つの系統に整理されます。

  1. ガバナンス関連:事前承認事項、取締役の指名権やオブザーバー権など。

  2. 情報関連:経営状況や財務数値を定期的に開示する義務。

  3. 株式移動関連:株式の譲渡制限や、先買権・共同売却参加権(Tag Along)・同時売却請求権(Drag Along)といった権利。

  4. Exit関連:IPOやM&Aを見据えた協力義務や期限の定め、利益配分に関する取り決め。

このように地図のように条項を整理しておくと、契約書を作るときにも社内説明をするときにも分かりやすくなります。

ただし実務では、株主間契約に盛り込むべき内容が投資契約に混在することも多々あります。結果として「同じ趣旨の条項が二重に存在して齟齬が生じる」といったトラブルの温床になりがちです。新たな投資家が加わるタイミングで、株主横断のルールを株主間契約に統合し、契約の一本化を進めると、後々の手戻りを防げます。

定款・会社法との関係:譲渡制限会社での手続を踏まえる

株主間契約はあくまで「私的な合意」であり、会社の根本規則である定款や会社法に優先するものではありません。特に非公開会社(譲渡制限会社)では、株式の譲渡は会社の承認を要し、その承認機関や手続は会社法および定款に基づきます。

そのため、たとえ株主間契約で株式移動のルールを定めても、法定の手続や定款上の制約を無視することはできません。承認機関(取締役会なのか株主総会なのか)、承認の期限、指定買取人の取り扱いなど、必ず法律や定款の規定と契約条項をすり合わせる必要があります。

また、契約の中で使う用語が法律用語とズレていないかも要注意です。たとえば「譲渡承認」と「譲渡同意」といった用語を曖昧に使うと、後に法解釈の争いを招きます。社内説明の際には「法律・定款 → 株主間契約 → 各投資契約」という階層構造で説明すると、関係者の理解がスムーズに進みます。

ガバナンス系の重要条項(株主間契約)

事前承認・事前通知:重大事項の“拒否権”に近い安全弁

企業価値に直結するような重要な決定については、投資家の事前承認や事前通知を義務づけるのが一般的です。たとえば定款変更、新株発行、合併、事業譲渡などが典型例です。

契約上は「どのイベントを対象にするか」と「どの水準で承認が必要か(割合や金額)」を数字で明確にし、軽微なものは“通知”にとどめ、重大なものは“承認”を求めるように線引きします。さらに、承認の方法(書面かメールか)、回答期限、遅延時の扱いまで明記しておけば、実務で迷う余地が減ります。

ただし範囲を広げすぎると、日々の業務判断まで投資家承認が必要となり、経営が停滞してしまいます。したがって承認対象はあくまで重大事項に絞り、必要に応じて定義集で具体例を補足するのが実務的です。特に「上場準備に必要な手続き」や「大型提携の定義」は曖昧になりやすいので、例示や数値条件を盛り込んで解像度を上げておくと、後のトラブルを防げます。

取締役指名権・オブザーバー権:関与の度合いと説明責任

一定割合以上の株式を保有する投資家に、取締役を指名する権利やボード・オブザーバーの権利を付与する条項もよく見られます。これは投資家が経営に適度に関与しつつ、モニタリングと知見提供の両面で企業をサポートする仕組みです。

取締役に指名された人物は、会社法上の忠実義務や善管注意義務を負うことになります。一方、オブザーバーは議決権を持ちませんが、会議に出席して情報にアクセスできるため、投資家にとっては重要な権利です。

実務では、取締役会が投資家だらけになって機動性を失うことを避けるため、基準株式数や出資額に応じたルールを置くのが一般的です。また、議事録の配布範囲や資料閲覧の方法、守秘義務や利益相反の取り扱いも条文化しておくことで、実際の運用で混乱が生じにくくなります。

情報開示義務:頻度・方法・項目をあらかじめ固定する

投資家との信頼関係を維持するには、情報開示のルールを明確にすることが欠かせません。月次または四半期の試算表、資金繰り表、主要KPIの推移、重要契約の進捗など、“見るべき情報”を項目ごとに定め、提出期限や形式(PDF・Excel・共有ドライブなど)を契約で約束します。

これを曖昧にすると、投資家ごとに要求が異なり、現場の負担が膨らんでしまいます。したがって、株主間契約には最小限の共通項を置き、追加的な情報要望は“ベストエフォート”条項で対応するのが現実的です。こうしておけば、現場の混乱を防ぎつつ投資家との透明性を確保できます。

創業者条項と行動規範(株主間契約)

創業株主の専念義務:離脱や兼業をどう扱うか

スタートアップの経営では、創業者の存在が会社の信用・採用・事業推進のすべてに直結します。そのため、株主間契約には「創業者が事業に専念する義務」を盛り込むことが多く、他の会社への就業や競業活動を一定期間制限する条項が置かれます。

ただし、あまりに強い縛りをかけると、創業者のモチベーションや柔軟なキャリア選択を妨げ、結果的に会社にマイナスを及ぼすこともあります。そこで通常は「在任中は原則として専念義務」「退任後も一定期間は競業避止」としつつ、期間・範囲・合理的な例外条件を明文化するのが実務的です。さらに「投資家の承認」や「事情変更時の見直し規定」を入れておくと、想定外の状況でも対応できます。

要するに、専念義務は“罰則”ではなく“予見可能性”を担保するためのルールです。特に役員交代や急な事業転換の局面では、この条項があるかないかで会社の安定度が大きく変わります。

想定外への備え:例外手続とバランス感覚

経営の現場では、健康上の理由や家庭の事情(育児・介護など)により、創業者本人が一定期間フルタイムで動けなくなることがあります。こうしたケースを想定し、株主間契約に「例外手続」を定めておくことも重要です。

たとえば「一時的に職務を軽減する」「一定期間は代行体制を整える」といった柔軟な措置や、その際の投資家への通知期限を定めておけば、混乱を最小限に抑えられます。条項を通じて「必ず協議の場を設ける」「個別対応を契約の外に出さない」と決めておくと、関係者全員が納得しやすくなります。

契約の優先関係:複数契約がある場合の整理

スタートアップでは、投資契約・株式譲渡契約・株主間契約などが並行して存在します。その場合、条項同士が衝突する可能性が高まります。たとえば投資契約でのExit条件と、株主間契約におけるDrag Along条項の内容が食い違うと、どちらを優先すべきかで紛争になります。

こうした事態を防ぐために、契約書には必ず「優先関係」を明記します。一般的には「財産分配契約 > 株主間契約 > 投資契約」という順序で優先度を定めることが多いです。これにより、万一条件がぶつかった場合でも判断基準が明確になり、無駄な法解釈争いを避けられます。

優先関係の条項は、実務で言えば“最後の羅針盤”の役割です。これが明記されているかどうかで、後続ラウンドやM&A対応のスピードが大きく変わります。

株式移動の重要条項:先買権・共同売却参加権・同時売却請求権

先買権(ROFR):株式を社外に出す前の社内優先権

先買権(Right of First Refusal)は、既存の株主が第三者に株式を売却する前に、他の株主や会社自身が優先的にその株を買える権利です。これにより、予期せぬ第三者が株主になるリスクを抑えられます。

契約で大切なのは、通知方法(書面やメール)、回答期限(何日以内か)、価格決定の仕組み(提示条件をそのままマッチするのか、あらかじめ定めた計算式か)を明確にしておくことです。さらに、回答がなかった場合や一部のみ応諾した場合の配分ルールまで決めておくと、実務で迷う余地がなくなります。

共同売却参加権(Tag Along):少数株主を守るための仕組み

Tag Along(共同売却参加権)は、大株主が第三者に株式を売却する際、少数株主も同じ条件で持分を売れるようにする権利です。これにより、少数株主が“取り残される”リスクを防ぎ、公平性を確保できます。

契約上は「どの規模の売却がトリガーとなるのか」「売却先の条件はどうするか」「参加する場合の期限や手続き」を明記します。さらに、買い手の受け入れ能力によって誰の株を優先して買い取るかが問題になりやすいので、配分ルールをきちんと定めておくことが重要です。

同時売却請求権(Drag Along):Exit実現を加速させる装置

Drag Along(同時売却請求権)は、一定割合の株主が賛同した場合に、他の株主にも売却を強制できる権利です。たとえばM&Aの機会が訪れたときに、一部株主が拒否して取引が頓挫する事態を防ぐ効果があります。

契約では「どの条件で発動するのか」を明記します。典型的には「投資から一定年数が経過した場合」「売却額が一定以上の場合」「売却先が反社会的勢力ではないこと」などの条件を組み合わせます。Drag Alongは“強制力”を伴うため、誤解を避けるための説明責任や、創業株主自身が発動者となる場合の調整も必要です。

特にIPOが難しい局面では、Drag AlongがExit実現のための実効性ある条項となります。そのため、近年のベンチャー投資では重要視される傾向が強まっています。

まとめ:株主間契約の重要条項は「定義・根拠・運用」で揃える

株主間契約は、単なる“投資家と会社の取り決め”ではなく、投資後の経営を止めないための「交通整理」のような役割を果たします。

この記事を通じて見てきたように、重要条項は大きく分けると以下のように整理できます。

  • ガバナンス関連:事前承認や取締役指名・オブザーバー権を通じて、投資家の関与と経営の安定性をバランスさせる。

  • 情報開示関連:財務データやKPIの開示を標準化し、投資家との透明性を確保する。

  • 創業者条項:専念義務や競業避止義務で予見可能性を確保し、想定外の事態への例外手続も整える。

  • 株式移動関連:ROFR(先買権)、Tag Along(共同売却参加権)、Drag Along(同時売却請求権)を設計し、株式移動やExitの場面で公平性と実効性を担保する。

  • Exit関連:IPOやM&Aを見据えた協力義務、ファンド期限の定義、紛争解決の方法までを含めて、将来の衝突を防ぐ。

ポイントは「定義」「法的根拠」「運用」をセットで揃えることです。契約条項そのものをきちんと書くだけでなく、会社法や定款との整合性を踏まえて、どの契約が優先されるかのルールを固定する。そして、通知期限・承認方法・例外条件といった運用上の細部をあらかじめ整備しておく。

こうして初めて、株主間契約は“絵に描いた理想”ではなく、現場で本当に使える「実務ツール」になります。モデル条項や公的ガイドラインを参考にしつつ、自社のフェーズ・投資家構成に応じたカスタマイズを重ねることが、契約の生命線と言えるでしょう。

出典:経済産業省『我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項』
出典:e-Gov法令検索『会社法』
出典:港区公式『株式の譲渡制限』
出典:経済産業省 留意事項『事前承認/通知・取締役指名権・情報開示』
出典:経済産業省 留意事項『創業株主の専念義務・契約間の優先関係』
出典:経済産業省 留意事項『株式移動(ROFR・Tag Along・Drag Along)』
出典:公正取引委員会・経済産業省『スタートアップへの出資に関する指針』
出典:日本取締役協会『モデル英文株主間契約』
出典:JCAA(日本商事仲裁協会)『仲裁条項の書き方』

カテゴリー:会計・財務

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