【労務リスク回避】私傷病休職・復職判定の実務テンプレートを紹介!規程例と円滑なフローを徹底解説

私傷病休職の基本と「規程例」の要点
私傷病休職とは何か(対象・目的)
「私傷病休職」とは、社員が業務とは関係のない病気やけがにより、長期的に働くことが難しくなった場合に適用される社内制度です。重要なのは、雇用契約そのものを打ち切るのではなく、一定期間は就労義務を免除しつつ雇用関係を維持する点にあります。
この制度には法律で一律の規定があるわけではなく、各企業の就業規則で定義されます。そのため、会社ごとに運用方法や細かい条件が異なります。参考にできるのが厚生労働省が公表している「モデル就業規則」で、そこには休職の条文例や考え方が整理されています。例えば、休職を命じる条件(一定期間の欠勤が続いた場合など)、休職できる期間の上限、期間が満了した場合の取り扱いなどが示されており、自社規程を整備する際の“たたき台”として使うことができます。
人事・労務担当者は、まずこのモデル規程を骨格として理解し、自社の業務特性や人員構成に合わせてアレンジするのが実務的な進め方です。ゼロから条文を作ろうとすると抜け漏れや法的リスクが生じやすいため、既存の規範を下敷きにすることで現場での混乱を抑えられます。
「規程例」の押さえどころ(発令要件・期間・満了)
就業規則に「私傷病休職」を定めるときには、大きく3つの柱を盛り込む必要があります。 1つ目は「休職の発令要件」、2つ目は「休職期間の設定」、3つ目は「休職期間満了時の取り扱い」です。
モデル就業規則の例では、業務外の傷病により一定期間以上欠勤が続いた場合や、その他やむを得ない特別な事情がある場合に休職を発令できるとしています。さらに、休職期間中に傷病が回復すれば復職とし、反対に期間が満了しても就労が難しい場合は退職扱いとするなど、出口のルールも明示されています。
各社で文言を調整することは可能ですが、基準を明確にしておけば現場での解釈のブレが少なくなります。人事部門だけでなく、現場の上長や社員本人も同じ基準で理解できるよう、できるだけ具体的に条文化しておくことが望ましいのです。
休職と休暇・欠勤の違いを実務で区別する
制度運用で混同されがちなのが「休職」と「休暇・欠勤」です。
年次有給休暇や会社独自に設けられた病気休暇などの「休暇」は、基本的には短期的な不就労を想定しています。日単位や時間単位で取得でき、賃金が支払われるかどうかも明確です。
一方で「休職」は、数か月から年単位に及ぶ長期的かつ不確定な療養を対象にしています。そのため、給与の有無、社会保険料の取り扱い、年次有給休暇の付与・繰越への影響、さらに復職をどのように判定するかといった、複数の制度設計をセットで考えなければなりません。
この違いを社員・上長・人事が共通認識として持てるように、就業規則の条文だけではなく「休職・復職マニュアル」や「手引き」を整備しておくことが効果的です。そうすることで、属人的な対応やトラブルを未然に防ぎ、制度をスムーズに運用できます。
法令と公的給付の土台(解雇制限/健康保険・労災)
労基法19条の「解雇制限」を知っておく
私傷病休職の規程を作る前に、まず押さえるべきなのが「解雇制限」に関する法律上のルールです。労働基準法第19条では、労働者が業務上の負傷や疾病で休業している期間と、その後30日間については解雇してはならないと定められています。さらに産前産後休業についても同様の規定があります(ただし例外は存在します)。
これは私傷病休職の規程とは直接関係のない、法律上の最低ラインです。しかし、社員の傷病が「業務上」なのか「業務外」なのかを最初に切り分けておくことは、休職制度を適切に運用する上で欠かせません。業務上であれば労災保険の給付が適用され、業務外であれば健康保険の傷病手当金や私傷病休職規程が関係してくるため、この判断を早期に行うことが求められます。
就業規則「私傷病休職」―条文テンプレと運用ポイント
発令要件・期間のテンプレ(差し替え欄つき)
実際に就業規則へ「私傷病休職」を盛り込む際は、発令要件や期間をできるだけ具体的に条文化しておくことが大切です。そのまま使える「たたき台」として、厚労省モデル就業規則を参考にした条文テンプレを持っておくと安心です。
例えば次のようなイメージです。
(休職)第○条
労働者が業務外の傷病により、連続○か月を超えて労務に服することができないと会社が認めたとき。
前号のほか、特に必要があると会社が認めたとき。
この場合、休職期間は勤続年数ごとに区切りを設ける形にし、「勤続○年以上は○か月、勤続○年以上は○か月」と具体的に定めます。数字の部分は自社の実態にあわせて差し替えることで、制度を運用しやすくなります。
また、あらかじめ「休職期間の上限」を明記しておくと、現場で対応が迷走するのを防げます。とくに代替要員の確保や業務負担の見積りに関わる部分なので、曖昧にせず決めておくのが実務上のポイントです。
復職・期間満了の取り扱い(判断の窓口を一本化)
休職制度は「復職の条件」と「期間満了時の扱い」をセットで定めておかないと、後々トラブルになりやすい部分です。
基本的な考え方は「休職事由が消滅した場合には、原則として原職、またはこれに準ずる職務に復帰させる」と明文化することです。そして、休職期間が満了した時点でなお就労が困難と判断される場合は、退職や自然退職など、どう処理するかを明記します。
このとき重要なのは、判断を人に依存させない仕組みを作ることです。例えば「本人からの申請 → 主治医の意見提出 → 判定会議での判断 → 最終決裁 → 本人への通知」という流れをフローとして定め、窓口や手続きの順序を一本化しておくと、対応がスムーズになります。
給与・社会保険・年休の扱いを“休職案内”で明文化
私傷病休職に入る社員にとって、一番気になるのは「給与がどうなるか」「社会保険料の支払いはどうなるか」「年次有給休暇は残るのか」といった点です。
多くの会社では休職中の給与は「無給」とされていますが、賞与や退職金の算定にどのように影響するか、社会保険料はどう控除するか、年休の繰越はどうなるかなどは、制度ごとに取り扱いが異なります。
こうした疑問を放置すると社員からの個別問い合わせが殺到し、人事の負担が大きくなります。そこで「休職・復職の手引き」という形で給与や手当、社会保険の扱いを整理した文書を用意し、社員に配布しておくのが効果的です。復職後の短時間勤務や配置転換といった可能性も、この案内に書いておくと誤解やトラブルを防げます。
復職判定フロー(標準5ステップ)と会議体の作り方
復職判定フロー:厚労省の「5ステップ」をベースに
復職を判断する際には、厚生労働省が示す「5ステップの支援プロセス」をベースに設計すると分かりやすいです。特にメンタル不調による休職者への対応で推奨されているものですが、身体疾患でも同じ考え方を適用できます。
流れは以下のとおりです。
休業開始と休業中のケア
主治医による復職可否の意見聴取
会社側による復職の可否判断と支援プランの策定
最終的な復職決定(必要に応じて就業上の措置を含む)
復職後のフォローアップ
要するに「医学的に勤務可能か」という主治医の意見と、「会社として業務上安全に受け入れられるか」という判断を組み合わせる設計です。
判定材料:主治医意見・産業医面談・段階的就業
復職を判断する材料には、主治医の診断書や意見書、産業医の面談記録、現場部署からの受け入れ条件(残業の可否、出張対応、重量物作業など)、短時間勤務や業務軽減といった暫定的な措置案などが含まれます。
復職のプロセスでは、いきなりフルタイム勤務に戻すのではなく、数週間の短時間勤務や業務量を段階的に増やす「ステップ復帰」が標準です。これにより、本人の負担を和らげると同時に、再休職のリスクを下げる効果があります。復職後もフォローを続けることで、安定した職場復帰につながります。
判定会議の設計:役割分担と記録の型
復職可否を最終的に判断する場として「就業判定会議」を設けるのが実務的です。この会議には、人事部門、所属長、産業医(必要に応じて安全衛生担当)といった関係者が参加します。
事前に準備する書類は、主治医意見書、本人申請、上長の所見などです。会議ではそれらを基に「事故防止」「業務遂行可能性」「通勤を含めた生活リズム」の3観点から就業可否を整理します。
また、会議の議事録や決裁ルート、社員への通知文のテンプレートをあらかじめ用意しておくと、処理スピードが上がり、判断理由を記録として残すことができます。後日の紛争リスクを防ぐためにも、この「記録に残す仕組み」は欠かせません。
中小企業の現実解:産業医がいない場合の「外部資源」
地域産業保健センター(通称:地さんぽ)の活用
従業員数が常時50人未満の事業場では、法律上、産業医の選任義務がありません。しかし、だからといって健康管理や復職支援を全て社内だけで抱え込むのは難しいものです。そこで役立つのが「地域産業保健センター」です。
地域産業保健センターは、公的に設置された窓口で、産業医がいない事業場に対して無料でサービスを提供しています。医師による面接指導や健康相談、さらには職場訪問を通じた保健指導まで受けることができ、復職可否を判断する際の医学的な意見を補う仕組みとして機能します。所在地や提供メニューは厚労省の専用サイトから確認できるため、小規模企業の人事にとっては心強い外部資源です。
産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談
もう一つ活用できるのが「産業保健総合支援センター」、通称「さんぽセンター」です。全国47都道府県に設置されており、こちらも基本的には無料で、産業保健に関する相談や研修、情報提供を行っています。
例えば、復職支援プログラムをどう立ち上げれば良いか、長時間労働者への面接指導体制をどう整えるかといった制度設計レベルの相談も可能です。人事担当者が一人しかいない中小企業でも、標準的な支援体制を自社に取り込めるのが大きな利点です。
法定の医師意見聴取・面接指導の押さえどころ
外部機関を活用する一方で、法律で定められた最低限の健康管理措置も忘れてはいけません。例えば、定期健康診断で「異常の所見」が出た労働者については、就業上の措置を検討するために、3か月以内に医師の意見を聴取する義務があります。
また、長時間労働者には医師による面接指導を行う義務もあります。これらは復職判定そのものとは直接の関係はありませんが、休職・復職の運用を支える土台になります。したがって、中小企業であっても休職・復職の体制づくりと併せて、必ず法定の手続きを整備しておく必要があります。
まとめ:私傷病休職規程と復職判定フローを“前倒し設計”する
私傷病休職制度を考える際に重要なのは、条文そのもの以上に「運用の筋道」を先に描いておくことです。モデル就業規則を参考に、休職の発令要件や期間の考え方、復職可否の判断プロセスを前もって合意形成しておくことで、現場で迷う場面を大幅に減らせます。
さらに、健康保険の傷病手当金や労災保険の休業補償といった外部給付と、自社の就業規則との役割分担を整理しておくと、社員にとっても分かりやすい仕組みになります。加えて、復職判定の5ステップや、中小企業が産業医不在時に利用できる外部資源の情報までを「休職・復職の手引き」としてまとめれば、人事や上長、社員本人が同じ理解で動ける体制が整います。
最終的には、判断が人に依存しない仕組みを作り、再休職を防ぎ、社員と会社双方にとって安心できる制度運用につなげることがゴールです。
出典:厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月版)―第9条 休職・解説」
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第19条(解雇制限)」
出典:全国健康保険協会「傷病手当金—待期3日・支給期間・差額支給の取扱い」
出典:全国健康保険協会「傷病手当金(制度の概要)」
出典:厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法(FAQ)」
出典:鳥取労働局「労災給付の種類—休業(補償)等給付」
出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援(改訂版パンフレット要点)」
出典:厚生労働省 こころの耳「職場復帰に際しての支援(復職後の配慮)」
出典:厚生労働省「地域産業保健センター」
出典:労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」
出典:労働者健康安全機構「さんぽセンター Webひろば」
出典:秋田労働局「健康診断の事後措置(安衛法66条の4等)」
出典:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度」
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