カーブアウトとは?親子上場解消・資産売却における基本から実務の流れまで解説

カーブアウトとは――基本の考え方と「親子上場解消・資産売却」との関係
カーブアウトの定義と狙い(選択と集中・ガバナンス・資本効率)
カーブアウトは、会社の一部を切り出して第三者へ売る、あるいは別会社として独立させることを指します。背景には、事業ポートフォリオを軽くして成長領域へ資本・人材を振り向けたいという狙いがあります。
親会社と子会社の関係が複雑だと、意思決定や少数株主保護の観点で課題が出やすく、切り出して線引きを明確にすることで、ガバナンスをシンプルにできます。結果として、資本効率の改善や投資家との対話のしやすさにもつながります。
「資産売却」と「独立上場(スピンオフ)」の違い
資産売却は、事業の資産・負債・契約をまとめて第三者へ移す方法で、対価として現金を得るのが基本です。独立上場(スピンオフ)は、既存株主に新会社の株式を割り当てて上場させ、グループの外形を変えるやり方です。
前者は現金化による財務改善に向き、後者は事業の独立性と機動力を高めやすいのが特徴です。どちらも「何を目的に切り出すか」で適した手段が変わります。
親子上場の見直しが進む背景
日本では親子上場の改善が継続的なテーマになっています。少数株主保護やグループ経営の観点から、上場会社にはより丁寧な説明と開示が求められています。
東証は2025年2月に「親子上場等に関する投資者の目線」を公表し、投資家が重視する論点を示しました。親子上場の意義や資本配分の説明が弱いと評価が厳しくなるため、親子上場の解消や事業の切り出しを検討する企業が増えています。
出典:東京証券取引所『親子上場等に関する投資者の目線』(2025/2/4) 出典:東京証券取引所『親子上場等に関する投資者の目線(資料PDF)』
カーブアウトの代表的なスキーム
事業譲渡(資産・負債・契約を個別に移す方法)
事業譲渡は、売却する事業の資産・負債・契約を個別に移します。個別移転ゆえに、引き継ぐ契約ごとに同意や手続きが必要になりがちですが、売る範囲を柔軟に決めやすい利点があります。
会社法では、事業の全部や重要な一部を譲渡する場合、株主総会の特別決議など一定の手続きが求められます。実務では、のれんや在庫評価、引継要否の棚卸しを早めに進めると、後戻りを防げます。
会社分割(吸収分割・新設分割で一括承継)
会社分割は、対象となる権利義務を“束”で承継できるのが特徴です。吸収分割は既存会社へ、新設分割は新会社へ事業を移します。
対価は現金ではなく株式などを使えるので、売却というより「切り出して持つ」設計にも向きます。雇用契約や許認可の承継が制度上取り扱われる点も実務上のメリットで、広い範囲をすばやく移したい時に選ばれます。
子会社株式の売却/エクイティ・カーブアウト(株式を売って切り出す)
すでに子会社化している事業であれば、株式売却が最もシンプルです。持分の一部を外部に売る「エクイティ・カーブアウト」は、資金調達と独立性の両立をねらえます。
上場を前提に一部株を市場に出す設計もあり、第三者の視点を入れて事業の価値を“見せる”効果が期待できます。親会社の連結から外すかどうか、持分比率のラインを意識して検討します。
出典:e-Gov法令検索『会社法』(事業譲渡・会社分割に関する規定) 出典:経済産業省『事業再編実務指針』(2020/7/31)
親子上場解消の選択肢とカーブアウト
完全子会社化(TOB・株式交換等)で一本化する
親会社が上場子会社を完全子会社化して親子上場を解消する道があります。TOB(公開買付け)で少数株主の株式を取得し、その後の株式交換や吸収合併で一本化するのが典型です。
一本化の効果は、意思決定の速さと情報管理のシンプルさです。グループ内の重複コストや利益相反リスクも抑えやすくなります。買付け価格の妥当性や手続の公正性は、投資家の納得に直結します。
親会社の持分売却で親子関係を外す
逆に、親会社が持分を売って親子関係を外す選択肢もあります。たとえば過半を下回るまで売却すれば、親子関係は解消されます。
売却で得た資金を成長投資に振り向ける設計も取りやすく、グループ外の資本と組む形で事業の自立性を高められます。売却後の商流やブランド使用、共同開発などの“関係の残し方”を契約で丁寧に決めておくことが肝心です。
スピンオフ上場で独立させる(最近の制度変更をふまえて)
スピンオフは、対象事業を独立上場させる方法です。近年、東証はスピンオフに関する実務をアップデートしており、権利落ち日から上場可能とする方向や、指数算出の取扱いの明確化など、運用の透明性が高まっています。
独立後は資本市場の監視が働き、事業の可視化と意思決定の速さが期待できます。親会社にとっては、資産の“見える化”と資本効率の改善が狙えます。
出典:東京証券取引所『スピンオフ時における新規上場日の見直しについて』(2025/1/30) 出典:JPX『インデックス算出要領の改定(スピンオフ対応)』(2025/5/12 公表) 出典:JPX『市場区分の見直しに関するフォローアップ』(親子上場等の取組)
カーブアウトの実行プロセスとガバナンスの勘所
目的・範囲・タイムラインの設計(「なぜ今やるのか」を明確に)
最初に「なぜ切り出すのか」を言い切り、対象範囲と成果指標(売上・利益・投下資本など)をはっきりさせます。買い手探索、法的手続、許認可の承継、従業員・取引先への説明、クロージング後の移行(TSA:移行支援契約)まで、工程を逆算してタイムライン化します。
親子上場の解消を絡めるなら、取締役会決議や適時開示の節目を早めに押さえます。意思決定の速度は、社内の腹落ちと事前準備に比例します。 (一般的な解説のため、ここは出典なし)
情報開示と投資家対応(親子上場の“投資者の目線”)
東証は、親子上場に関して投資者の目線とのギャップを埋めるよう、具体例を示して開示の充実を求めています。たとえば「なぜ親子上場を続けるのか」「少数株主をどう守るのか」「資本コストに見合うのか」といった問いに、企業側の説明が薄いと、評価は厳しくなります。
カーブアウトや親子上場解消を選ぶなら、狙い・効果・代替案比較までを言葉と数字で出すことが重要です。 (一般的な解説のため、ここは出典なし)
独禁法・上場ルール・社内統制のチェックポイント
規模や組み合わせによっては、公正取引委員会への企業結合審査の対象になります。早めに市場シェアや競合状況を確認し、必要な届出やリメディー(条件付き承認)を見込みます。
上場関連では、適時開示やコーポレートガバナンス・コードの開示要請も念頭に置きます。社内では権限規程、重要情報の管理、誤発注や情報漏えいの防止など、基本の統制を“段取り”に落とし込みます。
出典:公正取引委員会『企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針』 出典:東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード(2021/6/11 改訂) 出典:東京証券取引所『親子上場等に関する投資者の目線』
カーブアウトにおける税務・会計・人・契約の実務ポイント
税務の基本的な見方(事業譲渡と分割で違う)
事業譲渡と会社分割では、課税関係や登録免許税の扱いが変わります。個別移転の事業譲渡では譲渡益課税のほか、資産ごとの税務論点が発生しやすく、スケジュールにも影響します。
分割では一定の要件を満たす適格分割に該当するかどうかが焦点になり、要件次第で課税繰延べの可否が変わります。近年は事業再編計画の認定に伴う税制優遇も整備されているため、制度の利用可否を早期に確認します。
会計・評価・価格設定(分離した事業の“見える化”)
カーブアウトでは、対象事業の独立した損益・資産・キャッシュフローを作る「カーブアウト財務情報」の整備が肝心です。社内管理ベースで混在していた費用の配賦ルールを決め、IFRS/日本基準に沿って外部に説明できる形に整えます。
価格設定では、将来の事業計画、シナジー、のれん、運転資本の調整などが議論になります。スピンオフやエクイティ・カーブアウトの場合は、資本市場の評価を踏まえたレンジの設計がポイントです。
人・IT・契約の切り出し(TSAsと“日常を止めない”工夫)
人事・就業規則・労使コミュニケーション、ITシステム、知財・データ、販売や仕入の契約など、切り出しの実務は細部が勝負です。クロージング後も一定期間は親会社の機能を貸す移行支援契約(TSA)を設け、給与計算や基幹システム、物流など“止められない業務”を支えます。
許認可や品質認証は移管計画とリスクの洗い出しを早めに行い、外部コミュニケーションの計画も同時に準備します。 (一般的な解説のため、ここは出典なし)
出典:経済産業省『事業再編の促進(産業競争力強化法)』 出典:経済産業省『特別事業再編計画に係る税制利用者向けガイドライン』
まとめ――カーブアウトは「残す筋」と「手放す筋」を言葉と数字で説明できる準備を
カーブアウトは、資産売却や親子上場解消を通じて、事業の“輪郭”を描き直す取り組みです。まずは「なぜ今やるのか」「切り出した後に何が良くなるのか」を一枚で説明できるように整理します。
次に、目的に合ったスキームを選び、法律・税務・会計・人・契約を並走させる段取りを固めます。最後に、投資家や関係者に向けて、数字とストーリーでわかりやすく伝えます。準備の深さが、スピードと品質を決めます。
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