株主価値を最大化!ストックオプション・プール「適切な規模」設定ガイドー資金調達と将来の採用計画から逆算する方法を解説

ストックオプション・プールの基本(定義と“完全希薄化”)
プールとは何か:目的と範囲を最初に固定する
ストックオプション・プールとは、将来の採用や昇格に備えて確保しておく「従業員向け株式インセンティブの原資」です。このプールから個別のオプションを付与し、権利確定(ベスティング)や行使価格といったルールに従って運用します。
「ストックオプション プール 何%が妥当か」という議論を始める前に、まずはプールの基本設計を明確にしておく必要があります。たとえば「対象は正社員か役員も含めるのか」「制度はSO(ストックオプション)だけかRSUも含むのか」「見直しは毎年か資金調達時か」といった点を整理し、契約書や社内規程に明文化します。
一般論として「10%前後が目安」と言われますが、実際の必要量は採用の難易度や役職構成によって異なります。したがって、外部相場を鵜呑みにするのではなく「自社の採用計画から必要株数を逆算する」というアプローチが安全です。
“完全希薄化”の見方:何に対する何%かを揃える
ストックオプション プール 何%の目安を検討する際に避けて通れないのが“完全希薄化(Fully Diluted)”という考え方です。これは、発行済株式に加えて、将来発行される可能性のある株式(未行使のストックオプション、未付与だが予定されているプール上限、ワラントなど)をすべて含めた株式総数を分母とするものです。
プールは通常「完全希薄化ベースでポストマネー評価額の○%」として定義されます。たとえば「ポストマネーで15%のプールを確保する」といった表現です。米国ベンチャー協会(NVCA)のモデルタームシートでも、この形で計算されることが多く、世界的な標準となっています。
注意すべきは、完全希薄化の定義が曖昧だと、投資契約やキャップテーブルで齟齬が生じる点です。そのため、プールの内訳(既存SO、未発行プール、ワラント等)をきちんと契約書に書き込み、社内外で同じ前提を共有することが必須です。
何%を巡る議論が起きる理由:採用・希薄化・交渉の三重構造
「ストックオプション プール 何%が目安か」という議論が単純ではないのは、実際には次の3つの要素が重なり合うからです。
採用原資:何人をどの職位レンジで採用するか。
希薄化負担:プール確保による既存株主と投資家の持分減少をどう配分するか。
交渉設計:プール補充をプレマネーに算入するのか、ポストマネーで考えるのか。
実務では「ポストで15%のプールを用意、ただしその全量をプレに算入」という投資家の要望が典型的です。この場合、表面的には“ポストで15%”と説明されますが、実際には既存株主が大きく希薄化する構造になります。米国のCooleyやY Combinator(YC)の解説でも、「プールはポストで語られながら、負担はプレに寄せられる」のが一般的慣行と明記されています。
したがって、実務での答えは「必要量を正確に見積もり、不要な前倒し補充は避ける」ことに尽きます。相場感だけでなく、自社の採用ロードマップを前提にした“逆算”が交渉の出発点になるのです。
何%が目安か(日本の実勢と海外ベンチマーク)
日本の“当たり相場”:まず10%、シリーズA前後で15%へ
日本国内では、創業〜シード段階で「発行済株式の10%程度をプールとして確保する」というパターンが一般的です。10%は「初期の数名採用+キーパーソンの上積み」を回す最低ラインと考えられています。そして採用が本格化するシリーズA前後で、プールを15%に厚くする設計が増えてきました。
国内VCや実務解説記事では「10%が標準、15%ならやや厚め」と整理されることが多く、米国の水準と比較すると控えめです。背景には、日本市場における株式報酬の文化浸透度や、キャッシュ報酬とのバランスの取り方があります。今後は人材獲得競争が強まるにつれて、海外の慣行に近づいていく可能性もあります。
米欧の相場感:Seedで10%、Aで15%、成長局面で20%超も
米国や欧州のスタートアップでは、より積極的にプールを確保するのが一般的です。Index Venturesの調査「Rewarding Talent」では、Seedラウンドで10%、シリーズAで15%、成長局面では20〜25%に拡張するのが典型とされています。
これは、フェーズが進むにつれて採用する人材の役職が上がり、1人あたりに必要な付与株数が大きくなるためです。役員やVPクラスの採用が増えると、プールを厚くして「渡せるカード」を確保しないと競争に勝てなくなるのです。
汎用の目安:10〜15%を起点に“採用計画から逆算”して調整
複数のデータベースや金融機関の記事では「多くのスタートアップが10〜20%のプールを確保している」と解説されています。現実的には、Seed〜シリーズAで10〜15%を置き、採用状況を見ながら不足分をトップアップする、という段階的な運用が多く見られます。
重要なのは「確保した%=すぐに全量付与」ではないことです。実際にはバーンレート(消化速度)を見ながら、必要に応じて年次やラウンドごとに追加していきます。最初から大きなプールを積むよりも、「必要最小限で始め、採用の進展に応じて補充する」方が希薄化のコントロールがしやすいのです。
作り方とネゴの勘所(プレ/ポスト、オプションプール・シャッフル)
“プレで入れるか、ポストで入れるか”で希薄化が激変する
ストックオプション プール 何%をどう設計するかは、単に数字の大小だけでなく、「プレマネーで算入するか」「ポストマネーで算入するか」という会計上の前提によって大きく結果が変わります。
投資契約のタームシートではよく「ポストマネーで15%のプールを確保。ただしその15%をプレマネーに算入する」という条件が置かれます。この場合、投資家は自分たちの持分を薄めずに済む一方で、既存株主(創業者や初期メンバー)が多くの希薄化を負担することになります。
この“見えにくい落とし穴”を理解していないと、ストックオプション・プールの何%が目安かという議論が、気づかないうちに創業者の負担増で終わってしまうこともあります。Y CombinatorやCooleyの解説でも繰り返し指摘されるように、「どの時点で何%と定義しているか」を条文で明確にして、必要量以上の前倒し補充を避けることが重要です。
“オプションプール・シャッフル”を見抜く:不要な前倒し補充に注意
交渉の現場でよくあるのが、投資家が「大きめのプールを先に確保しよう」と主張し、その上でプレマネーに算入させるパターンです。これは、創業者や既存株主にだけ希薄化の負担を押し付けるやり方で、“オプションプール・シャッフル”と呼ばれます。
たとえば「20%のプールを用意しましょう。その20%はプレマネーで算入します」と言われると、一見合理的に聞こえますが、実際には投資家の持分が守られる一方、既存株主の持分が大幅に減少します。Kruze Consultingなどの解説では、このシャッフルを避けるために「採用計画に基づいた必要最小限のトップアップ」に絞ることを推奨しています。
また、Post-Money SAFEのような仕組みを使っている場合、プールの設計が持分計算に直結するため、余計に影響が大きくなります。必ずエクセルなどでシミュレーションを行い、前倒し補充が不要に大きな負担になっていないか確認することが欠かせません。
“完全希薄化の定義”とモデル文書で、計算式の齟齬を防ぐ
ストックオプション プール 何%の議論を整理するときに、もう一つ重要なのが「完全希薄化の定義を揃える」ことです。
たとえば、分母に含めるのは「発行済株式+未行使のSO+未発行プール+ワラント+転換証券」なのか、それとも「発行済株式+未行使SOだけ」なのか。この違いだけで、同じ10%でも実際の株数や希薄化の度合いは大きく変わります。
米国ベンチャー協会(NVCA)のモデル文書(タームシート、投資家権利契約など)では、完全希薄化の内訳を細かく定義することが推奨されています。これに倣って契約書に書き込めば、ラウンドごとの交渉、監査、投資家向け開示資料でも齟齬が起こりにくくなります。社内のキャップテーブル運用も同じ数式で統一することで、将来の混乱を防げます。
採用計画から“逆算”する:必要株数→プール%
役職別レンジを置いて人数計画にのせる
ストックオプション プール 何%が妥当かを決めるためには、「どの役職を何人採用するか」という採用計画から逆算するのがもっとも確実です。
たとえば、早期に採用するVPクラスには1〜2%程度、シニアマネージャーには0.5%前後、ミドル層や若手には数百bps(0.1%未満)を割り当てるといったレンジがあります。この“役職ごとの付与レンジ × 採用予定人数”を掛け合わせ、その合計に安全余裕(20〜30%程度)を加えれば、直近12〜18か月に必要なプールの大きさが見えてきます。
この計算を行うと「相場で言われる10%〜15%」が、自社にとって十分か不足かを具体的に判断できるようになります。つまり「逆算の作り方」が、ストックオプション プール 何%を決めるうえで一番の実務的な指針になります。
バーンレート(消化速度)とトップアップの運用
確保したプールがどれくらいのスピードで消化されているかを把握するために、“バーンレート”という指標を月次で管理します。
たとえば「1年で5%消化」というペースなら、残量が5%を切った時点で追加補充(トップアップ)を検討する、といった早期警戒ルールを置くことができます。Andreessen Horowitzのレポートでも「上場2年前には、株式インセンティブの残量が採用制約になり得る」と指摘されています。
そのため、いきなり大きなプールを積むのではなく、「年次で少量トップアップ→資金調達ラウンドでまとめて見直し」という二段構えの運用が効率的です。バーンレートを見ながら動的にコントロールすることが、結果的に“必要なときに必要な株数を渡せる”仕組みにつながります。
ラウンド別の“増やし方”:Seed 10〜12%→Aで15%→B以降は計画次第
海外の調査(Index Venturesなど)では、「シードで10〜12%、シリーズAで15%、成長局面では20%」というプール拡張のカーブがよく紹介されます。
これは、シード期には創業メンバーや初期社員への配分が中心ですが、シリーズAでVPクラス、シリーズB以降で中堅・大量採用といった流れに対応しているためです。国内では採用テンポが米欧より穏やかな場合も多いので、「シードで10〜12%→Aで必要分だけ追加→Bで改めて再計算」といった段階的アプローチが現実的です。
プールの目安を外部相場に頼るだけでなく、「採用人数表 × 役職別レンジ」をベースに自社の必要株数を算出し、それに沿って補充していくことが、もっとも合理的で投資家にも説明しやすい方法です。
よくある落とし穴(SAFE、会計・定義差、過大プール)
Post-Money SAFEと大きすぎる初期プール
スタートアップで資金調達の際によく使われるPost-Money SAFEは、ストックオプション プール 何%をどう置くかで既存株主の希薄化が大きく変わります。SAFEは株式転換の数式があらかじめ定義されているため、プールが大きければ大きいほど、創業者や初期投資家のシェアが薄まる仕組みになっています。
とくに初期に「安心のために20%くらい確保しておこう」と大きなプールを積んでしまうと、採用が追いつかない場合に“ただの負担”として残り、希薄化の先食いになってしまいます。弁護士や専門家の解説でも「初期は必要最小限、付与や採用の進捗に応じて段階的に補充するべき」と繰り返し指摘されています。
SAFEとプールの関係は一見わかりにくいですが、株数ベースでシミュレーションを行うと直感的に理解できます。資金調達を検討している段階で、必ずキャップテーブルをExcelなどに落として確認しておくと安全です。
定義と計算式のズレ:完全希薄化の分母・分子を統一
ストックオプション プール 何%の議論で見落としがちなのが、“完全希薄化の分母や分子の定義が契約書ごとに違う”という問題です。
たとえば、ある契約では「未行使のSOと未発行のプールを含める」と書いてある一方、別の契約では「未行使のSOだけを含める」となっているケースがあります。この場合、同じ“10%のプール”でも、実際の株数はまったく違ってしまいます。
米国ベンチャー協会(NVCA)のモデル契約では、完全希薄化の分母に含める対象を詳細に定義することが推奨されています。こうした標準文書に揃えて定義を固めれば、将来のラウンドや監査、投資家への開示資料でも「どの数字が正しいのか」で混乱せずに済みます。
社内台帳の管理も契約書の数式と同じに統一し、投資家向け資料と差異が出ないようにしておくと、説明負担が大幅に減ります。
“大きければ安心”は誤り:過大プールは希薄化の先食い
創業期によくある誤解は、「大きなストックオプション・プールを先に確保しておけば安心だ」という考え方です。しかし実際には、必要以上に大きなプールは“希薄化を前倒しするだけ”であり、使い切れない場合は株主全体の損になるだけです。
重要なのは「採用計画から逆算してプールを設計すること」。まずは10%程度から始め、必要に応じて少しずつトップアップするのが基本です。バーンレート(消化スピード)を観察しながら運用すれば、投資家にも「計画的に管理している」と安心感を与えられます。
つまり、過大プールは安心材料ではなく、むしろ資本効率を悪化させるリスクになるのです。
まとめ:まず“10〜15%”を起点に、採用から逆算して動的に運用する
ストックオプション プール 何%の目安について、実務的に整理すると以下のようになります。
シード期は10〜12%、シリーズA前後で15%、成長局面では20%も視野に入る。
ただし、数字ありきではなく「役職別の付与レンジ × 採用人数計画」から逆算するのが基本。
投資家との交渉では「プレで算入するのか、ポストで算入するのか」を明確にし、オプションプール・シャッフルのような不要な前倒し補充は避ける。
完全希薄化の定義をモデル文書に合わせて固定し、社内外で共通の前提を持つ。
バーンレートをモニタリングし、段階的なトップアップで必要量を確保する。
つまり「相場は地図、採用計画はコンパス」です。まずは10〜15%を基準に据えつつ、自社の成長戦略と採用テンポに合わせて調整し、資本政策と人材戦略をつなげる“運用設計”こそが最終的な答えになります。
出典:Carta「Option Pool Definition: How to Size Your Employee Equity Pool」
出典:NVCA「Model Legal Documents / Model Term Sheet」
出典:Cooley GO「Negotiating the Option Pool」
出典:Y Combinator「The YC Standard Deal」
出典:Delight Ventures「ストックオプション日米比較(日本10%、米国20%前後の実勢)」
出典:片田氏note「ストックオプションを設計するときに最初に読むnote」
出典:Index Ventures「Rewarding Talent(ESOP size at seed / Series A)」
出典:Silicon Valley Bank「Equity Dilution for Early-Stage Startups」
出典:Kruze Consulting「Option Pool Shuffle」
出典:Andreessen Horowitz「Executive Compensation(希薄化・プール運用の留意点)」
出典:Silicon Hills Lawyer「Seed-Stage Startups Should Shrink Their Option Pools(Post-Money SAFEの影響)」
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