アカウントベースドセリング(ABS)とは—1社ごとに深く攻め、勝ち筋を太くする(2025年版)

アカウントベースドセリング(ABS)とは—1社ごとに深く攻め、勝ち筋を太くする(2025年版)
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アカウントベースドセリング(Account-Based Selling, ABS)は、価値の大きい“特定の企業アカウント”に的を絞り、関係者を面で押さえ、個別事情に合わせて粘り強く提案を組み立てていく営業の考え方です。リードの量を追うよりも、成約の確度と取引の質を上げることに力点を置きます。 マーケティング側のABM(Account-Based Marketing)と連動させると効果が大きく、営業・CSまで含めた横断運用(RevOps)と相性が良いアプローチです。

アカウントベースドセリング(ABS)とは(基礎とABMとの関係)

ABSの定義と適用領域

ABSは、ハイタッチが必要なB2B取引で力を発揮します。対象となる企業をあらかじめ選び、相手の組織構造や課題、導入プロセスを読み解きながら、複数の関係者に合わせて対話と提案を積み重ねます。

狙いは“大きい一社”を着実に前へ進めることで、単発の受注ではなく、継続や拡大につながる関係を育てる点にあります。一般的なリード主導のやり方と異なり、アカウント単位での計画・実行・計測を行い、成功の再現性を高めます。

ABMとの違いと組み合わせ方

ABMは“選んだ企業に合わせて的確に働きかける”という意味でABSと思想は近いのですが、主導する機能と役割が異なります。ABMはマーケが中心となってキャンペーンやコンテンツで関心を喚起し、ABSは営業が中心となって関係者ごとにアプローチを調整しながら商談化と成約を進めます。

両者を分業ではなく往復でつなぐと、アカウント内の複数の糸口(部署・役職・課題)を同時に捉えられます。実務ではABMの接点データをABSの活動計画に落とし込み、結果をまたABMに返す循環が鍵になります。

ABSが解く課題(歩留まり・確度・フォーキャスト)

大口案件ほど、購買は非線形で、複数の“買い手の仕事”が行きつ戻りつ進みます。アカウント単位で関係者を面で押さえるABSは、この前提に合った動き方です。早い段階から確度の高い見込みを育てることで、パイプラインの質と予実の精度が上がります。ABMの反応だけに頼らず、営業側の洞察と関係構築で“決まる可能性の高い案件”を太らせることができ、ムダ打ちを減らせます。

出典:Salesforce「What is Account-Based Selling?」
出典:Salesforce「Account-Based Marketing Guide」
出典:HubSpot「Account-Based Marketing Guide(2025年更新)」
出典:Gartner「B2B Buying Journey(非線形の購買行動)」

アカウントベースドセリングの設計(誰に集中し、どう勝ち切るか)

ICPとターゲットアカウントの選定——“合う相手”を見極める

最初の山場は“どの企業に集中するか”の選定です。自社の勝ちパターンに合う業種・規模・テクノロジー環境(テクノグラフィック)・事業状況を言語化し、ICP(理想顧客像)をチームの共通言語にします。次に、意図データ(インテント)や既存の商談履歴を照合し、今動きが出ているアカウントを優先順位づけします。汎用の営業名簿ではなく、動機のシグナルが出ている先にリソースを寄せるほど、歩留まりが良くなります。

バイイングコミッティの把握と訴求の作り分け

B2Bの購買は複数人で意思決定されます。技術、業務、財務、セキュリティなど、それぞれの観点で“心配している点”が違います。アカウントごとに関係者の地図を作り、役割・関心・阻害要因を整理します。

同じ製品でも、CTOには技術適合とリスク低減、現場マネージャーには生産性と運用のしやすさ、CFOには投資回収のスケジュールを中心に語るなど、話の芯を変えます。コミッティ全体が“同じゴールイメージ”を持てるよう、資料とメッセージを連動させます。

成功指標の置き方——アカウント単位で測る

ABSでは、個別リードのMQL数よりも、アカウントの温度感と進展で見ます。典型指標は、アカウントエンゲージメント(接点の深さ・幅)、マルチスレッド率(関係者の横展開度合い)、ステージ進展率、勝率、ディールの速度、平均取引規模などです。ABM由来の触れられ方(広告視認・コンテンツ回遊)と、営業の接点(メール・ミーティング・PoC)をひとつの時間軸に重ね、アカウントの“前進”をチームで共有します。

出典:Demandbase「How to Identify Accounts for ABM」
出典:Demandbase「ABM Intent Dataの使い方」
出典:https://www.gartner.com/en/sales/insights/b2b-buying-journey

アカウントベースドセリングの実行プロセス

デマンド→エンゲージ→会議設定の動線設計

ABMが作った気配(広告接触、資料ダウンロード、イベント参加など)を、営業側の最初の一手に結びつけます。最初から商談化を急がず、相手の状況に合わせて“なぜ今か”を解きほぐす対話を重ねます。

関係者ごとに価値仮説を用意し、メールやLinkedInでのタッチ、短い調査打診、価値検証ミーティング(PoV/PoC)へと段階を組みます。会議が入ったら、単発で終わらせず、次の関係者への紹介や評価軸のすり合わせまでをセットで決めます。

コンテンツとチャネル戦略——1:1/1:few/1:manyの使い分け

アカウントの重要度と温度に応じて、投下する労力を変えます。トップ層の1:1では、相手企業固有の課題に踏み込み、事例や効果試算をカスタム化します。中位の1:fewでは、業界や役割を絞った小規模ウェビナーやワークショップを設計します。

広く種まきする1:manyでは、ABMキャンペーンと連動したコンテンツで想起を作ります。チャネルはメール・電話・LinkedIn・イベントを組み合わせ、会話の履歴を一元管理して“次に何を話すか”を全員で共有します。

パイプライン運用と進捗管理——“面で追う”の型

ABSの案件は、担当者個人ではなくアカウントの“面”で管理します。会議が増えても、関係者の横展開が進まなければ前進は止まります。

各ステージの出口条件を明確にし、合意済みの評価軸や導入スコープなど、次の関門を一つずつクリアにします。週次のレビューでは、スレッド数、キーパーソンの関与度、残課題の明確さを点検し、足りない関係者を誰がどう開くかを具体化します。

出典:Outreach「Account-Based Selling: The Ultimate Guide for 2025」
出典:Sendoso「What is Account-Based Selling? + 6-Step Framework」
出典:HubSpot「Account-Based Marketing Guide(戦術とチャネル)」

ABS × ABM × RevOpsの連携設計

マーケ連携——意図データとシグナルの営業活用

意図データやサイト回遊、広告反応など、ABMのシグナルは営業の“次の一手”の材料になります。たとえば特定の製品ページ滞在や競合比較の閲覧が増えたら、次の接点で扱う論点を変えます。

営業が得た現場の反応は、ABMのクリエイティブとターゲティングの改善にそのまま返します。信号の往復を素早く回すほど、アカウント内での存在感が増します。

CS連携——ランド&エクスパンドを前提に設計する

受注がゴールではありません。オンボーディングの計画、初期価値の到達、利用拡大の道筋までを営業・CS・プロダクトで合意し、更新・拡大の起点を早めに仕込みます。利用状況のスコアやヘルス指標は、拡大提案の“客観的根拠”になります。

営業が約束した価値をCSが現実に落とし、CSが見つけた深掘りポイントを営業が拾い直す。この往復を仕組みで回すと、NRRの改善が当たり前になります。

ダッシュボードとプレイブックで共通言語化

ABSは関係者が多いため、定義のズレが成果を削ります。ダッシュボードでは、アカウントの温度・スレッド数・進展・見込み額を同じ指標で見ます。

プレイブックには、業界別・役職別の“次の一手”を用意し、会議の合意事項や宿題の管理を型にします。マーケ・営業・CSが同じ地図で歩けるほど、意思決定が速くなります。

出典:Demandbase「ABM Intent Dataの使い方」
出典:6sense「Proven ABM Tactics in 2025」
出典:Salesforce「Revenue Lifecycle Management」

ツール・データ基盤とベンダー動向

主要ツールの役割感(意図データ/ナビゲーション/セールス実行)

ABS/ABMでよく使われるのは、意図データとアカウント特定(6sense、Demandbase)、アカウント探索と接点管理(LinkedIn Sales Navigator)、セールス実行基盤(Outreach、Salesloft、CRMなど)です。

大切なのは“数を増やすこと”ではなく、CRMを中心に同じ定義とデータでつなぐことです。導入済み環境に合わせ、段階的に統合すると運用が安定します。

意図データとファーム・テクノグラフィックの使いどころ

意図データは“今まさに情報収集している”兆しを捉えるのに向きます。ICPと突き合わせて優先アカウントを抽出し、ABSのリソース配分に反映します。

ファームグラフィック(業種・規模)やテクノグラフィック(導入技術)と組み合わせると、訴求の解像度が上がります。プラットフォームの比較・選定では、精度だけでなく、社内のデータとどれだけ“同じ意味”で扱えるかを重視します。

ガバナンスと日本市場での留意点

アカウント単位の深い調査と接点が増えるほど、権限や記録の扱いが重要になります。CRMを“唯一の正”として定め、アクセス権限、変更履歴、共有ルールを最初に固めます。

日本では部門を超えた合意形成に時間がかかることが多く、アカウント内の“社内政治”も無視できません。意思決定に関わる人の地図を早めに作り、合意取りの手順をプレイブック化すると、安定して前に進めます。

出典:LinkedIn「How to use Sales Navigator(アカウントリスト活用)」
出典:6sense「Intent Data Platform(6AI)」
出典:Demandbase「How to Identify Accounts for ABM」
出典:Forrester Wave(Intent Data Providers 2025, 抜粋ページ)

まとめ

ABSは、“量より質”で勝つための営業の型です。アカウントを選び、関係者を面で押さえ、相手の事情に合わせた一手を積み重ねます。ABMのシグナルを営業の具体行動に落とし、結果をまたABMに返す往復を仕組みにしておくと、パイプラインの質と予実の精度が上がります。

ツールはCRM中心に“同じ定義とデータで動く”ことを第一に、意図データやナビゲーションを段階的に重ねます。関係者が増えるほどズレも増えますが、ダッシュボードとプレイブックで共通言語化すれば、組織の学習速度が確実に上がります。

カテゴリー:営業・販売

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