「リテールメディア戦略 2025」完全ガイド—小売×広告を“売上に結びつける”実務

2025年のリテールメディア戦略の前提(定義・動向・KPI)
リテールメディアの基本と2025年に押さえるべき要点
リテールメディアとは、小売やECが持つ接点(ECサイト、アプリ、メール、店頭サイネージなど)と購買データを活用して、広告主に広告枠とターゲティングを提供する仕組みです。
英語ではRetail Media Network(※RMN=小売が運営する広告ネットワーク)と呼ばれます。2025年の実務では、サイト内・外部媒体・店頭を横断して一体で設計し、同じ指標で効果を読み解くことが重要です。
本稿では、はじめに“自社が何を計測して証明するか”を決めることを出発点にします。目的が定まると、メニュー選定や体制設計の判断がぶれにくくなります。
市場の現状と投資の考え方(日本と海外)
海外では小売起点の広告が伸び続けています。成長を支えるのは、購買データの強さ、サードパーティクッキー縮小への対応、店頭とECを横断した運用の広がりです。日本でもデジタル広告が市場を引き上げており、動画やコネクテッドTVと小売データを組み合わせる余地が広がっています。投資判断では、話題の手法から入るのではなく、「自社の接点で何を計測できるか」から逆算して優先度を付けます。これにより、短期の成果と中長期の基盤づくりを両立できます。
KPI設計の基本方針(クリック偏重を避ける)
KPIを決める際には、クリック率(※CTR=表示に対するクリックの割合)や掲載位置だけで評価を終わらせないようにします。
広告が実際の行動や売上にどの程度影響したかを確認するために、カゴ投入、購入、SKUやカテゴリ別の売上、指名検索(ブランド名での検索)や再訪といった指標を段階的に追います。販促費を使う場合は、広告がなければ起きなかった上積みを示す“増分効果(※インクリメンタリティ)”の検証をあらかじめ計画に組み込みます。
出典:McKinsey「The evolution of commerce media」
出典:電通「2024年 日本の広告費」
出典:IAB/MRC「Retail Media Measurement Guidelines(2024)」
出典:IAB Europe「Retail Media Measurement Standards(2024)」
収益モデルと商品設計(媒体事業として成立させる)
小売側の収益源と運用範囲(面・オーディエンス・計測)
小売は三つの柱で収益化します。第一に広告面(EC内検索の上部、カテゴリの特集、商品詳細下の枠、店頭サイネージなど)を販売します。第二にオーディエンス(会員属性や購買履歴にもとづく配信セグメント)を商品化します。第三に計測・インサイト(効果検証や購買分析)を提供します。
販売形態は、定額の掲載保証、クリック課金や成果課金(※CPA=獲得単価、※ROAS=広告費1円あたりの売上)、両者のハイブリッドが中心です。開始時点で、枠の定義、入稿基準、計測指標、レポート粒度を文書化すると、営業と運用の解釈が一致してトラブルを防げます。
メーカー側の使いどころ(宣伝費と販促費の橋渡し)
メーカーは、宣伝費(認知形成)と販促費(売り場起点の購入促進)をまたぐ媒体として活用します。新商品は発売初期にEC内検索と棚前サイネージで接触を集中させ、初回購入とリピートの両方を追います。
既存商品の底上げでは、カテゴリ来訪者への再訴求や関連商品のレコメンドが有効です。販売チャネルごとに反応が異なるため、「EC Aは検索×推薦」「店舗Bはサイネージ×クーポン」のように、期初に仮説を置き、月次で配分を見直します。
価格と在庫の設計(枠・オーディエンス・成果課金)
価格を決める際には、面の価値(視認性、回遊、競合密度)、オーディエンスの精度(購買に近いか)、計測の厳密度(重複除去や帰属の考え方)を基準にします。オンサイトは在庫が有限なので、希少性が価格を押し上げます。
オフサイトは配信量を伸ばしやすい一方で、IDや同意、重複除去の前提が価格の根拠になります。初期は“定番3メニュー+オプション”に絞り、需要を見ながら段階的に拡張します。測定の定義はIAB/MRCやIAB Europeのガイドに合わせると、社内合意が取りやすくなります。
出典:IAB/MRC「Retail Media Measurement Guidelines(2024)」
出典:IAB Europe「Retail Media Measurement Standards(2024)」
広告プロダクト設計(オンサイト・オフサイト・店頭)
オンサイトの三点セット(検索、推薦、特集)
オンサイトでは、まず三つの柱を整えます。第一にEC内検索のスポンサード枠です。検索意図が明確なので、入札や在庫消化の調整が行いやすく、売上とROASの改善を狙えます。
第二に商品詳細やカゴ付近の関連推薦です。買い増しやついで買いを促す役割があり、単価の引き上げに寄与します。第三にカテゴリや特集ページです。比較や選び方の記事と組み合わせると、回遊が増えて指名検索の伸びにつながります。各面のKPIを分けて設計し、改善の焦点を明確にします。
オフサイト配信の考え方(SNS・動画・ディスプレイ)
会員や購買データにもとづき、SNS・動画・ディスプレイに広告を配信するのがオフサイトです。新規拡張(類似拡張)でリーチを獲得し、ECや店頭へ戻して購入につなげます。評価では、複数媒体にまたがる重複を除くことと、どの接点が成果に寄与したかを決める帰属の考え方が重要です。
確定ID(ログインなど)で追い切れない部分は、確率的な推定を併用し、その仮定と限界をレポートで明示します。ビューアビリティや動画の完視率は、IABの定義に合わせると比較がしやすくなります。
店頭サイネージとECの連動(DOOHの活かし方)
店頭や館内のデジタルサイネージ(※DOOH=Digital Out Of Home)は、入店前・入店直後・棚前・会計前で果たす役割が異なります。店舗のゾーンごとに目的を分けて設計し、ECの特集やクーポンと連動させると、接触から購入までの流れが途切れません。
効果検証は、A/Bテストや店舗間比較といった現実的な方法から始めます。媒体側、店舗運営側、メーカー側で共通の実験設計を持つと、検証の再現性が高まります。
出典:IAB Europe「Retail Media Measurement Standards(2024)」
出典:IAB「DOOH & In-Store Retail Media Playbook(2024)」
データ・計測・アトリビューション(検証の土台)
計測の前提条件(ID・同意・データ品質)
計測を始める前に、誰を追えているか(ID)と、その利用に同意があるか(オプトイン)を確認します。使うIDは、会員ID、ログイン、クッキー、端末の広告ID(※MAID=Mobile Advertising ID)などです。
目的外利用や第三者提供、匿名加工の扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインに沿って社内規程に落とし込みます。あわせて、欠損や重複、表記ゆれの正規化といったデータ品質を点検します。ここが曖昧だと、効果検証の信頼性が揺らぎ、後からやり直しが発生します。
売上貢献の示し方(CV/ROASと“増分効果”)
ECでは購入(※CV=コンバージョン)と売上で評価し、店頭ではPOSデータやレシート連携で検証します。短期ではCVやROASで成果を可視化し、中期では広告がなければ発生しなかった上積みを示す“増分効果”をテストコントロール(暴露群と非暴露群の比較)で測ります。
確定IDだけで追えない部分は、確率的な推定を用いて補完します。その際は、推定方法、誤差の幅、想定している前提をレポートに明記します。
ダッシュボード設計(粒度と比較軸を先に決める)
ダッシュボードを作るときは、最初に“毎日見られる速さ”と“見る粒度”を決めます。SKU/カテゴリ/店舗を軸にし、前年・前期・非配信店などの比較軸をそろえます。
反応が速い指標(閲覧、カゴ投入)と遅い指標(売上、リピート)を別タブに分けると、会議での議論が整います。定義を変更する場合は、変更時点を明記したうえで旧定義の数値を残し、連続性を確保します。
出典:個人情報保護委員会「法令・ガイドライン」
出典:IAB/MRC「Retail Media Measurement Guidelines(2024)」
出典:IAB Europe「Retail Media Measurement Standards(2024)」
組織・運用・法令対応(2025年に外さないポイント)
体制づくり(営業・運用・分析・制作の分業)
少人数のチームであっても、役割名と依頼手順を決めることで混乱を大きく減らせます。営業はメニュー設計と提案を担い、運用は入稿や入札、枠管理を担当します。
分析はレポート作成と検証設計を受け持ち、制作はクリエイティブと特集面を作ります。依頼票とSLA(対応期限の目安)を決め、外部パートナーと共有する指標の定義をIAB系の基準に合わせると、レポートの読み合わせがスムーズになります。
取引の透明性と品質管理(第三者基準の活用)
2025年は、どこに配信して何が起きたかを説明する透明性がより重要になります。ビューアビリティ、不正トラフィック、ブランドセーフティの基準は、IAB系の定義に合わせると、媒体・代理店・広告主の合意が取りやすくなります。
日本ではデジタルプラットフォームの透明性・公正性に関する評価やガイダンスが公開されているため、報告書の観点を設計段階から取り入れると、監査に耐える運用になります。
個人情報と表示ルール(同意・クッキー・ステマ対策)
個人情報とクッキーの取り扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインと社内規程に沿って運用します。ユーザーの同意範囲を超える用途変更は避け、第三者提供や越境移転がある場合は手順を明文化します。
表示面では、ステルスマーケティング(広告であることを隠した投稿)が景品表示法の対象です。タイアップ記事やレビューを使う場合は、「広告・PR」の明示を徹底し、社内の運用基準を整えます。
出典:経済産業省「デジタルプラットフォームの透明性・公正性(フォローアップ資料)」
出典:個人情報保護委員会「法令・ガイドライン」
出典:消費者庁「ステルスマーケティングは景品表示法の対象」
まとめ(2025年のリテールメディア戦略の要点)
2025年の実務では、サイト内・外部媒体・店頭を一体で設計し、面・オーディエンス・計測をセットで商品化します。KPIはクリックだけでなく、行動、売上、想起を段階的に追います。計測では、IDと同意、データ品質を土台にし、短期のCV/ROASと中期の増分効果を両立させます。
運用では、透明性と品質管理を前提にし、個人情報と表示ルールを最初から仕組みに組み込みます。背伸びをせず、測れる範囲から積み上げる姿勢が、結果的に最短距離になります。
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