AIナレッジマネジメントの企業事例2025—現場で成果が出た型と導入のコツとは

AIナレッジマネジメントの企業事例2025—現場で成果が出た型と導入のコツとは
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AIナレッジマネジメントの実例と「うまく回る型」を整理しました。社内ポータルや検索の刷新、開発やカスタマーサポートにおけるナレッジ活用、主要プロダクトの最新動向を横断的に取り上げます。 「検索しても出ない」「情報が散らばっている」「結局は人に聞くしかない」といった課題を、AIでどこまで解消できるか。成果が出ている事例とKPIの置き方まで、一連の流れでまとめました。

AIナレッジマネジメント事例の全体像(潮流と基本の考え方)

『検索→要約→次アクション』までを一気通貫に

2025年の事例で目立つのは、単なる検索で終わらず、社内データを要約し、次のアクションにつなげる設計です。

従来のRAG(検索拡張生成)は、文書を探して答えを補足する仕組みでしたが、最近は クエリ分解や手順の可視化を組み合わせた「エージェント型RAG」 が普及しています。これにより、複雑な質問でも段階を踏んで解決策を導けるようになりました。

例えば社内Q&AにAIを組み込むと、社員が「誰に聞くか」で迷う時間を減らせます。また、回答ログをナレッジ更新の材料にすることで、「使う→残る→改善する」循環を作れる点も大きな成果につながっています。

プロダクト潮流:Copilot/Vertex/Q Business

主要ベンダーの方向性も整理しておきましょう。

  • Microsoft:ナレッジ機能をCopilotに集約し、従来のViva Topicsは2025年に終了しました。これにより「Copilot+Microsoft Search」が知識基盤の中心になります。

  • Google:Vertex AIの更新や「Agent」機能強化で、企業検索とエージェント連携の一体化を進めています。

  • AWS:Amazon Q Businessに「Agentic RAG」を導入し、複雑な問い合わせを分解して経路を透明化しながら答えを導く仕組みを実装しました。

いずれの選定でも重要なのは、「既存業務基盤と権限設計に合うか」です。派手な機能より、既存システムとの統合や監査要件を満たすかどうかが実務上の決め手になります。

まず“対象と責任”を決める

AIナレッジ活用の第一歩は、「どの情報を対象にするか」と「誰が責任を持つか」を明確にすることです。

  • 対象の棚卸し:社内SaaS、共有ドライブ、チケット、Wikiなどを洗い出す

  • 権限管理:閲覧範囲を明示し、「標準利用/申請必須/禁止」の三段階で線を引く

  • 情報の扱い:個人情報や機微情報は短期保存+暗号化を徹底する

特に「どこまで保存して良いか」「誰が承認するか」を早めに決めないと、現場は迷い続けてしまいます。こうした枠組みづくりには、NIST AI RMFの用語と観点を取り入れると、部門横断で共通認識を持ちやすくなります。

出典:Microsoft 公式「Viva Topics 終了と知識機能の移行
出典:Google Cloud「AIトレンドまとめ(Agent/検索)
出典:AWS MLブログ「Amazon Q BusinessのAgentic RAG
出典:NIST「AI Risk Management Framework(日本語版)

事例① 社内ポータル・検索の刷新(横断検索×Q&A)

Tapestry:生成AI×社内Q&Aで探索時間を短縮

CoachやKate Spadeを展開するTapestryは、AWS基盤で社内Q&Aシステムを4か月で構築しました。 SSO(シングルサインオン)連携で権限制御を効かせつつ、Amazon Bedrockのモデルで自然言語質問に答える仕組みを実装。導入初期で約300名が利用し、「社内で誰に聞けば良いか」を探す時間が大幅に減少しました。

標準手順の吸い上げと自己解決の促進に直結し、全社展開への基盤を整えています。

Glean×Super.com:分散知の一元化で月1,500時間削減

旅行フィンテック企業Super.comは、Slack/Confluence/GitLab/Google Driveなどに散在していた情報をGleanで横断検索できるようにしました。

権限に応じて検索結果を最適化し、オンボーディング時間を20%短縮。全社で月1,500時間以上の削減を実現しました。 また「プロンプトの型(ライブラリ)」を整備し、誰でも効率よく検索できる環境を作ったことが効果の鍵になりました。

Notion Q&A:ワークスペース内で“聞けば出る”を実現

Notionの「Q&A」機能は、ドキュメントや議事録から即答を返せる仕組みです。 既存のワークスペースをそのまま利用できるため、導入ハードルが低いのが特徴。

最初はFAQや新人研修資料など限定範囲から始め、回答には根拠となるリンクを必ず添える運用にすると、回答への信頼度が安定します。

出典:AWS ケーススタディ「Tapestryのナレッジ変革
出典:Business Insider「Super.com×Gleanの効果
出典:Notion 公式ブログ「Q&A 機能

事例② 開発・エンジニアリングの知を回す

Stack Overflow for Teams:開発ナレッジの“一次窓口”に

開発組織では「質問→回答→検索→再利用」という循環を素早く回せる仕組みが重要です。 Stack Overflow for Teamsはその役割を担い、Q&AとAI補助を組み合わせて一次解決率を向上させています。

Microsoftを含む大規模開発組織でも導入されており、既存の慣行(タグ付け、承認ルート、重複排除)をそのまま活かせる点が強みです。これにより「誰かが既に答えているのに繰り返し質問が出る」ムダを削減できます。

Confluence×Atlassian Intelligence:自然言語で探す・要約する

Confluenceは「Atlassian Intelligence」で自然言語検索と要約機能を強化しました。 文書が多すぎて「どこに書いたかわからない」という問題を減らし、会議録や設計書からアクションアイテムを自動抽出できます。

さらに「Rovoボタン」によってAI機能に素早くアクセスでき、Jiraと連携して作業チケットを自動起票する運用も始まっています。結果として「読むだけのナレッジ」から「行動につながるナレッジ」へと進化しています。

M365の最新事情:Viva Topics終了とCopilot集約

Microsoft 365のナレッジ管理は、Viva Topicsが2025年に終了し、CopilotとMicrosoft Searchに統合されました。 今後の導入では、Copilot前提で「権限設計」「監査ログ」「既存ドキュメントの整理」を早めに整えることが近道です。

ナレッジ活用で成果を出すには、「どの文書をどの箱に入れておくか」を整頓する作業が不可欠です。AI導入より先に、社内文書の整理・分類を済ませておくことが、効果を引き出す前提条件になります。

出典:Stack Overflow for Teams「導入事例・効果
出典:Atlassian サポート「AIで答えを探す/最近の更新」/ Atlassian Cloud 更新情報
出典:Microsoft「Viva Topics 終了

事例③ カスタマーサポートのナレッジ最適化

Zendesk:AIナレッジベースの整備ポイント

カスタマーサポートでAIを使う場合、肝心なのはナレッジベースの構造化です。 Zendeskは、記事テンプレート、検索最適化、権限設計を含めた「AI前提のヘルプセンター運用」を提示しています。

また、FAQや記事が重複・陳腐化すると精度が落ちるため、定期的な棚卸しが欠かせません。この仕組みを回すだけで一次解決率は大幅に改善します。

Intercom『Fin』:エージェント活用とナレッジ連携

IntercomのAIエージェント「Fin」は、ヘルプ記事やワークフローと連携し、自動解決率を高めます。 特徴は「どの記事を根拠にしたか」を明示すること。これにより、回答精度の調整や記事の改善がしやすくなります。

また、顧客対応では「AIが応答している」ことを明示し、人間へのエスカレーション経路をUIに組み込むのが信頼確保のポイントです。

ServiceNow『Now Assist』:ケースから記事を自動起案

ServiceNowの「Now Assist」は、解決済みケースをもとにナレッジ記事のドラフトを自動生成します。 「同じ質問が繰り返し届く」課題に対して、応対とナレッジ作成をつなぐ役割を果たします。

AIが起案した記事は必ず人のレビューを通し、公開時に関連チケットやラベルを付けて登録すると、次の検索精度が向上します。ナレッジを「作る→使う→改良する」循環を強める施策といえます。

成功させる運用の型(KPI・安全・段階導入)

KPIは『品質・安全・効率』の三本柱で

AIナレッジ運用を評価する指標は「AIがどれだけ書いたか」ではなく、実際の成果に直結する指標で置きます。

  • 品質:一次解決率、原典リンクの提示率、レビュー手戻り率

  • 安全:インシデント件数、検知から封じ込めまでの時間

  • 効率:検索→回答にかかる時間、オンボーディングの短縮率

これらをダッシュボードで可視化し、改善案はチケット化して完了まで追跡するのが基本です。さらに、主要ベンダーが公開するケーススタディを定期的に参照すると、新しいKPIの切り口を取り入れやすくなります。

安全設計:プロンプト注入や過剰権限への備え

ナレッジ検索やQ&Aには、LLM特有のリスクがあります。代表的なのは、プロンプト注入、不適切な出力処理、学習データの汚染、過剰な権限(Excessive Agency)などです。

対策としては、

  • 入力経路をサンドボックス化する

  • 出力はエスケープ処理と根拠表示を組み合わせる

  • 接続先はホワイトリストで制御する

  • 外部操作は最小権限にとどめる

などを初期段階から設計に組み込む必要があります。OWASPの最新版リストをチェックリスト化し、定期点検することで抜け漏れを防げます。

PoC→限定本番→横展開の段取り

導入は「狭く深く」が鉄則です。

  1. PoC(概念実証):FAQや共通規程、オンボーディング資料など効果が測りやすい領域から開始

  2. 限定本番:一部部門での本格運用。承認や停止のハンドルを明示し、ログの粒度を固める

  3. 横展開:対象を全社に広げる。複雑な問いにはエージェント型RAGを組み合わせ、クエリ分解と根拠提示で信頼性を高める

この3ステップで進めれば、現場への浸透がスムーズになり、トラブル時のリスクも限定できます。

出典:Microsoft Cloud Blog「AI事例1000+
出典:OWASP GenAI Security「LLM Top 10(2025)」 / OWASP Projectページ
出典:AWS MLブログ「Agentic RAG 応用事例」 / 製品ドキュメント

まとめ(定着のコツ)

AIナレッジマネジメント事例の共通点は、「対象を絞る」「権限と根拠表示を設計する」「検索→要約→次アクションを切らさず回す」という三点に集約されます。

導入の第一歩は、誰もが参照するFAQ・社内規程・オンボーディング資料などから着手するのが現実的です。KPIは品質・安全・効率で置き、四半期ごとに見直していく。安全対策はOWASPの型に沿って守りを固め、複雑な問いにはエージェント型RAGを組み合わせて精度を上げる。

この流れを作れば、「人に聞くしかない」時間を着実に減らし、現場でナレッジが自然に循環する環境が整います。

カテゴリー:IT・システム

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