リスキリングの補助金活用術—会社と個人の学び費用を賢く抑える方法とは?

リスキリングの補助金活用とは(全体像と対象)
企業と個人のどちらが使えるか(基本)
リスキリングに使える公的制度は、大きく「企業が使うもの」と「個人が使うもの」に分かれます。
まず企業向けの代表例が 人材開発支援助成金 です。これは雇用している社員に対して実施する職業訓練にかかる費用や、受講中の賃金の一部を国が助成してくれる制度です。特にDX(デジタル転換)や新規事業の立ち上げに伴う研修などが対象になりやすく、企業にとっては「社員を育てながらコストを抑える」有効な手段となります。
一方、個人向けの代表例が 教育訓練給付金 です。これは厚生労働大臣が指定した講座を修了すると、支払った受講料の一部が本人に戻ってくる仕組みです。在職中でも離職中でも使えますが、対象者は雇用保険の加入歴など一定の条件を満たす必要があります。
さらに、離職中や収入が一定以下の在職者を対象にした 求職者支援制度 もあります。この制度は月10万円の生活支援給付と、無料での職業訓練を組み合わせて提供しており、生活費の不安を抑えながらスキルを学べるのが特徴です。
このように「企業向け=助成金」「個人向け=給付金・支援制度」と分けて理解すると、どれを使うべきか迷わず整理できます。
出典:厚生労働省『人材開発支援助成金 総合案内』
出典:厚生労働省『教育訓練給付金(制度概要・支給割合)』
出典:厚生労働省『求職者支援制度(制度概要)』
どの費用が対象になるか(受講料・賃金・旅費など)
補助金や給付金でカバーできる費用は制度によって違います。
企業向けの人材開発支援助成金の場合、代表的に対象となるのは次の費用です:
研修受講料(OFF-JT:座学など)
テキスト代や教材費
外部教育機関への委託費用
一定条件を満たす場合の旅費・宿泊費
研修中に支払う賃金の一部
ただし、助成率や上限額は研修の種類や企業規模によって変わります。たとえば中小企業なら経費助成率が大きく、大企業はやや低めに設定されています。賃金助成についても「1時間あたりいくら」と単価が決まっているため、最新のリーフレットで確認しておくことが欠かせません。
個人向けの教育訓練給付金は、支払った受講料の一部を後日還付してもらえる仕組みです。講座の種類によって20%〜80%まで給付割合が異なり、資格取得や賃金アップなどの成果に応じて増額される場合もあります。
生活費に相当する支援については、求職者支援制度がカバーします。この制度では訓練期間中、毎月10万円の生活支援金が支給され、加えて無料で職業訓練を受講できるため、長期学習でも安心して続けられるのがポイントです。
出典:厚生労働省『人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版PDF』
出典:厚生労働省『教育訓練給付金(制度概要・支給割合)』
出典:厚生労働省『求職者支援制度(制度概要)』
申請の基本プロセス(事前届出と証憑)
補助金や給付金は「申請方法」を理解しておくことがとても大切です。
企業向けの人材開発支援助成金は、必ず事前に「訓練計画届」を提出しなければなりません。実施後に「実は研修したので助成してください」と申請しても認められない仕組みです。そのため研修を始める前に計画を固めて提出し、承認を受けることが大前提になります。
申請に必要な証憑書類も多く、たとえば:
外部研修の見積書や発注書
出席記録(サインシートや出席簿)
給与台帳・賃金台帳
これらをきちんと揃え、訓練終了後に申請します。
一方、個人向けの教育訓練給付は、受講前にハローワークで「受給資格確認」を行う必要があります。その後、受講を終えて修了証や領収書を揃え、改めて申請する流れです。
また、こうした制度は年度や指定更新のタイミングに大きく影響されます。たとえば対象講座の指定が年に数回更新されるため、直前に「対象外になった」というリスクを避けるには、早めの確認とスケジュール管理が欠かせません。カレンダーに申請締切や更新時期を入れておくのが実務上のコツです。
出典:厚生労働省『人材開発支援助成金 総合案内』
出典:厚生労働省『教育訓練給付金(制度概要・支給割合)』
リスキリング 補助金活用(個人向け:教育訓練給付)
専門実践教育訓練の支給額と上限
個人がリスキリングに取り組む際に最も手厚い制度が、専門実践教育訓練給付です。対象講座を修了すると、受講料の 50%(年間上限40万円) が6か月ごとに支給されます。さらに、資格を取得して就職した場合や、在職中で賃金が 5%以上上昇 した場合には給付率が上がり、最大で80%(年間上限64万円) まで支給される仕組みです。
特に医療・福祉・IT・経営系の資格取得を目的とした長期講座が指定されることが多く、学び直しを通じてキャリアアップや転職を目指す人に適しています。対象講座は年2回(4月・10月)に追加・更新されるため、申し込み前に最新の指定講座リストやプレスリリースを必ず確認しましょう。
出典:厚生労働省『教育訓練給付金(制度概要・支給割合)』
出典:厚生労働省『専門実践教育訓練の最新指定(2025年10月1日付)』
特定一般・一般教育訓練の違い
教育訓練給付には、専門実践のほかに 「特定一般教育訓練」 と 「一般教育訓練」 があります。
特定一般教育訓練:修了後に受講料の 40%(上限20万円) が支給され、一定要件を満たすと 50%(上限25万円) まで拡大。対象は実務に直結する専門スキルや資格講座が中心です。
一般教育訓練:修了後に受講料の 20%(上限10万円) が支給。簿記やビジネス英語、PCスキルなど幅広い基礎学習が対象です。
いずれも「厚生労働大臣が指定した講座」であることが条件であり、指定の有無や区分は講座検索システムで必ず確認する必要があります。長期・高額な学び直しには専門実践、短期集中や資格取得には特定一般、幅広い基礎スキルの習得には一般教育訓練を選ぶ、と使い分けのイメージを持つと整理しやすいです。
申請の流れと講座検索の使い方
教育訓練給付を利用するには、受講前にハローワークで受給資格の確認を受けることが必須です。受講中は領収書や出席記録を保管し、修了後に修了証や領収書を添付して申請します。賃金上昇や資格取得による給付率の上乗せを狙う場合は、就職証明や給与明細など追加書類の提出が求められます。
講座検索システムは、分野・受講形態(通学・通信・オンライン)・地域などで絞り込みができ、指定講座かどうかをすぐに確認できます。指定は毎年4月と10月に更新されるため、「申込み直前に指定から外れてしまった」というケースを防ぐには、早めのスケジュール調整が大切です。
出典:厚生労働省『教育訓練給付金(制度概要・支給割合)』
出典:厚生労働省『専門実践教育訓練の最新指定(2025年10月1日付)』
リスキリング 補助金活用(生活支援・相談の公的サービス)
求職者支援制度(月10万円と無料訓練)
雇用保険を受給できない離職者や、収入が一定以下の在職者には、求職者支援制度が用意されています。この制度では、月10万円の給付金を受け取りながら、IT・事務・販売などの無料職業訓練を受講できます。
訓練は基礎から応用まで段階的に設計されており、未経験者でも安心して学べるのが特徴です。また、訓練前から訓練後までハローワークが伴走支援してくれるため、就職活動の不安も軽減されます。生活費の心配を抑えつつ学習できるため、特に長期コースでも完走しやすいのが大きなメリットです。
無料の相談・支援(キャリア形成・リスキリング推進事業)
補助金や給付金だけでなく、相談サービスも無料で利用できます。厚生労働省が委託して運営している「キャリア形成・リスキリング推進事業」では、個人・企業・教育機関などが無料でキャリア相談を受けることが可能です。
たとえば「今のスキルをどう棚卸しするか」「どの講座を選べばいいか」「社内教育をどう設計するか」といった疑問に、専門家がアドバイスをしてくれます。制度選びや申請準備の段取りまで支援してもらえるため、初めて制度を活用する人にとってはとても入りやすい窓口です。
出典:厚生労働省『キャリア形成・リスキリング推進事業(相談窓口)』
会社負担と個人給付の上手な組み合わせ
在職中のリスキリングでは、会社と個人の制度を組み合わせる工夫が重要です。会社が人材開発支援助成金を活用して研修費用や賃金を補い、個人が教育訓練給付を使う場合は「同じ費用を二重請求しない」ことが大前提になります。
離職や転職期には、まず求職者支援制度で生活支援と無料訓練を受け、その後に教育訓練給付で追加学習を行う、といった流れが現実的です。さらに、会社・個人・公的制度の役割を一枚のフローチャートにして「どの時期にどの制度を使うか」を整理しておくと、年度内のキャッシュフロー管理もしやすくなります。
出典:厚生労働省『人材開発支援助成金(制度概要・注意点)』
出典:厚生労働省『求職者支援制度(制度概要)』
出典:厚生労働省『キャリア形成・リスキリング推進事業(相談窓口)』
リスキリング 補助金活用(DX導入補助との合わせ技)
IT導入補助金での「導入研修」の扱い
リスキリングを進める際には、IT導入補助金との組み合わせも有効です。IT導入補助金(通常枠)は、生産性を高めるソフトウェア導入を支援する制度で、対象経費に「導入設定・マニュアル作成・導入研修」などが含まれます。
たとえば新しい人事システムや会計ソフトを導入する際、その操作研修を「導入研修」として経費計上できるため、間接的にリスキリングの一部を後押しできます。ただし、対象や範囲は公募要領・交付規程で細かく定められているので、必ず最新情報を確認する必要があります。
出典:中小企業基盤整備機構『IT導入補助金2025 通常枠』
組み合わせ時の注意(重複計上の禁止と順番)
複数の補助金・助成金を組み合わせる場合、注意すべきは 「同じ経費を二重に計上できない」 というルールです。たとえば、IT導入補助金で「導入研修費」として申請した領収書を、人材開発支援助成金でも提出することはできません。
したがって、経費を「会社負担」「助成対象」「個人給付」のどれに充てるのかを台帳上で明確に区分し、証憑を分けて管理する必要があります。さらに、ITツール導入の採択決定と社員研修の計画届提出のタイミングを調整し、工程の前後関係を整理しておくことも大切です。
出典:中小企業基盤整備機構『IT導入補助金2025 通常枠』https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/subsidy/normal/
段取り表とスケジュール管理
実務で複数制度を使う場合は、「年度」「公募回」「指定更新」の3つの時間軸を重ねて考えると失敗が減ります。
年度:人材開発支援助成金や教育訓練給付は年度ごとの予算枠があるため、早めの計画が有効です。
公募回:IT導入補助金は年数回の公募締切があるので、逆算して準備が必要です。
指定更新:教育訓練給付の指定講座は4月と10月に更新されるため、受講開始時期を調整しないと対象外になる可能性があります。
また、領収書・出席簿・賃金台帳などは月次で突合しておき、監査や労働局からの照会に備えてクラウドで一元管理すると安心です。権限管理と版管理を徹底すれば、申請時の修正もスムーズに行えます。
出典:中小企業基盤整備機構『IT導入補助金2025 通常枠』
まとめ
「リスキリング補助金活用」は、社員の学びを支える強力な仕組みですが、制度の違いや申請の順序を理解しておくことが成功の鍵です。
企業向け:人材開発支援助成金で研修経費や賃金をカバー。
個人向け:教育訓練給付金で受講料を軽減。
生活支援:求職者支援制度で生活費を補いながら学べる。
DX導入との連動:IT導入補助金を活用し、導入研修をリスキリングと組み合わせる。
いずれも事前の届出と証憑管理が重要で、スケジュールを年度や公募回に合わせて設計することが求められます。制度は複雑に見えますが、まずは対象者と費用の線引きを行い、年度計画に落とし込むところから始めましょう。困ったときは、ハローワークや厚労省委託の相談窓口を活用するのも有効です。
制度を正しく組み合わせれば、会社も個人も負担を抑えながら学び直しを進められます。まさに「費用を抑えつつ未来への投資を加速させる」実務の武器となるのが、このリスキリング補助金の活用なのです。
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