CSRDと財務報告の連結対応とは?—“誰が・いつから・どの範囲で”を解説

CSRDと財務報告の連結対応とは?—“誰が・いつから・どの範囲で”を解説
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CSRD 財務報告 連結対応とは、財務諸表と同じ期間を対象に、連結ベースでサステナビリティ情報を作成・開示するための実務対応を指します。2024年度開始の企業から段階的に適用が進み、2028年度には第三国(非EU)の企業グループにも一定の条件下で義務が拡大します。 親会社が連結サステナ報告を出す場合、子会社の個別報告は免除されますが、第三国親の場合はArticle 40aに基づき「EU売上1億5000万ユーロ以上+子会社や支店の存在」が条件となり、義務が直接かかる可能性があります。 また、CSRDではデジタル形式(XBRL)でのタグ付けが義務化され、限定的保証(Limited Assurance)も段階的に導入されます。日本企業にとって重要なのは、どの拠点で連結報告を行うか、どの条文を根拠に対応するかを早い段階で決めておくことです。 そうすることで、マテリアリティ評価からデータ収集、保証準備、提出期限対応までを効率的に進められ、手戻りを防ぐことができます。本稿では、対象範囲や免除規定、スケジュール、保証・提出要件を整理し、日本企業が迷わず準備を進められるよう解説します。

CSRD 財務報告 連結対応の全体像(対象・タイミング・基本ルール)

財務報告との関係——同期間・同時公表が原則

CSRDは会計指令を改正し、サステナビリティ情報を財務諸表と同じ期間に作成し、管理報告書の一部として同時に公表することを求めています。欧州委員会のFAQでは、サステナ情報は欧州サステナビリティ基準(ESRS)に基づくべきであり、必要に応じてデジタル形式でタグ付け(XBRL)し、保証報告を付与することも明記されています。これは、投資家が財務と非財務を横並びで比較できるようにするための設計です。

さらに、管理報告書の提出期限は最長で12か月と整理されており、企業は財務報告のスケジュールに合わせてサステナ情報を統合的に準備しなければなりません。実務上は「財務の締め方」にサステナを重ねるのが最も安全で効率的であり、別々に動かすと承認フローやレビューが複雑化します。したがって、早い段階から「同時開示を前提に回す」準備が必要になります。

連結対応の基本——個別と連結、親会社免除の関係

CSRDでは、親会社が「連結サステナビリティ声明(consolidated sustainability statement)」を発行する場合、その子会社は個別のサステナ報告を免除されます。これはグループ全体での報告を優先させる考え方であり、子会社ごとに重複して報告する負担を避ける仕組みです。

また、親会社自身がさらに上位の親会社に含まれる場合、その上位親の連結報告に統合されていれば重複報告は不要となります。

ただし、免除を利用するためには条件があります。子会社の管理報告書に、親会社の連結サステナ報告へのリンクを記載する必要があり、親会社がまだ報告書を公開していない場合でも適切な案内を付けなければなりません。

免除は便利な仕組みですが、適用条件を満たさなければならない点を軽視すると不備と見なされる恐れがあるため、社内ルールにあらかじめ組み込んでおくことが求められます。

適用スケジュール——2024年度から2028年度までの段階導入

CSRDの適用は段階的に広がります。まず、既にNFRD(非財務報告指令)の対象となっていたPIE(Public Interest Entities:従業員500人超)は2024年度から義務化され、2025年に最初の報告が行われます。

その後、その他の大企業は2025年度から、上場SMEは2026年度から義務化されますが、SMEについては猶予オプションが設けられています。そして2028年度からは、第三国に親会社を持つ一定の企業グループも対象となり、2029年に初めて報告を行う必要が出てきます。

FAQには、これらのタイムラインが図表で整理されており、企業は自社がどの時点で義務の対象になるかを把握しておくことが欠かせません。とりわけ日本企業にとっては、EUに子会社や支店を持つ場合、2028年度以降に影響が及ぶ可能性があるため、数年先を見据えた準備が必要になります。

単に「いつから始まるか」を確認するだけでなく、自社グループの構造と売上規模を照らし合わせながら、どの年度で義務が生じるかを正確に見積もることが重要です。

出典:European Commission「CSRD FAQs(制度概要/同期間・期限)」

CSRD 財務報告 連結対応の範囲設計(グループ境界とバリューチェーン)

連結範囲は“財務連結”に合わせる

CSRDに基づく連結サステナ報告の対象範囲は、財務報告と同じ基準に従うことが求められます。欧州委員会のFAQでは、財務連結の範囲をそのまま適用し、すべての子会社を含めることが明確に示されています。所在地がEU域内かどうかに関わらず、世界中の子会社が含まれるため、グローバルで活動する企業にとっては対象範囲が非常に広くなります。

一部の企業は「欧州域外の子会社は除外できないか」と考えるかもしれませんが、原則としてそうした簡便法は認められていません。つまり、財務連結と同じグループ境界を用いるのが必須条件です。

これにより、財務とサステナの一貫性が確保され、投資家が両者を比較できるようになります。日本企業も、欧州に限らずグローバル全体の事業構造を踏まえて対象を洗い出す必要があります。

バリューチェーン情報の扱い——社内外のデータ線を早期に引く

CSRDの開示要件には、グループの外部にあるバリューチェーン(サプライヤーや販売先)に関する情報も含まれます。EFRAGの実装ガイダンス(IG2)は、この外部情報をどう特定し、収集し、開示すべきかを整理しています。自社グループの枠を超えて、関連する外部データをどこまで扱うかを決めることが、初年度の運用に直結します。

実務では、まず「どの部署が一次データを持つか」を明確にすることが重要です。たとえば調達部門がサプライヤーの情報を、営業部門が販売先のデータを管理している場合、それを集約する仕組みを早めに設計しなければなりません。また、自社で直接入手できない情報は、推計値や外部データベースを使うことも認められています。その際、どの範囲までを推計とするかを社内で線引きしておくと、後の監査や保証で混乱を避けられます。

ダブル・マテリアリティの評価——財務影響×インパクトで決める

CSRDとESRSの根幹は「ダブル・マテリアリティ」の概念です。これは、財務的重要性とインパクト的重要性の両面からテーマを評価する仕組みです。EFRAGが公表した実装ガイダンス(IG1)は、候補テーマの洗い出しから評価方法、意思決定に必要な文書化の手順までを詳細に示しています。

企業はまず、事業ごとに環境や社会への影響テーマを抽出し、それが自社の財務にどのように影響するかを評価します。その上で、どのテーマを開示対象とするかを決める必要があります。

さらに、評価プロセスや判断の根拠を文書化し、社内レビューや外部レビューを通じて透明性を確保することが大切です。こうすることで、将来の保証(Limited AssuranceやReasonable Assurance)に耐える再現性が確保され、投資家からの信頼も得やすくなります。

出典:European Commission「CSRD FAQs(連結範囲の根拠)」
出典:EFRAG「IG2: Value Chain Implementation Guidance」
出典:EFRAG「IG1: Materiality Assessment」

CSRD 財務報告 連結対応の免除・代替(親会社報告、第三国親の特則)

親会社の連結サステナ報告で子会社個別を免除する条件

親会社が連結サステナ報告を公表する場合、子会社は個別のサステナ報告を免除できます。ただし、そのためには子会社の管理報告書に親会社の報告書へのリンクを明記することが条件となります。もし親会社の報告がまだ公開されていない時点でも、適切な案内を添えることで免除は適用可能です。

一方で、親会社が管理報告書を作成しない場合には、代替の文書を用意して電子形式で対応する必要があります。免除の仕組みは企業にとって負担軽減のメリットがありますが、要件を満たさなければ無効となるため、社内でルールを確実に定義しておくことが欠かせません。特に多国籍企業グループでは、どのレベルの親会社で報告を行うかを早めに決めることが実務効率に直結します。

第三国親が“任意で”連結報告(Article 29a)を選ぶ場合

EU域外に本社を持つ親会社(第三国親)が、自発的にArticle 29aに基づいて連結サステナ報告を作成する選択肢もあります。この場合、EUにある子会社はその親会社の連結報告に含まれることで免除を受けやすくなります。範囲は財務連結と同じで、世界中の子会社を含めるのが前提です。

欧州委員会のFAQでも、この任意の連結報告を免除条件として活用できることが明記されています。ただし、任意報告を選んだ場合でも、ESRSに準拠した形式で作成する必要があり、他の基準をそのまま転用することはできません。企業は、任意で対応するかどうかを早い段階で決め、必要なデータ収集や社内体制を整える準備が求められます。

Article 40a(第三国企業の“EU売上”規定)と連結対応の選択肢

第三国親に関しては、EU売上が直近2期連続で1億5000万ユーロを超える場合に義務が発生します。さらに、EUにCSRD対象の子会社がある場合や、子会社がなくてもEU支店の売上が4000万ユーロを超える場合には、EU内でグループ全体のサステナ報告を行う必要があります。

この場合、親会社がESRSに基づいて連結サステナ報告を作成すれば、EU子会社の報告義務を置き換えることが可能です。ただし、子会社自身に19aや29aでの義務がある場合には、免除要件を満たしているかを確認する必要があります。期限(12か月)、提出先(加盟国の指定機関)、保証の要否も合わせて考慮し、どの拠点で報告をまとめるかを早期に判断することが重要です。

出典:European Commission「CSRD FAQs(免除・第三国親・Article 40a/29a)」

CSRD 財務報告 連結対応の開示実務(デジタル・保証・提出)

デジタル・タグ付け(XBRL)——“採用後に義務化”の順番

CSRDでは、サステナ情報にデジタル・タグ付け(XBRL)を施すことが義務化されています。ただし、実際に必須となるのは欧州委員会がESEFのRTSでタクソノミーを採択した後です。それまでは準備段階にとどまりますが、採択された時点から義務化が始まるため、企業は前倒しで設計素案を作成しておくことが望まれます。

EFRAGはESRSに対応したデジタル報告のワークストリームを公開しており、採用後は段階的にボランタリーから義務化へ移行する流れとなります。つまり、制度が動き出す前に「タグ付けはどのデータに、どの粒度で必要か」を検討しておけば、採択後の対応がスムーズになります。日本企業も、連結対象子会社のどこでタグ作業を担うかをあらかじめ整理し、遅れを防ぐことが重要です。

限定的保証(Limited Assurance)——2026年までにEU基準が整備

CSRDは、2026年10月1日までにEUレベルで統一された限定的保証の基準を整備することを規定しています。これにより、監査人や独立保証業者が「どの範囲を、どの水準で保証するのか」が明確になります。つまり、企業は証憑の所在、承認プロセス、改定履歴をあらかじめ整え、第三者による検証に耐えられる準備を進める必要があります。

保証の初期段階ではScope1・2排出量やガバナンス、リスク管理といった基礎情報が対象となる見込みです。CEAOBのガイドラインも参照可能で、これを取り入れたプロセス設計を進めれば、初回保証の負荷を軽減できます。社内では「どの部署が保証対応を担うか」を明確にし、保証の入り口に立つ前から役割分担を固めておくことが効果的です。

ESAP提出と12か月期限——第三国親のレポートにも適用

CSRDに基づくサステナ報告は、EUのESAP(European Single Access Point)へ提出することが求められます。提出は機械可読形式で行い、バランスシート日から12か月以内に公開・保証を付与するのが原則です。Article 40aの対象となる第三国親についても、この提出義務は同様に適用されます。

EU内に複数の子会社や支店がある場合は、少なくとも一つの開示を行い、他の子会社・支店はその開示にリンクする形で代替可能です。これにより重複報告を防ぎつつ、法令上の要件を満たすことができます。日本企業にとっては、この「12か月ルール」を財務報告の締めと連動させることが極めて重要で、期限を誤るとコンプライアンスリスクに直結する点に注意が必要です。

出典:European Commission「CSRD FAQs(マークアップ・ESAP・期限)」
出典:EFRAG「Digital reporting with XBRL」
出典:EY「ESEF/RTSとESRSタクソノミーの位置づけ」
出典:CEAOB「Limited assurance guidelines(2024/9)」

CSRD 財務報告 連結対応の日本企業ケース(設計の勘所)

日本親+EU子会社——“どこで連結するか”を先に決める

日本の親会社がEUに子会社を持つ場合、どの拠点で連結報告を行うかを早い段階で決めることが実務効率の鍵になります。選択肢は2つあります。①EU子会社自身が個別または連結で報告を行う方法と、②日本の親会社がArticle 29aに基づく連結サステナ報告を任意で行い、EU子会社を免除する方法です。

後者を選んだ場合は、世界中の子会社を対象に含める前提となるため、グループ全体でデータ収集の線を統一する必要があります。どの拠点がどのデータを管理し、誰が責任を持つのかを明確にしなければ、報告の一貫性が崩れてしまいます。したがって、親会社レベルでの早期判断が、最終的な負荷削減につながります。

日本企業がArticle 40aの対象になる条件と実務

日本親のEU売上が直近2期連続で1億5000万ユーロを超える場合、かつ対象子会社またはEU支店の売上が4000万ユーロを超える場合には、Article 40aに基づいてEU内でグローバル報告が義務化されます。この場合、親会社がESRS準拠の連結サステナ報告を発行すれば、EU子会社の義務を置き換えることが可能です。

ただし、子会社に独自の報告義務(Article 19aや29a)がある場合には免除条件を満たさなければならず、重複対応を避けるために細心の注意が必要です。さらに、期限(12か月以内)、保証の範囲、提出先の要件なども加わるため、日本企業は「どの条文を適用根拠とするか」を慎重に判断する必要があります。制度理解を誤ると、グローバル全体に波及するリスクがあるため、法務・財務・サステナの連携が欠かせません。

2025〜2029の段取り——マテリアリティ→データ→保証の順で固める

2025年以降の段階導入に向け、日本企業は具体的なスケジュールを設計しておく必要があります。まず初年度には、マテリアリティ評価とバリューチェーンデータの収集方針を決め、会計カレンダーに合わせたクロージャー表を作成します。これにより、財務とサステナを同じリズムで進められるようになります。

その後、デジタル・タグ付けについては、タクソノミー採択に備えた設計素案を先に作成しておきます。さらに、限定的保証に向けて証憑の保管、承認ログ、改定履歴を整備することが必須です。特に第三国親としてArticle 29aや40aの対象になる可能性がある場合には、どの拠点を「連結対応拠点」とするかを早めに決め、グループ全体で一貫性ある対応を進める必要があります。

出典:European Commission「CSRD FAQs(Article 40aの条件・免除関係・期限)」
出典:EFRAG「IG1/IG2(マテリアリティ・価値連鎖)」
出典:EY「ESEF/RTSとESRSタクソノミー」

まとめ

CSRD 財務報告 連結対応は、①財務と同期間・同時に公表すること、②連結範囲を財務連結に合わせること、③免除や第三国親に関する条文(Article 29a・40a)を適切に使い分けることの3点を押さえると整理がしやすくなります。日本企業は、自社グループがどの規定の対象になるかを早期に判断し、「どこで連結サステナ報告をまとめるか」を明確にしておくことが重要です。

また、準備の段取りは「マテリアリティ評価→データ収集→保証→デジタル対応」という順番で固めるとスムーズです。特に2025年から2029年にかけては、段階導入が重なるため、早い段階で社内プロセスを財務報告と統一して動かすことが安全です。さらに、制度の見直しや改正が続く可能性もあるため、常に欧州委員会やEFRAGの一次情報を参照し、アップデートに対応できる体制を持つことが求められます。

カテゴリー:会計・財務

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