PBR1倍割れ対策とは?原因の見極めから資本配分・IRまでやさしく解説

PBR1倍割れ対策の前に:PBR1倍割れとは何か、なぜ問題になるのか
PBR1倍割れの意味と“1倍ライン”の考え方(純資産割れ=将来の稼ぐ力への不信)
PBRは「株価÷1株当たり純資産(BPS)」で求めます。PBRが1倍を切ると、株式市場は“帳簿上の純資産そのもの”より低い価格しか付けていない状態です。
これは、保有資産の価値は認めつつも、その資産を使って将来どれくらい稼げるかに十分な期待が持てていないサインと捉えられます。だからこそ、PBR1倍割れ対策は「いまの資産でこれからどれだけ稼げるか」を具体的に見せるところから始めます。
PBR1倍割れとROE・資本コストの関係(資本コストを上回る収益性の不足)
投資家は、会社が資金を集めるコスト(資本コスト)を上回る利益を出せているかを重視します。ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)が資本コストに届かないと、将来生み出す価値が物足りないと判断され、株価が伸びにくくなります。
PBR1倍割れ対策では、まず「いまの収益性と資本コストの差」を把握し、差を埋める打ち手を順序立てて示します。
PBR1倍割れ対策の大前提:事業の価値創造式(ROIC−WACC)をそろえる
現場で使いやすい考え方は、ROIC(事業が生む利益の割合)からWACC(お金の平均コスト)を引いた“スプレッド”をプラスに保つことです。プラスが続けば投下資本1円あたりの価値が積み上がり、PBRにも時間差で効いてきます。
会社全体だけでなく、事業や主要製品ラインの単位でも同じ物差しで測り、どこに資本を厚く配るかを判断します.
出典:東京証券取引所『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』(2023/3/31)
出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0』(2022/8/30)
PBR1倍割れ対策の起点:原因分析の型をつくる
PBR1倍割れの原因をROE分解で把握(利益率×資産効率×財務レバレッジ)
“どこでつまずいているか”を手際よく確かめるには、ROEを「利益率×総資産回転率×財務レバレッジ」に分けて見ます。たとえば利益率が低いのか、売上に対して資産を持ち過ぎているのか、資本構成が保守的すぎるのか、といった原因を切り分けられます。
分解してみると、改善すべき箇所が見えるようになり、打ち手の優先順位も付けやすくなります。現場の数字と月次KPIをつなげることで、対策の効果を早く確認できます。
PBR1倍割れの事業別プロファイル化(セグメントROIC・スプレッドの棚卸し)
全社の平均だけを見ると、赤字事業と好調事業が混ざって実態が見えにくくなります。セグメントや主要製品ラインごとにROICとWACCをそろえて算出し、スプレッドがマイナスの領域を洗い出します。
マイナス事業は「改善・縮小・撤退」の三択で期限を切り、プラス事業には資源を集中させる計画を用意します。ここまでできると、PBR1倍割れ対策の“設計図”が整います。
PBR1倍割れの外部要因チェック(市場成長性・競合ポジション・評価ギャップ)
社内の数字だけで結論を出さず、外部環境もあわせて見ます。市場の伸びが鈍いのか、競合の値付けが攻めているのか、会社の強みが十分に伝わっていないのかで、対策は変わります。
成長市場なのにPBRが低いなら、製品の優位性や成長投資の道筋が伝わっていない可能性があります。成熟市場なら、資産の圧縮やビジネスモデルの刷新が先です。仮説と数字、外部情報を一枚にまとめて意思決定へ持ち込みます。
出典:経済産業省『価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0』(価値創造と資本効率の考え方)
PBR1倍割れ対策①:「稼ぐ力」を上げる施策
PBR1倍割れを脱する収益改善(値上げ・ミックス改善・原価圧縮の優先順位)
まずは“稼ぐ力”の底上げです。値上げはネガティブに映りがちですが、品質やサポートの強化とセットであれば納得を得やすくなります。売れ筋に注力する製品ミックスの改善も早く効く施策です。
原価の見直しは一度で終わりではなく、購買・歩留まり・物流など部門横断で継続します。利益率が1~2ポイント上がるだけでも、PBRに効くROEの押し上げにつながります。
PBR1倍割れを解消する資産効率の向上(運転資本/遊休資産/低採算拠点の見直し)
運転資本(在庫・売掛・買掛)の回転を速めると、同じ売上でも必要な資本が減ります。余っている設備や土地などの遊休資産は売却や賃貸で現金化し、負担の重い拠点は統廃合を検討します。
資産が軽くなれば、ROICの分母が小さくなるため、稼ぐ力が同じでも効率が上がります。資産効率は“足元から効く”領域なので、対策の初期段階から着手しやすいテーマです。
PBR1倍割れ企業の成長投資ルール(小さく試す→伸び筋へ再配分のサイクル)
成長投資は“掛け捨て”に見えないように、段階的に進めます。小さく試して、手応えが出た領域に資源を厚く配る。うまくいかないものは早めに見切る。
この再配分のルールを先に決めて公表すると、投資家は計画の信頼度を判断しやすくなります。人材・ソフトウェア・ブランドなど無形資産への投資は成果が見えにくいので、段階KPIと時期をあわせて示します。
PBR1倍割れ対策②:資本配分・財務政策で評価を引き上げる
PBR1倍割れへの直接対策としての株主還元(配当方針と自己株式取得の設計)
株主還元は、企業が資本を「配る」と決めた割合やルールを示す取り組みです。配当は安定性、自己株式取得(自社株買い)は機動性が強みです。
いずれも一度きりの施策ではなく、利益やキャッシュフローに結びついた方針として示します。自己株買いは市場での買付方法や開示のルールが決まっているため、実務の手順を押さえたうえで、成長投資とのバランスを説明します。
PBR1倍割れ企業の資本構成最適化(負債活用・ハードルレート・負債余力の使い道)
負債(借入)を適度に使うと、資本コストの平均であるWACCが下がる場合があります。ただし、過度に借入を増やすと財務の柔軟性が落ちます。
負債余力の範囲を決め、超えない前提で成長投資や自己株買いの原資として活用します。投資案件のハードル(IRRの基準)は事業のリスクに応じて設定し、基準を満たさない案件は見送ります。
PBR1倍割れ改善に効く非中核資産の売却・持合い解消(資本の滞留を解く)
本業に使っていない資産の売却は、資本効率の改善に直結します。日本では企業同士が互いの株式を持ち合う「政策保有株式(持合い)」が課題になることがあります。
コーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式の保有目的や効果の検証・開示が求められています。意義が薄いと判断した持合いは、売却や縮小を進めると資本の滞留が解け、評価改善につながります。
出典:東京証券取引所『自己株式取得(買付方法・参考資料)』
出典:東京証券取引所 FAQ『決定事実 自己株式の取得(開示や内部者取引規制の考え方)』
出典:東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード(原則1-4 政策保有株式 等)』(2021/6/11)
PBR1倍割れ対策③:開示・IR・ガバナンスで“伝わる”状態をつくる
PBR1倍割れ改善ロードマップの開示(資本コスト・ROIC・KPI・期限の明記)
投資家が知りたいのは「原因・対策・期限」です。PBR1倍割れ対策のロードマップでは、資本コストの水準、ROICやスプレッドの目標、KPI(在庫回転や営業利益率など)と達成時期を一枚の図で示します。
四半期ごとに進捗を更新すると、数字の改善と行動の一貫性が伝わります。KPIの定義は資料の冒頭に置き、測り方の前提をそろえます。
PBR1倍割れ対策と中計の一貫性(稼ぐ×配る×投じるの数字を一本化)
中期経営計画(中計)は、稼ぐ(収益改善・資産効率化)、配る(配当・自己株買い)、投じる(成長投資)の数字がばらばらだと説得力が落ちます。
資本コストやROIC目標と結び付け、使うお金と期待する回収を同じ単位で示すと、計画全体の筋道が通ります。中計の主要図表は、決算資料や統合報告書とフォーマットを合わせると、読み手の理解が早くなります。
PBR1倍割れ企業のIR実務(Investor Day/質疑想定/英語開示・セグメント情報の充実)
個人投資家・海外投資家を含めた対話では、材料を一度に集約するInvestor Day(説明会)が有効です。想定問答は「なぜ1倍割れなのか」「何で改善するのか」「いつ改善するのか」の三点を軸に準備します。
海外投資家が多い場合は英語開示とセグメント情報の精緻化が効きます。重要なのは、数値・行動・期限をそろえた説明を継続することです。
出典:東京証券取引所『市場区分の見直しに関するフォローアップ(特設ページ)』
出典:東京証券取引所『「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示企業一覧表の公表について』(2024/1/15)
出典:東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード』(2021/6/11)
まとめ——PBR1倍割れ対策は「稼ぐ×配る×伝える」の同時進行で進める
PBR1倍割れ対策の核心は、①どこで価値を落としているかを分解して見える化すること、②稼ぐ力を上げる取り組みと資産効率の改善を同時に回すこと、③資本を「投じる・配る・預ける」の配分を資本コストとセットで設計すること、④計画と進捗をわかりやすく開示し続けることです。
特別なテクニックよりも、基本をそろえ、行動と数字を積み上げることがPBRの改善につながります。
BizShareTV
仕事に役立つ動画はここにある
いつでも、どこでも、無料で見放題
