取引先の与信チェックとは!?実務で使えるチェックリスト完全版

与信チェックリストの全体像(まず“何を”揃えるか)
与信チェックリストの基本構成(会社実在・適法性・支払力)
与信調査のスタート地点は、たった3つのシンプルな観点に整理できます。それは「会社が実在しているか」「法的に適正な状態か」「支払能力があるか」の3点です。
実在確認:法人番号や登記情報をチェックし、本当に存在する法人かどうかを確かめます。
適法性確認:インボイス制度に登録されているか、業種ごとの許認可を取得しているかを調べます。
支払力確認:財務情報や過去の入金実績、取引条件の妥当性を見て判断します。
重要なのは、すべてを最初から完璧に集めようとしないこと。「契約の初期判断に必要な最小限のセット」だけをスピーディーに集めるのがコツです。取引開始後に必要な情報を追加確認する前提で進めると、スピードと安全性を両立できます。
さらに、社内で誰が見ても同じ結論になるように、用語の定義や判断基準をテンプレートに明記しましょう。例えば「与信限度額=初期は50万円、3か月間遅延がなければ100万円に引き上げ」というように、ルールごと明文化しておくとブレません。
最後に「なぜその結論にしたのか」という評価理由を一文で必ず書く習慣をつけましょう。後から別の担当者が見たときに、判断の再現性が高まります。
情報の入手先と優先順位(公的→一次→民間)
与信で使う情報には「どこから得たか」によって信頼度の差があります。原則は次の順番です。
公的情報(最優先)
法人番号(会社名・所在地・法人番号)
登記情報(代表者・事業目的・本店所在地など)
インボイス登録状況 これらは公式に公開されているため、信頼性が高く、まず確認すべき一次情報です。
会社自身が提示する情報
会社案内
決算書の写し
許認可の証明書 公的情報と突き合わせて、矛盾や古い情報が混ざっていないかをチェックします。
民間の信用調査・データベース
帝国データバンクや東京商工リサーチのスコア
その他の民間データベース これはあくまで補助的に利用。数値だけを鵜呑みにせず、自社方針に基づいた最終判断を行うのが原則です。
時間が限られている場合は、①法人番号 → ②登記 → ③インボイスの順で最低限をチェック。それでもリスクが高いと感じたら「前払い」や「小口取引から始める」といった安全策を取りましょう。
記録テンプレートの作り方(誰が見ても同じ結論に)
せっかく調べても、記録が整理されていないと社内で再利用できません。そこでテンプレートをあらかじめ作っておくことが重要です。
ヘッダー部分:確認日・担当者名・入手先URL・スクリーンショットの保存先を固定で記載。URLだけでなく、その時点の画面キャプチャも保存すると、後日の証拠になります。
項目部分:「実在」「適法」「支払力」「反社/行政」の4ブロックに分け、それぞれに「結論(OK/要注意/NG)」と「理由」を書き込みます。
しきい値の明示:例えば「当初は前払いのみ、3か月間遅延ゼロなら与信額を増やす」といった具体的な基準を入れておくと、担当が変わっても運用がブレません。
承認欄:最後に承認者の署名を入れる欄を設け、責任の所在を明確にしましょう。
この小さな工夫で、後からトラブルが起きたときの対応スピードが格段に上がります。
公的情報で“実在と適格性”を確認(法人番号・登記・インボイス)
法人番号(基本3情報)の突合チェック
まずは「その会社が本当に存在するか」を、国税庁の法人番号公表サイトで確認します。ここでは会社名(商号)、所在地、法人番号という“基本の3情報”を誰でも無料で調べられます。
この3情報を調べておくと、社内の取引先マスタと照合でき、表記ゆれのトラブルを防げます。たとえば会社名に「株式会社」を付ける/付けない、所在地の番地表記の違いなどがあっても、法人番号を軸にすれば正しく名寄せできます。
とくに注意すべきは本店移転や商号変更。これらは名寄せ失敗の典型的な原因です。公表サイトにはデータダウンロードやAPIもあるため、定期的に自社のマスタと突き合わせる仕組みを作ると効率的です。
契約書や請求書に記載する会社名・所在地は、必ず法人番号に記載されている“正しい表記”に合わせましょう。また、検索した日付やURLは記録に残し、変更が出た場合は社内に自動通知できる仕組みが理想的です。
登記(商号・所在地・役員)の現況確認
次に確認すべきは登記情報です。法務省の「登記情報提供サービス」(有料)を使えば、商号・本店所在地・事業目的・役員情報をオンラインで取得できます。
登記をチェックするときに注目すべきポイントは次の通りです。
役員交代や事業目的の追加・変更は「経営方針の転換」のサイン。初回は必ず目を通しておきましょう。
本店所在地と実際の活動拠点が一致しないケースもあります。請求先や納品先が異なる場合は、契約書に明確に記載して整理することが大切です。
郵便物が頻繁に返送される先は要注意。事務所が空振りしている可能性もあります。
登記は、最初の与信時と重要な取引条件を見直すときに取得すれば十分です。ファイル名に「取得日」を入れて保管し、後からいつ確認したものか分かるようにしておきましょう。
もし登記に記載されている会社名と請求書の表記が異なる場合は、必ず相手に理由を確認し、そのやり取りを証跡として残しておきます。
インボイス登録(適格請求書発行事業者)の有無
2023年に始まったインボイス制度では、適格請求書発行事業者かどうかの確認が欠かせません。国税庁の専用サイトで、登録番号を検索すれば確認可能です。
チェックポイントは次の通りです。
登録番号は「T+13桁」。相手から提示された番号と公表サイトの番号を照合し、登録取消や失効の有無も必ず確認します。
複数の拠点や屋号を使っている場合でも、請求書に書かれる番号が本体法人の登録番号と一致しているかをチェックしましょう。
登録がなければ仕入税額控除に影響するため、取引条件の見直しが必要です。
手間を減らすなら、サイトに用意されている一括検索やダウンロード機能を使うと便利です。定期的な突合チェックを仕組みにしてしまうと安心です。
出典:国税庁:法人番号公表サイト
出典:登記情報提供サービス
出典:国税庁:適格請求書発行事業者公表サイト、インボイス検索の利用方法
出典:商業・法人登記情報請求の流れ
反社・行政リスクの一次確認(できる範囲を正しく)
反社会的勢力排除の基本と契約条項
日本では「反社会的勢力リスト」が公的に公開されていません。そのため、与信の場面では契約条項での排除と公知情報の定期確認を組み合わせるのが実務的です。
契約書には警察庁が示すモデル条項を参考に、以下を盛り込みます。
相手企業や役員が反社会的勢力でないことの確約
該当が判明した場合は無催告で契約解除できる権利
必要に応じて通報できる義務
この条項は契約前の交渉でしっかり説明し、サイン時には相手の理解を得ることが大切です。
社内でも「疑わしい情報が出たら即時エスカレーションする」というルールを作り、担当者だけで判断して放置しない体制を整えましょう。外部のブラックボックス的なデータベースに依存しすぎず、契約と運用の両面でリスクを抑える考え方が現実的です。
官報・行政処分・ニュースの見方
倒産・破産・更生手続きは「官報」に公告されます。官報は電子化されていますが検索の仕様に癖があるため、定期モニタリングは目視や通知サービスの併用が有効です。
また、建設業や派遣業、古物商、酒類販売など業法が絡む業種では、所管官庁が公表する行政処分や行政指導も必ず確認しましょう。
ニュース検索を行う際は、社名の表記ゆれ(旧社名・略称・英語表記)に注意。できるだけ複数のメディアでクロスチェックし、ネガティブな情報が出た場合は一時的に与信枠を絞るなどの対応を検討します。
得た情報は「いつ・どこから確認したのか」を必ず記録に残し、社内チャットやナレッジベースで共有する仕組みを整えることが重要です。
“完璧な名寄せはない”前提の運用ルール
反社確認において「100%誤判定がない状態」は現実的に不可能です。したがって大事なのは、疑わしい情報が出たときにどう動くかという初動ルールです。
疑義が出た場合は担当者が抱え込まず、即座に法務・総務が窓口となり、外部の専門家(弁護士や調査会社)に相談する。
取引開始後も、ニュース・官報・登記の変更といった「イベント」をトリガーにして再確認を行う。年に1回の棚卸しよりも、イベントドリブンで動いたほうが漏れが少なくなります。
「疑わしい相手は小口・前払いで対応」という退避先をあらかじめ用意しておけば、売上機会を完全に失わずにリスクを抑えられます。
出典:厚労省:企業が反社会的勢力からの被害を防止するための指針
出典:警察庁:反社会的勢力排除の条項例・PDF
出典:官報検索! 無料全文検索サービス:検索上の注意
出典:TSR:官報電子化と検索の注意点
財務・支払能力の見立て(最小限でもブレない型)
公開資料・信用調査の使い方
与信判断において「支払い能力をどう見立てるか」は重要なポイントです。上場企業であれば有価証券報告書や決算短信を確認できます。未上場企業でも、決算公告や会社案内などに手がかりがあります。
また、帝国データバンクや東京商工リサーチといった民間の信用調査会社のレポートは、資本関係や支払状況、企業評点などを短時間で把握するのに有効です。特に新規取引の初期判断では強い味方になります。
ただし、数字やスコアをそのまま鵜呑みにするのは危険です。
売上の集中度(特定顧客に依存していないか)
季節変動や業界特性(キャッシュフローの山谷がないか)
ビジネスモデル(資金繰りに余裕がある業種かどうか)
といった定性的な情報も合わせて記録しておきましょう。ニュースや噂に出た「支払遅延の話」も、必ず裏を取ってから判断することが大切です。
最初は必要最小限の与信限度額から入り、実際の入金実績を見ながら段階的に拡大していくのが安全です。信用調査レポートは半年〜年1回程度の更新で十分効果があります。
支払サイトと入金実績の初期合意
与信リスクは「条件設計」で大きくコントロールできます。最初の契約では、前払いや短めの支払サイト(月末締め翌月末払いなど)を設定し、実績が安定してから標準的なサイトに延ばすと安全です。
契約時には、請求・入金に関する細部も明文化しておくことが重要です。
請求書の締め日やフォーマット
インボイス番号の記載ルール
振込口座名義
これらを曖昧にすると、後々の遅延や認識違いの原因になります。
また、事前に入金予定表を共有してもらうだけでも、回収業務の手間が大幅に減ります。相手企業の経理締め日を把握し、自社の請求発行日を最適化すると、資金繰りの予測精度が向上します。
もし入金遅延が発生した場合は、自動的に与信限度を縮小し、新規出荷は前払いに切り替えるなど、即時対応できるルールを設けておきましょう。
与信限度額の置き方(小さく始めて上げる)
与信限度額の計算は、難しいモデルを使う必要はありません。例えば「月間予想売上 × 回収サイト ÷ 安全係数」という簡便な式で十分です。未知の取引先については安全係数を大きめに設定し、実績が積み上がれば徐々に緩めていきます。
限度額は「罰」ではなく「安全装置」です。営業部門には「入金実績が積み上がれば上げられる仕組み」と説明すれば、理解が得られやすくなります。
取引先ごとに「限度額・現残高・期限・担当・備考」を一覧化し、月次でレビューする仕組みを持つと効果的です。部署ごとに異なる取引先コードを使っていると重複カウントが発生するため、社内でコードを統一しておくことも忘れないようにしましょう。
また、格付けやスコアを使う場合も「数値+理由のメモ」を必ず残して、変動の根拠を後から追えるようにしておくことが肝心です。
出典:帝国データバンク:与信管理ソリューション
出典:リスクモンスター:取引先リストで一元管理
出典:収集すべき企業情報の基礎
取引開始後のモニタリング(“一度きり”にしない)
しきい値とウォッチリスト(変化を捉える)
与信チェックは「契約前に一度やって終わり」では不十分です。契約後も定期的にモニタリングを行い、変化を捉える仕組みを作る必要があります。
具体的には、新規契約・代表者変更・本店移転・インボイス取消・ニュース報道などを「イベントトリガー」として定義し、変化が起きたら再度確認するループを回しましょう。
法人番号・登記・インボイスはAPIやダウンロード機能を使えば定期チェックが可能です。月次で自社データと突合すれば、変化点の抽出が自動化できます。
さらに「要注意先リスト」を持ち、たとえば「遅延が1回でも発生したら与信ランクを1段階下げる」といった機械的なルールを用意しておくと、担当者の主観に頼らずに安全な運用ができます。
社内連携(営業・経理で見る画面を揃える)
営業部門と経理部門では「見たい情報」が違います。営業は販売機会に関心があり、経理は回収可能性を重視します。同じ数字でも切り口が違うため、画面は役割別に用意しつつ、定義そのものは一つに統一しましょう。
例えば、
未入金一覧
遅延アラート
限度額超過の警告
これらを営業部門からも見えるようにすれば、現場が自律的に動けます。
また、月次会議は「監査」ではなく「ナビゲーションの場」にします。問題先について「次に何をするか(与信の縮小、条件変更、経営層との面談)」まで決め切ることが重要です。
共有メモには判断理由を短文で残し、後から誰が読んでも意図が伝わるようにしましょう。
事故時の初動ルール(止める・回収・伝える)
もし入金遅延や支払停止の兆候が出た場合は、即時に出荷を止めるか前払いに切り替えるルールを明確にしておきましょう。営業担当者の独断で継続してしまうと、被害が拡大する恐れがあります。
法務・経理・営業がすぐに連携できる「初動チャット」を設け、法的手段(内容証明の送付、担保権の実行、相殺処理)と交渉手段(分割払い、契約再締結)を並行して検討します。
倒産の公告(官報)や登記変更が出た場合は、既存債権の保全を最優先に。事故時の記録は、次回の与信判断に活かせる「社内資産」として蓄積していきましょう。
最後に、社内や経営陣への報告ルールを決め、エスカレーションが遅れないようにすることが不可欠です。
出典:国税庁:法人番号
出典:国税庁:インボイス登録確認
出典:法務省:登記情報提供サービス
6. まとめ:今日から使える「取引先・与信チェック」実装メモ
与信の実務で失敗しないためのポイントを改めて整理します。
最初の段階で公的情報3点セットを必ずチェック
法人番号、登記、インボイス。この3つで「実在と適格性」を固めましょう。
契約には反社排除条項を必ず盛り込む
公知情報の確認とセットでリスクを減らします。
初期は小口・前払いから入り、入金実績に応じて限度を上げる
「階段設計」で安全に取引を広げます。
定期モニタリングを仕組みにする
法人番号・登記・インボイスの差分検知、ニュースや官報の変化点をトリガーに、与信枠や条件を見直します。
スコアは参考、結論は自社方針
外部の数値はあくまで補助線。最終判断は社内で統一した基準に基づきます。
こうした流れを押さえておけば、初めて与信を担当する方でも迷わずに判断でき、ブレのない与信運用がスタートできます。
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