SBTi申請とは?中小企業向けの申請手順を最後まで解説

SBTiと「中小企業ルート」の全体像をつかむ
SBTiとは? 中小企業ルートの特徴と通常ルートとの違い
SBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が設定した温室効果ガス削減目標が最新の気候科学と整合しているかを検証し、認定・公開する国際的な枠組みです。
中小企業(SME)ルートはその中でも特別に用意された申請方法で、定義済みの選択肢から選んで提出できる仕組みになっています。そのため、通常ルートと比べて入力項目が少なく、社内レビューにかかる工数も抑えやすいのが大きな特徴です。
基本となるのは「スコープ1と2を1.5℃整合で削減する」こと。スコープ3については、必須の個別目標は求められませんが、把握や削減への努力姿勢は期待されます。したがって、自社がSMEルートで申請できるのか、あるいは通常ルートを選ぶべきかを早めに見極めることが、後戻りを防ぐ第一歩です。
近接(Near-term)目標とは? 基準と申請の基本を理解する
「近接目標」とは、通常5〜10年先を対象に設定する温室効果ガス削減の目標を指します。SMEルートでは、スコープ1・2について1.5℃整合での目標設定が基本です。
SBTiが公表している近接目標基準(最新版)には、対象スコープや整合性の判断基準、スコープ3の扱いなどが明記されており、審査はこの文書に沿って行われます。
SMEルートでも一般ルートでも申請できますが、初めての申請であれば、手順がシンプルで分かりやすいSMEルートを選ぶのが無難です。基準文書を手元に置き、自社の用語や社内資料を合わせて整理しておくと、審査段階での差し戻しを大幅に減らすことができます。
承認までの期間と公開までのスケジュールを知っておく
申請フォームを提出してから審査が完了するまでの目安は、およそ12週間(約3か月)です。承認された場合、6か月以内に社外へ発表することが基本ルールとされています。したがって、社内では広報やIR部門と連携し、認定発表に向けた準備を並行して進める必要があります。
SMEルートでもこの全体の流れは変わりませんが、提出内容の正確さと最新版様式の遵守がスピードを左右します。FAQや「はじめ方ガイド」は頻繁に更新されるため、提出直前に必ず最新版を確認すると安心です。
出典:SBTi「SBTi Announces Updated SME Definition and Fees」
出典:SBTi「SBTi Corporate Near-term Criteria(V5系)」
出典:SBTi「FAQs」
出典:SBTi「Getting Started Guide for Science-Based Target Setting」
SBTiの申請前に整えるべき準備
自社はSME対象か? 適格要件を最初に確認する
まず最初に行うべきは、自社がSMEルートの対象に当てはまるかどうかの確認です。従業員数や独立性などの要件は、SBTiのFAQに明確に示されています。
例えば、企業グループの一員である場合や、親会社との関係が強い場合には、SMEルートではなく一般ルートのほうが適切とされることがあります。境界線上で判断が難しい場合は、FAQの該当部分を引用して社内決裁資料に添付するとスムーズです。
もし迷う場合は、一般ルートも並行して比較検討しておくことをおすすめします。
GHGインベントリの作成で算定の“抜け”を防ぐ
SBTi申請の前提として必要になるのが、最新年度のスコープ1・2の排出量データです。これをGHGプロトコルに沿って算定し、裏付けとなる「活動量×排出係数」の根拠を残しておきましょう。
電力使用量については、市場ベースと所在地ベースの両方を整理する必要があります。ここで数字に抜けや仮置きがあると、審査の際に整合性が取れず差し戻されてしまいます。
SBTiの「はじめ方ガイド」を手引きに、用語や粒度を社内資料に合わせておくと、レビュー作業が格段にスムーズになります。
目標年と削減水準を社内で合意する方法
近接目標の「ターゲット年」は、申請時点のルールやSBTiのFAQによって許容範囲が指定される場合があります。再生可能エネルギー導入計画、省エネ投資のスケジュール、契約更新のタイミングなどと照らし合わせ、科学的に整合しつつ達成可能な水準を選ぶことが重要です。
検討の過程は必ず議事録や資料に残し、提出時には「なぜこの年限・水準にしたのか」を一行で説明できるよう整理しておくと安心です。
出典:SBTi Services「Small and Medium-sized Enterprises (SMEs) FAQs」
出典:SBTi「Getting Started Guide for Science-Based Target Setting」
出典:SBTi「FAQs」
オンライン提出の実務(SBTi 中小企業 申請手順の“書き方と送付”)
提出フォームと申請ポータルの最新版を確認する
SBTiでは、2025年に申請用ポータルを大幅にアップグレードし、オンライン提出に一本化されました。このため「紙の送付」や「古い様式のフォーム提出」は基本的にできなくなっています。
移行期には「◯月◯日まで旧様式可、それ以降は新様式必須」といった期限付き告知が出ることもあるため、提出直前に必ずSBTiのブログやニュースで最新情報を確認することが大切です。
最新版の提出フォームは「Resources」ページに掲載されています。もし旧版を使って途中まで入力していた場合は、差し替えや再入力が必要になる可能性があるため、早めに対応方針を決めておくことが安心につながります。
差し戻しを避けるための入力ポイント
入力時に最も多い差し戻しの原因は、「会社情報や目標の記載が不正確」なことです。例えば会社名や所在地、連絡先の表記が登記と一致していない、あるいは英字表記に揺れがあると、確認作業で止まってしまいます。
目標の入力では、定義済みのオプションから選んで記入する方式が中心です。特にスコープ1・2は必ず1.5℃整合で記載し、GHGプロトコルの用語(市場ベース/所在地ベース、スコープ区分など)を社内略語に置き換えず、基準文書どおりに記載するのが鉄則です。
提出前のチェックでは、
数値の突合チェック(入力した数字がインベントリと一致しているか)
用語の整合チェック(プロトコルや基準文書の表記と揃っているか)
を別々に行うだけで、差し戻しリスクを大幅に下げられます。
スコープ3排出量の扱いと現実的な対応方法
SMEルートでは、スコープ3の個別目標は必須ではありません。そのため、スコープ1・2の整合をまず優先すれば申請できます。
ただし、主要カテゴリ(例:購入した製品やサービス、物流・輸送、販売後の製品使用など)の把握は推奨されています。なぜなら、金融機関や顧客から「スコープ3も出してください」と依頼されるケースが多いためです。
将来的に一般ルートへ移行する可能性がある企業は、今のうちにスクリーニング調査を始め、重要度の高いカテゴリから精度を上げていくとスムーズです。また、建設業や農業など特定セクターでは「FLAG」や「建物関連基準」などのセクター別基準も存在するため、段階的に参照を始めておくと再申請時の負担が軽減されます。
出典:SBTi Blog「What to expect from the SBTi Services Validation Portal upgrade」
出典:SBTi Blog「The new SBTi Services Validation Portal has launched」
出典:SBTi Services「Resources(Target submission forms & guidance)」
出典:SBTi「SBTi Corporate Near-term Criteria(V5系)」
費用・期間・スケジュール設計(SBTi 中小企業 申請手順の“お金とカレンダー”)
SMEルートの申請費用を公式資料で確認する
SBTiはSME向けの検証費用を明確に公表しています。最新資料によると、
近接目標(Near-term):1,250米ドル
ネットゼロ目標(Net-zero):1,250米ドル
両方申請する場合:合計2,500米ドル
となっています。
注意すべきは「ネット記事や解説ブログに書かれている古い金額」をそのまま信じないことです。必ず公式資料の最新版PDFを確認し、提出前に保存しておきましょう。年度ごとに定義や料金の見直しが行われることもあり、例外規定も出るため、社内稟議を通す際に最新資料を添付すると説得力が増します。
割引・減免制度の条件と申請の流れ
中小企業の中でも、特に年商の小さい企業や、新興国・途上国に所在する企業には割引制度が適用される場合があります。
SBTiの「Target Validation Services Offerings」には、割引の対象条件や申請フローが詳しく書かれています。必要であれば財務データや所在国の証明資料を用意し、早めに割引申請を進めるのがよいでしょう。
ただし、金融機関は割引対象外といった注意書きもあるため、注釈まで読み込み、条件を誤解しないようにすることが大切です。社内稟議書に添付する際には、該当ページの抜粋とURLを必ず添えるとスムーズに進みます。
承認までの期間と社内カレンダーの組み方
SBTiの検証プロセスには、提出から完了まで概ね12週間(約3か月)がかかると見込んでおきましょう。そのため、逆算して社内スケジュールを立てることが必要です。
実務では以下のような流れを取る企業が多いです。
GHGインベントリ(スコープ1・2)の確定
目標年・水準についての社内合意形成
提出フォーム入力+法務レビュー
申請・費用支払い
審査対応(質問や補足依頼への対応)
この一連の準備におよそ2〜3か月を見込み、そこからさらに審査期間を加味すると全体で半年近くかかることもあります。
また、承認後は6か月以内に社外発表が義務づけられているため、広報やIR部門と早めに連携し、検証と発表の準備を並走させるのが効率的です。
出典:SBTi Services「Target Validation Services Offerings(Dec 2024)」
出典:SBTi「SBTi Announces Updated SME Definition and Fees」
出典:SBTi「How to set science-based targets(プロセス全体の流れ)」
つまずきポイントと回避策(SBTi 中小企業 申請手順の“よくある質問”)
SMEに該当するかどうかの判断と組織範囲の決め方
多くの中小企業が最初に迷うのが、「自社はSMEルートの対象になるのか」という点です。例えば、子会社や関連会社を持っている場合や、持株会社の傘下にある場合、または共同支配の事業体に該当する場合など、組織境界の線引きが複雑になります。
このようなケースでは、SBTiが公開している「SME FAQ」に適格性の具体例が記載されています。FAQの該当箇所をそのまま引用し、社内決裁資料に添付することで判断のブレを減らせるでしょう。
もし社内でも見解が割れる場合は、リスクを避けて一般ルートでの申請を検討するのも現実的です。いずれにしても、判断の根拠を残すために、FAQのURL・スクリーンショット・取得日時を必ず保存しておくことが大切です。
申請フォーム差し戻しを防ぐ“書き方のコツ”
SBTi申請でよくある差し戻しの原因は、とても単純です。たとえば、
市場ベースと所在地ベースの混同
単位や数値の誤記
用語の使い方が基準文書と違う
といったものです。つまり、「社内で使っている略語」や「独自の表記」をそのまま申請フォームに書くことがトラブルの元になっています。
差し戻しを防ぐには、SBTiが定める「近接目標基準(V5系)」や「はじめ方ガイド」に沿って、用語を基準文書と完全に合わせるのが鉄則です。
レビューの段階では、
定義や用語の整合チェック(語彙が基準に沿っているか)
数値や単位の突合チェック(計算根拠と一致しているか)
の2つを分けて行い、最後に最新版フォームを使っているか再確認すれば、差し戻しのリスクを大幅に下げられます。
ポータル刷新や様式変更への備え方
SBTiの申請ポータルや様式は、年に数回アップデートされることがあります。たとえば2025年のポータル刷新では、切替日や一時停止期間が公式ブログで告知されました。
このため、実務的には「締切ギリギリに提出する」のではなく、期日前にいつでも出せる状態を作っておくことが一番のリスク回避になります。
実際の運用ポイントは以下の通りです。
社内カレンダーに「様式更新チェック」のタスクを入れる
最新版フォームを常に社内フォルダに保存しておく
旧版で作業していた場合は、早めに差し替えの方針を決める
こうした「前倒し運用」を徹底するだけで、直前の差し戻しややり直しを大幅に減らせます。
出典:SBTi Services「Small and Medium-sized Enterprises (SMEs) FAQs」
出典:SBTi「SBTi Corporate Near-term Criteria(V5系)」
出典:SBTi Blog「What to expect from the SBTi Services Validation Portal upgrade」
出典:SBTi Blog「The new SBTi Services Validation Portal has launched」
まとめ:中小企業のSBTi「申請手順」を明日から動かす実務メモ
最後に、SBTi申請を進めるうえで押さえておきたいポイントを整理します。
まずは自社がSMEルート対象かをFAQで確認 従業員数や独立性の条件を満たすか、境界線上なら一般ルートも視野に。
最新年度のGHGインベントリを整備 スコープ1・2をGHGプロトコルに沿って算定し、根拠を残す。
目標年と削減水準を社内で合意 基準文書の用語で整理し、理由を一文で説明できる形にする。
最新版フォームと提出ポータルの仕様を常に確認 提出直前に必ず公式サイトを見直すこと。
費用は公式資料で再チェックし、割引制度も検討 最新版PDFを保存して稟議に添付。
提出から承認までは約12週間を見込む 広報・IRの準備と並行し、発表までの動線を設計。
様式変更やポータル更新に備え、前倒しで提出できる状態を作る 「いつでも出せる状態」を維持することが最速ルート。
これらを実行すれば、初めての担当者でも大きな迷いなく、中小企業としてのSBTi申請を最後まで走り切ることが可能になります。結局のところ、段取りを丁寧に整えることこそが、最短で確実に承認を得るための道筋です。
BizShareTV
仕事に役立つ動画はここにある
いつでも、どこでも、無料で見放題
