再エネ証書とは?非化石証書とJクレジットの違いも解説

再エネ証書とは何か、その基礎と用語の前提
「再エネ証書とは」電力の“由来属性”を証明する仕組み
再エネ証書とは、「この電力がどのような電源から作られたのか」という属性(アトリビュート)を証明するための仕組みです。ポイントは、電力の物理的な供給そのものを扱うのではなく、電力に紐づく“環境価値”だけを切り離して取引できることです。
日本国内では、非化石証書がこの仕組みの中核になっています。企業は証書を取得し、さらに“償却(retire)”することで、使用した電力が再エネ由来であると主張できます。
ここで重要なのは、Jクレジットと混同しないことです。Jクレジットは「削減されたCO₂量そのもの」を扱う仕組みであり、再エネ証書のように“由来”を示すものではありません。社内説明では、「証書=由来属性」「クレジット=削減量」と区別して話すと誤解を防ぎやすいです。
再エネ証書とスコープ2市場基準の関係
スコープ2(購入電力由来の排出量)を算定する際には、所在地基準(location-based)と市場基準(market-based)の二通りの方法があります。再エネ証書は市場基準で用いる道具であり、契約や証書に基づいて排出係数を調整できます。
注意点は「証書を買っただけでは算定に反映されない」ということです。期末の償却処理と、台帳での証跡管理が必要になります。監査やCDPの質問に対応するには、証書ID・発電所・発電年・償却日といった情報を一貫して残しておく運用が欠かせません。
国際イニシアチブ(RE100・CDP)から見た再エネ証書
RE100やCDPといった国際的な取り組みでは、発電年の同時性(会計期と一致しているか)や、地理的整合性(調達地域が妥当か)といった要件が厳格に求められます。
日本の非化石証書は、発電所や年度の情報を紐づける“トラッキング”の仕組みが整備されつつあり、国際要件への整合性が高まっています。
自社の方針としては、
どの種類の証書を使うか
どの年度の電力に割り当てるか
いつ償却するか
この3点を年初の段階で決めておくことが、後の差し戻しや手戻りを減らすポイントです。
出典:資源エネルギー庁:非化石エネルギー(非化石証書の活用状況 等)
出典:GHG Protocol:Scope 2 Guidance
出典:Renewable Energy Institute:Electricity Certificate for Renewables(日本の証書解説)
非化石証書を正しく理解する(種類・トラッキング・活用の型)
非化石証書の区分の違い(FIT・非FIT/再エネ指定の有無)
非化石証書と一口に言っても、実は中身はいくつかの区分に分かれています。大きく整理すると、
FIT非化石証書
非FIT(再エネ指定あり)非化石証書
非FIT(再エネ指定なし)非化石証書
の3種類があります。
FIT非化石証書は、固定価格買取制度(FIT)で買い取られた電気に紐づくものです。一方、非FITの証書は市場で調達された電源などに由来します。さらに非FITには「再エネ指定あり」と「指定なし」があり、再エネ指定ありは太陽光や風力など再エネ由来に限定されるのに対し、「指定なし」には原子力発電も含まれてしまいます。
この違いは、外部に説明するときに極めて重要です。たとえば「RE100の基準に合うかどうか」を判断する上でも、どの区分をどれだけ調達しているかが問われます。
したがって、契約書や請求明細に「証書の種類・数量・対象期間」をきちんと明記し、それを社内の台帳に転記して一元管理する仕組みを作る必要があります。
非化石証書のトラッキング(発電所・発電年・場所)の前提
非化石証書は、ただ「非化石由来」と言うだけでなく、発電所名、発電年、発電場所といった「由来情報」を付与する“トラッキング”の整備が進んでいます。
これにより、国際的なイニシアチブ(RE100やCDP)が求める「同時性」や「地理的整合性」にも対応しやすくなりました。たとえば、同じ会計年度の電力に対応した証書を使っているか、調達地域が妥当か、といった点が評価の基準になるからです。
そのため、年度をまたいで証書を使う場合や、他地域の電源を利用する場合は案件ごとに適用可否を確認することが欠かせません。しかも、こうした要件は年ごとに更新されることがあるため、期中に出る告知やルール変更をフォローする体制を持つことが重要です。
非化石証書の市場・相対取引と価格の見方
非化石証書の価値は市場で取引されるため、価格は一定ではなく変動します。証書は日本卸電力取引所(JEPX)の市場で取引されることもあれば、電力会社との相対契約を通じて調達する場合もあります。
価格が変動する要因としては、
FITか非FITか
再エネ指定の有無
トラッキングの条件(発電所・年度情報が付いているかどうか)
需要期(電力需要が高まる時期かどうか)
などがあります。とくに、RE100適合性が高い証書ほど単価は上がる傾向にあります。
そのため、調達コストと適合性のバランスをどう取るかが実務での工夫ポイントになります。年度や電源のミックスを考え、どの証書をどれだけ組み合わせて調達するかを計画的に設計するとよいでしょう。
また、小売電力会社の「再エネメニュー」を利用する場合でも、裏付けとなる証書がどれだけ償却されているかを契約書や明細に盛り込み、それを社内台帳に転記して管理することが、会計監査や外部報告に対応する上で不可欠です。
出典:経済産業省:非化石証書の仕組み・区分(次世代燃料の環境価値認証・移転制度)
出典:Japan Energy Hub:JEPX extends origin tracking to all non-fossil certificates
出典:ENECHANGE:FIT Non-Fossil Certificate with Tracking(概要)
Jクレジットを正しく理解する(性格・使いどころ・注意点)
“削減・吸収量”という性格(オフセット用途が主眼)
Jクレジットは、再エネ証書とは全く性格が異なります。Jクレジットは、省エネ機器の導入、再エネ発電の実施、森林整備などによって実際に削減・吸収された温室効果ガスの量を、国が公式に認証する仕組みです。単位は「t-CO₂」で表され、電力量ではなく二酸化炭素の削減量そのものを数値化しています。
企業は、この「削減・吸収量」をクレジットとして購入・移転・償却することで、自社の排出量をオフセット(相殺)することができます。したがって、Jクレジットは「どんな電源から電気を使ったか」を示す非化石証書とは目的がまったく違い、属性を示すものではなく、排出削減の“量”を示す制度だと理解する必要があります。
社内資料では、必ず「属性(非化石証書)」と「削減量(Jクレジット)」を別枠で整理して説明すると、誤解がなくなります。
スコープ2ではどう扱うか(原則は別枠)
国際的な基準であるGHGプロトコルでは、電力の属性を示す証書と、削減量を示すクレジットは原則として別物と整理されています。そのため、Jクレジットをそのままスコープ2の市場基準調整に利用することは基本的に認められていません。
ただし、例外的に「再エネ由来のJクレジット」が電力の属性証書としての要件を満たす場合があります。その場合には、国のガイダンスや制度の注記を必ず確認し、監査説明に必要な証跡を残すことが重要です。
迷ったときの安全な考え方は、「スコープ2は非化石証書で処理し、残りの排出分をオフセットするのにJクレジットを使う」という基本線で設計することです。これなら説明責任も果たしやすく、会計監査でもスムーズに通ります。
スコープ1・3での活用(カーボンニュートラル宣言やサプライチェーン対応)
自社の燃料使用による直接排出(スコープ1)や、取引先や物流を含むサプライチェーン全体の排出(スコープ3)は、すぐには削減しにくい領域です。ここでJクレジットが有効に活用できます。
たとえば、まずスコープ2については非化石証書で処理し、その上で残った排出をJクレジットでオフセットする設計を取ると、現実的かつ実務的に運用しやすいです。また、自社やサプライヤーが省エネや森林整備などのプロジェクトを立ち上げて、その成果としてJクレジットを発行し、自社で使う(社内利用)ことも可能です。
ただし、どの場合でも最優先すべきはダブルカウント(同じ削減を二重に数えること)の回避です。そのためには、台帳を統一し、「発行番号・プロジェクト名・数量・償却日」まで一貫して管理することが欠かせません。
出典:J-クレジット制度 公式サイト:J-Credit Scheme(英語版)
出典:J-クレジット制度 公式サイト:Accounts/Offsets(口座・償却の仕組み)
出典:経済産業省:国際的イニシアチブ対応ガイダンス(属性証書とオフセットの整理)
非化石証書とJクレジットの違い(実務の判断基準と社内運用)
目的・指標・計上先の違いを“ひと目で”示す
非化石証書とJクレジットは混同されやすいですが、役割・指標・会計上の位置づけがまったく異なります。
非化石証書:電力の「由来属性」を証明するもの。スコープ2の市場基準で使用。指標は「kWhに紐づく環境価値」。
Jクレジット:削減・吸収された「温室効果ガスの量」そのもの。オフセット用途で使用。指標は「t-CO₂」。
つまり、目的(属性か削減か)、指標(kWhかt-CO₂か)、計上先(スコープ2かオフセットか)という3つの軸で整理すると、社内での説明が格段にわかりやすくなります。
稟議や社内合意に使う資料には、この3軸を必ず入れて固定化すると、判断が属人化せず、説明の一貫性も高まります。
ダブルカウントを避ける“償却”の作法
証書もクレジットも、購入しただけでは使えません。「償却(retire)」して初めて自社の排出削減主張に利用できるのです。
非化石証書では「年度の割当て」「証書ID」「発電所情報」などを紐づけて管理します。Jクレジットでは「発行番号」「プロジェクト名」「数量」「償却日」を台帳に記録します。
さらに、電力会社の「再エネメニュー」を使う場合でも、裏付けとして実際にどんな証書をどれだけ償却したかの明細を受け取り、社内台帳に反映させる必要があります。これを怠ると、監査や外部評価の場で「ダブルカウントではないか」と指摘されるリスクが高まります。
国際要件と国内制度をつなぐ“橋渡し”の視点
RE100やCDPといった国際的なイニシアチブでは、「同時性」や「地理的整合性」に関する要件が非常に細かく定められています。一方、日本の制度は年々改善されており、非化石証書のトラッキング制度の充実によって、国際要件との整合性も高まっています。
そのため実務では、「市場基準の証書=非化石証書」「オフセット用途=Jクレジット」という線引きを崩さないことが重要です。そして、必ず根拠資料のURLやPDFを案件フォルダに保存するところまでを運用フローに組み込むと、社内外の説明がスムーズになります。
出典:Renewable Energy Institute:Non-Fossil Certificate qualified by RE100 with a condition(RE100での扱い)
出典:GHG Protocol:Scope 2 Guidance(属性証書と主張の一意性)
出典:資源エネルギー庁:再エネ価値の評価環境整備(RE100要件を踏まえた検討)
調達・価格・最新動向(供給制約下での進め方)
非化石証書の供給と価格の見方(電源・年度・条件のミックス)
非化石証書は、証書の区分(FITか非FITか)、再エネ指定の有無、トラッキング条件(発電所や年度の情報があるかどうか)、さらに需給の逼迫度によって価格が大きく変動します。一般に、RE100に適合する度合いが高い証書ほど単価は上がる傾向にあります。
そのため、調達担当者は「なるべくコストを抑えたいが、国際要件も満たさなければならない」というバランスを取る必要があります。実務的には、四半期ごとに相場や要件を見直し、年度や電源を組み合わせて調達計画を立て直すのが現実的です。
証書の流通や手数料に関する変更は、JEPXや市場関係者からの告知で発表されることが多いため、購買部門やサステナ部門の中に「情報ウォッチ担当」を決め、常に市場の動きをモニタリングしておくと安定した調達につながります。
政策や会計ルールの更新を“早読み”する姿勢
電力市場や会計制度は、年に数回更新されるのが普通です。たとえば、非化石証書のトラッキング対象が拡充されたり、GHGプロトコルでスコープ2の見直し議論が進んだり、あるいはRE100の補足的な解釈が追加されたりといった変化が続いています。
こうした変更は、そのまま会計処理や外部開示の数値に影響します。そのため、期初の段階で要件を一度固めたうえで、期中は必ず変更の告知をウォッチし、期末には「償却処理と証跡整理」まで含めた年次サイクルとして回すことが重要です。これを怠ると、監査対応が遅れたり、外部からの指摘につながるリスクがあります。
社内体制と台帳の標準化(監査・開示に耐える形)
非化石証書やJクレジットの運用は、サステナ部門だけで完結させるのではなく、購買・会計・サステナの三者で共通の台帳を持つのが望ましい形です。
台帳の必須項目としては、
非化石証書:証書ID、発電所名、年度、数量、償却日
Jクレジット:発行番号、プロジェクト名、数量、償却日
これらを漏れなく記録することが基本です。
さらに、稟議書には「目的(属性かオフセットか)」「計上先(Scope2かオフセットか)」「外部報告の対象(RE100、CDPなど)」を固定項目として盛り込み、根拠となるPDFやURLを添付する運用を徹底すると、担当者が入れ替わっても継続的に制度が回ります。これにより、監査や外部評価に耐えられる運用体制を構築できます。
出典:Japan Energy Hub:Origin tracking extended to all NFCs(市場設計の変更・手数料)
出典:経済産業省:Climate Change(関連リンク:J-Credit等)
出典:REUTERS:RE100 urges Japan to triple renewables capacity by 2035(需給・政策背景)
まとめ:実務で迷わない再エネ証書とJクレジットの使い分け
最後に、これまでの整理を「実務でどう動かすか」という観点でまとめます。
まず、スコープ2の排出量は“属性の証書(非化石証書)”で市場基準に沿って処理します。ここでは、証書のトラッキング要件をきちんと満たし、年度ごとの償却と台帳管理を徹底することが重要です。
次に、スコープ1やスコープ3の排出削減やカーボンニュートラル宣言の裏付けには、“削減量のクレジット(Jクレジット)”を別枠で使用します。ここでは、ダブルカウントを避けるために台帳と償却の記録を一本化して管理することが必須となります。
そして最後に、制度・会計ルール・国際要件のアップデートを常にウォッチし、期末には「いつでも説明できる証跡一式」をそろえることが、企業としての信頼を高めつつ、確実に脱炭素経営を進める最短ルートです。
このように「非化石証書=電力の由来属性」「Jクレジット=温室効果ガス削減量」という基本線を守り、用途を正しく切り分けて社内に定着させれば、初めての担当者でも迷わずに再エネ調達を進めることができます。
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