オンボーディングの「フロー図」と「90日計画」とは?現場で使える設計と運用

「オンボーディング フロー図 / 90日計画」の全体像と狙い
オンボーディングの目的を“定着と戦力化”の二軸で定義する
オンボーディングとは、新入社員や新規ユーザーが早く職場やサービスに馴染み、早期に成果を出せる状態をつくる取り組みです。ここで重要なのは、目的を「定着(離職や解約の予防)」と「戦力化(価値創出の開始)」の両輪で捉えることです。
新任者の業務理解や組織ルールの習得、期待成果の明確化まで含めて“最初の体験”を設計することで、作業リストが単なるタスクではなく目的に直結します。量の多い説明資料を一度に渡すのではなく、必要なタイミングで必要な情報にアクセスできる構造が大切です。オンボーディングがうまくいけば、エンゲージメント(仕事への前向き度合い)と生産性が高まり、離職率は低下します。
フロー図と90日計画を“道筋と計画”で役割分担する
オンボーディングのフロー図は、入社前から定着までの道筋を視覚的に示すものです。プリボーディング(入社前準備)、初日、1週間後、1か月後、90日後と進む過程で、誰が・何を・いつ・どの手段で行うかを一目で理解できるようにします。
一方で90日計画は、そのフロー図に沿って達成すべき成果(例:職務スキルの習得、人間関係の構築、KPIの初期達成値)を具体的に日程と担当者に落とし込んだものです。フロー図で全体像の迷いを減らし、計画で責任を明確にすることで、抜け漏れが少なくなります。
初心者でも扱える“最小構成”を決めてから拡張する
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「入社前に準備すること」「初週の必須オリエン」「初月のスキル習得」「90日までの成果レビュー」の4段階で十分です。
そこにメンター制度(先輩社員の伴走)や定期的な1on1(上司との短時間面談)を組み込み、運用の手応えを見ながら徐々に拡張します。ツールも、最初はカレンダーやタスク管理、チャットなど既存の仕組みで足ります。運用が安定した段階で、専用ポータルや学習管理システム(LMS)の導入を検討すればよいでしょう。
出典:Harvard Business Review「Onboarding New Employees Without Overwhelming Them」
出典:SHRM「Onboarding Process」
出典:Gallup.com「Why the Onboarding Experience Is Key for Retention」
「オンボーディング フロー図」の描き方——ユーザーフロー発想で迷わない
“ユーザージャーニー”と“ユーザーフロー”を使い分ける
オンボーディングの図を作る際は、「全体の体験の流れ(ユーザージャーニー)」と「システム内での具体的操作(ユーザーフロー)」を分けて考えると整理しやすいです。
ジャーニーでは、採用通知 → 入社書類提出 → 初日オリエン → 部署配属 → 30日レビュー → 60日レビュー → 90日サマリー評価、といった全体像を俯瞰します。その上に、各ステップでの具体操作(書類アップロード、勤怠入力、研修受講など)をフローとして描けば、道に迷わず進める設計になります。
「最初の達成」を早く作るために“チュートリアル”を減らす
新入社員に対して最初に膨大な説明をまとめて行うと、多くは記憶に残りません。そこで有効なのが、必要な場面でだけ表示される“文脈ヘルプ”(画面上の軽いガイド)です。
例えば、最初の達成体験を「メール設定完了」「勤怠登録成功」「初回データ入力完了」と設定し、図にはそのゴールを明示します。そのゴールに至る最短ルートを太線で示せば、支援者も伴走しやすくなります。
コンポーネント(部品)化して再利用できる図にする
「入社前案内」「初日チェックイン」「IT設定」「法定研修」「業務ハンドオフ」「評価レビュー」といった要素を部品として定義し、職種や部署に応じて組み合わせます。図をSwimlane(担当別のレーン)形式で描けば、人事・現場・ITなどの役割分担が一目で分かります。
フロー図は最新運用に合わせて更新し続ける必要があるため、部品化しておくと修正がしやすく効果的です。
出典:Nielsen Norman Group「User Journeys vs. User Flows」
出典:Nielsen Norman Group「Onboarding Tutorials」
出典:Nielsen Norman Group「Mobile App Onboarding」
90日計画の作り方——「30-60-90」で成果を積み上げる
30日:基礎の理解と関係構築に集中する
最初の30日は「理解と関係構築」に集中します。組織の目的や役割、優先課題を把握し、関係者の顔と名前を一致させ、期待値を揃えることが重要です。
この時期は、過去資料を読み込み、意思決定の背景を理解することが中心になります。同時に、小さな改善を一つ実行して「早く価値を返す経験」を積むと、信頼が得やすくなります。KPIは学習目標の達成や定例会の設定完了など、行動ベースで置くと良いです。
60日:自分の担当領域で“仕組み化のタスク”に着手する
職務理解が深まったら、既存プロセスのボトルネックを探し、標準化や自動化の企画に着手します。ここでは「小さくても早い成果」を出すことが鍵です。
週ごとのレビューで優先順位を見直し、必要な権限やデータアクセス、他部門の協力を明確化します。60日の終わりには、90日に向けた達成見込みやリスクを上長に共有し、期待値を調整しておくとスムーズです。
90日:数値で“初期インパクト”を示し、次の四半期へ接続する
90日は区切りのタイミングです。ここで「定着と戦力化」を数値で示すことが重要です。採用時に約束した成果のうち、早期に達成できるKPIを達成し、改善量や生産性向上をレポートします。
同時に、次の四半期に向けた計画(課題仮説・必要リソース・期待効果)を提示し、「ただの慣れ期間」で終わらせないようにします。ハイブリッド勤務の場合は、オフィス出社日と在宅勤務日のリズムもこの時点で固めるのが理想です。
出典:Harvard Business Review「To Retain New Hires, Spend More Time Onboarding Them」
出典:Harvard Business Review「Onboarding New Employees in a Hybrid Workplace」
出典:Harvard Business Review「Onboarding Can Make or Break a New Hire’s Experience」
ハイブリッド時代の「オンボーディング フロー図 / 90日計画」運用
プリボーディングで“初日の不安”を消しておく
入社前の1〜2週間で、機材の発送、アカウント発行、初日のスケジュール、連絡先一覧、FAQ(よくある質問)の案内をまとめて提示します。
これにより、初日の混乱を防ぐだけでなく「安心感」を高められます。特にハイブリッド勤務では出社か在宅かで導線が異なるため、フロー図に初日の流れを明確に描き、資料はリンクでワンクリック表示できるようにしておくと効果的です。
バディ制度と定期1on1を“仕組み”として図に埋め込む
リモート勤務やハイブリッド勤務では、雑談や偶然の交流が減るため、新入社員が孤立しやすいという課題があります。そこで重要なのが「バディ制度」と「定期1on1」です。
バディ(先輩社員)を伴走役として割り当て、上司との1on1面談を必須イベントとしてフロー図に組み込みます。また、30日・60日・90日のレビュー日程もあらかじめ図に入れておけば、忙しさで後回しにされることを防げます。
オリエンは“短く分割”し、自己学習はオンデマンド化する
従来の「半日かけて一括オリエン」は、情報過多で記憶に残りません。これをテーマ別に短時間セッションへ分割し、録画や資料を後から見返せるようにしておくと、在宅勤務者でもキャッチアップしやすくなります。
特にIT設定やセキュリティ研修は、画面上の文脈ガイドを用意することで、つまずきを減らせます。これにより、オンボーディングが「苦痛な一括説明」ではなく「必要な時に助けてくれる仕組み」へと変わります。
出典:SHRM「Onboarding Process」
出典:Harvard Business Review「Onboarding New Employees in a Hybrid Workplace」
出典:Gallup.com「The Essential Ingredients for Effective Onboarding Programs」
成果が出る「90日計画」のKPIとチェックリスト
主要KPI:定着と戦力化を同時に見る
オンボーディングの成果を測る際は、定着と戦力化の両面からKPIを設定します。
定着のKPI:90日離職率、エンゲージメントスコア(簡易アンケート)、オンボーディング満足度
戦力化のKPI:職種ごとの最初の成果指標(例:営業なら案件創出数、エンジニアなら初リリース数、企画職なら小改善提案の実施数)
また、KPIは新任者だけに置くのではなく、受け入れ側(上司・バディ・人事)にも設定することが大切です。準備や面談が計画通りに実行されたかどうかも追跡する仕組みを作ります。
90日レビューの“定型アジェンダ”で比較可能性を持たせる
90日レビューは、「人によって内容がバラバラ」にならないよう、定型アジェンダを設けると効果的です。
議題は以下の4つに固定します。
学習と環境整備の進捗
人間関係の構築状況
成果と改善量
次の四半期の計画
これをテンプレートに沿って記録すれば、部門間で横比較ができ、オンボーディングの質を継続的に改善できます。
チェックリストで“未実施ゼロ”を徹底する
チェックリストは、プリボーディング・初週・初月・90日といった段階ごとに作成し、責任者(人事・上司・IT・新任者)を明確にします。
人事領域では、SHRM(米国人事協会)のガイドラインを参考に、法定説明、福利厚生案内、バディ割当などの基本項目を押さえます。その上で自社の職種別要件を追記します。チェックリストをカレンダーやタスクチケットに紐づけると「未実施ゼロ」を実現できます。
出典:Gallup.com「Why the Onboarding Experience Is Key for Retention」
出典:SHRM「Onboarding」
出典:SHRM「Checklist for Developing Onboarding Practices」
SaaSやプロダクトにも応用できる「オンボーディング フロー図」の考え方
最初の“アハ体験”までをフロー図で最短化する
プロダクトのユーザーオンボーディングでも、「最初の価値体感」までの導線を最短化することが鍵です。アカウント作成 → 初期設定 → サンプルデータ確認 → 初めての成功操作、といった流れを明示し、図には成功ポイントを太字で表示すると改善が進めやすくなります。
“押し付けの案内”を避け、文脈に応じた軽いガイドにする
大量のチュートリアルを一括で見せるのは逆効果です。代わりに、ツールチップやチェックリストを活用し、必要な時だけ案内を表示する方法が有効です。これにより離脱率を下げ、初回成功率を上げられます。パターンの有効性はABテストで検証すると確実です。
90日計画を“継続利用”の指標に置き換える
新入社員のオンボーディングにならって、プロダクト利用にも「30日:初回価値」「60日:主要機能の採用」「90日:継続利用の定着」といったマイルストーンを設定できます。
日数は目安であり、サービスの複雑さに応じて調整可能です。ダッシュボードには各段階の達成率を可視化し、改善が必要な導線を特定します。
出典:Nielsen Norman Group「Onboarding Tutorials」
出典:Nielsen Norman Group「Mobile App Onboarding」
出典:Appcues Blog「User Onboarding Best Practices」
まとめ:フロー図で迷いを消し、90日計画で成果を積み上げる
オンボーディングの成果は「情報量」ではなく「道筋」で決まります。フロー図で誰が・何を・いつ・どの手段で行うかを明確にし、30-60-90日の計画で成果と振り返りを仕組み化することで、再現性のある立ち上げプロセスが作れます。
ハイブリッド勤務ではプリボーディングやバディ制度を強化し、分割オリエンやオンデマンド学習で孤立を防ぎます。KPIは定着と戦力化の両面に設定し、チェックリストで「未実施ゼロ」を徹底します。
このようにフロー図と90日計画を一体化して運用すれば、オンボーディングは単なる「書類配布イベント」ではなく、「再現性のある人材立ち上げの仕組み」に変わります。
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