「事業ポートフォリオ見直し」の実践フレーム—現場で使える最短コースを解説

「事業ポートフォリオ見直し」の実践フレーム—現場で使える最短コースを解説
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少人数でできる事業ポートフォリオ見直しのフレームを、初めての担当者でも運用できる手順に落とし込みます。 時間や人員に余裕がない前提で、①30日での“現状の見える化”、②60日での“資源の寄せ直し”、③90〜120日での“撤退・強化・新規”の意思決定に整理し、BCGやGE(マッキンゼー)などの古典的フレームはコンパクトに使います。 ROICやWACCなど難しめの用語は注釈つきで扱い、製品別損益や顧客別収益の“実数”に紐づけて判断できるようにします。

少人数でできる事業ポートフォリオ見直しのフレームを、初めての担当者でも運用できる手順に落とし込みます。

時間や人員に余裕がない前提で、①30日での“現状の見える化”、②60日での“資源の寄せ直し”、③90〜120日での“撤退・強化・新規”の意思決定に整理し、BCGやGE(マッキンゼー)などの古典的フレームはコンパクトに使います。

ROICやWACCなど難しめの用語は注釈つきで扱い、製品別損益や顧客別収益の“実数”に紐づけて判断できるようにします。

「少人数でできる 事業ポートフォリオ見直し フレーム」の全体像

30/60/90(120)日の“ゲート”で区切り、判断素材→配分→意思決定の順に進める

最初の30日間は、とにかく「現状を正しく数字で把握すること」に集中します。売上や粗利を製品別や顧客別に分けて整理し、在庫や案件の滞留状況を可視化することで、今の姿を客観的に確認します。

次の30日間(60日まで)では、人材や資金、時間といった限られたリソースを、どこに重点的に使うのかを見直して寄せ直します。たとえば重点商品に人を集めたり、効果の薄い販促を一時的にストップするなど、具体的な再配分の行動を伴います。そして最後の90〜120日間では、実際に「撤退するもの」「強化するもの」「新規に取り組むもの」を意思決定し、実行に移します。この3段階の流れを踏めば、少人数のチームでも無理のない進行が可能になります。

フレームは“足し算”ではなく“削って使う”を判断基準にする

ポートフォリオ見直しに使えるフレームワークは数多くあります。代表的なのはBCGマトリクス、GEマトリクス、Ansoffの市場×製品マトリクスですが、これらを全部一度に使おうとすると現場の負担が大きくなりすぎます。少人数で動かす場合には、あれもこれも取り入れるのではなく、まずは最も分かりやすい1つか2つに絞ることが大切です。

例えばBCGマトリクスで市場の大まかな構造を把握し、その上でGEマトリクスで資源配分の優先度を考える、といったようにシンプルに組み合わせます。評価項目は必要になったときに後から追加すれば良く、最初から盛り込みすぎると結局回らなくなってしまうのです。少人数でできるフレーム活用のコツは「足すのではなく削って使う」という意識です。

「数字→仮説→小さく試す」の循環を仕組みにして継続性を担保する

事業ポートフォリオの見直しは、1回やって終わりという性質のものではありません。むしろ数字を確認し、仮説を立て、小さく試し、また数字を振り返るというサイクルを繰り返すことに意味があります。例えば毎月の粗利や受注件数の変化を見ながら、重点にすべき製品や顧客を更新し続ける必要があります。

そのためには週次で短いミーティングを設けて、「先週の数字から得られた気づき」「今週試すべき行動」「翌週の結果をどう確認するか」を話す仕組みを作ります。ドキュメントは1ページに簡潔にまとめ、裏側に証跡フォルダを残すことで、誰でも過去の経緯をたどれる状態を維持します。これを続けることが、少人数でも持続可能にポートフォリオ見直しを回すカギになります。

出典:中小企業庁「会計・活用の手引き」
出典:中小企業白書2021「財務分析の重要性」

まず“数字の土台”を作る——少人数で回すデータ整備のコツ

製品別・顧客別の損益を“ざっくりでも同じルール”で出す

ポートフォリオ見直しに必要なのは「完全な管理会計」ではなく、「比較できる数字」です。売上と変動費(仕入、外注、配送コストなど数量に比例する費用)、そして粗利を出し、その上に販管費(広告費や担当者の工数など)をざっくり配賦するだけで十分に役立ちます。

大事なのは全製品・全顧客に同じルールを適用することです。少し粗い計算でも、同じ基準で出した数字なら比較が可能です。例外を作ると全体の比較ができなくなるため、特殊ケースは“注記”で補足するにとどめましょう。ルールを揃えることが、少人数でも判断できる土台になります。

ROICとWACCは“難しい式”ではなく“門番の目安”として使う

ROIC(投下資本利益率)は「投入した資本がどれくらい利益を生み出しているか」を示す指標です。一方でWACC(資本コスト)は「投資家や銀行が最低限求めるリターン」を表します。これらは専門的な式で計算するのが本来の姿ですが、少人数の現場ではまず「ROICがWACCを上回っているかどうか」を確認する程度で十分です。

もしROICがWACCを下回っているなら、その事業や製品は資本を食いつぶしている可能性があります。改善余地があるのか、それとも撤退候補とすべきかを検討するきっかけとして活用しましょう。つまり、難しい理論を完璧に使うのではなく、意思決定の「門番」としてシンプルに取り入れることがポイントです。

“80:20(パレート)”を現実の帳票で確かめる

よく知られる「80:20の法則(パレートの法則)」は、売上や利益の大半が一部の製品や顧客から生まれていることを指摘しています。しかしこれは理論だけでなく、実際に自社のデータで確認することが重要です。売上や粗利の累積構成比を計算してグラフ化し、どの製品や顧客が上位に来るのかをはっきりさせます。すると、上位グループへの注力が正しいことが見えてくるだけでなく、下位の「やめても大きな影響が出ない対象」も明らかになります。撤退候補が多い場合は、まず新規案件の受注停止から始めるだけでも大きな改善につながります。理論をデータで確かめる習慣が、少人数で効率よく動くための近道です。

出典:経済産業省「事業再編実務指針:ROIC・WACCの基本」
出典:中小企業庁「中小企業の財務指標(概要)」
出典:Investopedia「80/20ルール」

「少人数でできる 事業ポートフォリオ見直し フレーム」の中核——3枚のマトリクス

BCG(成長率×シェア):資源の“おおづかみ”に使い、結論は現場の数字で確かめる

BCGマトリクスは、市場の成長率と自社の相対シェアを二軸に取り、製品を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つに分けて整理するフレームです。大企業の戦略分析では細かい市場定義や調査が伴いますが、少人数の体制ではそこまで時間を割くのは現実的ではありません。

そのため、自社の販売実績の成長率と、競合の存在感(例えば上位3社の動き)を基準に仮の配置を行い、粗利や在庫の数字で裏付けを取るのが実務的です。最初の段階では完璧を目指す必要はなく、仮説的に「置いてみる」ことが大切です。その後、週次や月次での数字を反映させて調整することで、机上の議論に陥らず、実際のデータに基づいた運用につなげることができます。

GE(競争力×市場魅力度):配点は“1枚で説明できる項目だけ”に絞る

GEマトリクス(マッキンゼーの9セル分析)は、競争力と市場魅力度という二軸で事業を評価します。競争力の評価軸には「価格競争力」「品質や技術」「人材力」など、市場魅力度には「成長性」「収益性」「参入障壁」など多くの要素を入れることが可能ですが、少人数のチームで使うときに項目を増やしすぎると運用が破綻します。

実務で扱うなら、各3〜4項目に絞り、配点基準をシンプルな文章で明記することが重要です。例えば「価格競争力=上位3社と比較して安定して利益が出せるか」というように、誰が見ても同じ判断ができる基準を置きます。スコアが拮抗した場合は、金額インパクトの大きい領域を優先して検討するなど、意思決定のルールをあらかじめ定めておくと、迷いが減ります。

Ansoff(市場×製品):攻めの方向を「深掘り・隣接・新規」で描き分ける

Ansoffマトリクスは「市場」と「製品」の2軸をかけ合わせ、既存市場×既存製品(浸透)、既存市場×新製品(開発)、新市場×既存製品(開拓)、新市場×新製品(多角化)の4象限で戦略の方向性を整理するフレームです。

少人数で進める場合には、最初から「新市場×新製品」といった難易度の高い多角化を追うのではなく、既存市場の深掘り(浸透)や既存市場での新製品開発、あるいは既存製品で新市場を開拓するといった「隣接領域」に集中する方が現実的です。営業導線や製造ラインを考えても、既存の強みを活かした方向にリソースを寄せる方が効率的で、成果も出やすい傾向にあります。新市場×新製品は「探索枠」として小規模に試す形で十分です。

出典:Repro Journal「BCGマトリクスの基本」
出典:Cascade「GEマトリクスの使い方」
出典:CFI「Ansoffマトリクス解説」

少人数体制でも動く“判断と実行”——配分・やめる・伸ばすの3アクション

配分を変える:人・時間・広告費を“重点群”に寄せ直す

事業ポートフォリオを見直す際、まず取り組みやすいのは「資源配分の見直し」です。少人数のチームであっても、担当者の時間や広告予算の使い道を重点領域に寄せ直すことで、大きな変化を起こせます。

例えば週10時間の営業活動を見込み客全体に薄く配分していたのを、成約率の高い重点顧客群に集中するだけでも成果は変わります。広告費についても同様で、反応の薄いチャネルを削り、成約率の高いキーワードや媒体に絞ることが効果的です。このとき重要なのは「何をやめるか」を同時に決めることです。現場に負担を強いるだけの施策や、効果の薄い作業を削ることで、集中の効果がより高まります。

やめる(撤退・停止):新規受注の停止から始め、既存案件は滑らかに縮める

撤退や停止の判断は勇気が必要ですが、赤字案件を抱え続けることは企業体力を削る結果になります。いきなり全停止すると混乱するため、まずは「新規受注を止める」ことから始めます。そして既存案件は、段階的に縮小して完了に導くスケジュールを組みます。

仕入先や外注先との契約については、解約条件や在庫処理を確認した上で、丁寧に相手に説明する必要があります。また、撤退候補であっても価格改定や納期調整によって黒字化できる可能性があれば再計算し、最後の判断を下します。撤退の基準は「感覚」ではなく「粗利額」や「時間あたり粗利」といった数字に落とし込むことで、納得性と再現性のある意思決定ができます。

伸ばす(強化・実験):“小さな勝ち筋”を型化して広げる

一方で伸びている領域については、放置せず積極的に「型化」して他の人も再現できるようにします。例えば特定の営業担当者が成果を出している導線があるなら、そのやり方をSOP(標準手順書)に落とし込み、チーム内で共有します。またクロスセル(関連商品の提案)や値上げの実験も、小さな規模で試し、成功したパターンを横展開するのが安全です。

さらに、問い合わせフォームの文言や営業資料の修正といった細かい改善でも、成果が大きかったものはテンプレート化し、次回以降の営業活動に生かします。少人数の組織でも、成果の再現性を高める工夫をすれば、限られた力で大きな結果を積み上げられるのです。

出典:中小企業庁「会計の活用:配分の見直しに役立つ基礎」
出典:経済産業省「事業ポートフォリオの検討状況・ROIC活用事例」

3か月で回す“運用の型”——少人数でできる会議体・テンプレ・証跡

週30分の運営会議:KPIと“次の1手”だけ決めて終わる

少人数で事業ポートフォリオの見直しを進めるとき、会議を長時間行うのは現実的ではありません。むしろ「短く、しかし確実に行動を決める」ことが大切です。そのため、週に1回30分程度の運営会議を設定し、そこで扱うのはシンプルに3つだけに絞ります。

①先週のKPI(粗利、受注件数、在庫滞留など)の確認、②良かった点と詰まった点をそれぞれ1つずつ出す、③今週実行する具体的な1手を決める、という流れです。決めたことは必ず議事録のテンプレートに「担当者・期限・証跡の置き場所」を記入し、次回の会議で確認します。会議の目的は「説明」ではなく「次の行動を決める」ことだと意識しましょう。

1ページ進捗サマリーと裏の証跡フォルダで迷子をなくす

少人数で回すときにありがちなのが、「誰が何をやったのかが後から追えなくなる」ことです。それを防ぐために、必ずA4一枚に収まる進捗サマリーを毎週更新し、全員が一目で状況を把握できるようにします。

サマリーの構成は、左に「今月の重点テーマ」、中央に「KPIと進捗」、右に「リスクとその対処策」を置くのがわかりやすい形です。詳細資料はクラウド上のフォルダに整理し、「00_マスタ」「10_営業」「20_製品」「30_財務」といった階層をあらかじめ決めておきます。ファイル名も「日付_種類_要点_版」という形で統一することで、あとからでも容易に探せます。これにより、属人化を避け、誰が見ても一貫した情報にアクセスできる仕組みが作れます。

“定義のメモ”をダッシュボードに貼り付けて認識差をつぶす

少人数のチームでは、数字の定義の解釈がバラバラになると議論が噛み合わなくなります。例えば「粗利率」の計算方法や「リード数」の定義が人によって違うと、せっかくのデータが意思決定に役立ちません。

これを防ぐために、ダッシュボードの右上など目立つ場所に「定義メモ」やそのリンクを常設し、全員が同じ基準を見られるようにしておきます。もし定義に変更が生じた場合は、必ず日付をつけて更新し、会議で承認を取った上で反映させます。こうしたルールを徹底することで、「数字の出どころ」で会議が止まってしまう時間を削減でき、実際の行動に集中できるようになります。

出典:内閣府・経産省関連「経営デザインシート」
出典:中小企業白書2021「財務分析の重要性」

まとめ:少人数でも“数字→配分→実行”で事業ポートフォリオの見直しは進む

少人数でできる事業ポートフォリオ見直しのフレームは、難しい分析を完璧にこなすことよりも「同じ基準で比較できる数字を揃えること」と「短いサイクルで判断と実行を繰り返すこと」が肝心です。最初の30日で現状を数字で把握し、次の30日で資源の配分を寄せ直し、90〜120日で撤退・強化・新規の意思決定を行う。この3ステップを踏むだけで、実際に改善は前に進みます。

BCGやGE、Ansoffといったフレームは、全部を完璧に使うのではなく、シンプルに最小限だけを選んで判断の軸にします。ROICやWACCといった財務指標も、複雑な数式にこだわらず「門番」として扱い、意思決定の候補をふるい分けるための目安に使うのが実務的です。会議は長くせず短く回し、ドキュメントは1ページのサマリーと証跡フォルダに分け、定義メモを共有して認識差をなくします。こうした仕組みを守れば、少人数体制でも十分に事業ポートフォリオ見直しを進めることが可能です。

カテゴリー:経営・戦略・M&A

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