MTAとMMMの違いと使い分けとは?データ活用で予算配分から現場運用までつなぐ実務ガイド

MTAとMMMの違いを理解する—それぞれの前提・得意分野・限界
MTAとMMMの定義の違いを整理する(追跡単位と時間軸の視点)
MTAはユーザーやデバイス単位で行動を追跡し、広告や検索、メールなど複数の接点ごとに「どれくらい貢献したのか」を割り振る手法です。たとえば「この広告を見てから購入したか」を細かく見たい場合に役立ちます。
一方のMMMは、広告費だけでなく価格、在庫、販促活動や季節要因なども含めて「全体の売上や新規顧客にどう影響したか」を分析します。通常は週単位などの集計データを扱います。 つまり、MTAは「ユーザー行動の道筋を分解して見る」手法であり、MMMは「大局的にどの施策が効いているかを俯瞰する」手法です。
IABのガイドラインでも、この2つは競合関係ではなく「補完関係」であると強調されています。
出典:IAB「The Essential Guide to Marketing Mix Modeling and Multi-Touch Attribution」
プライバシー規制がMTAとMMMの将来性に与える影響
近年のマーケティング環境では、サードパーティクッキーの縮小やスマートフォンOSによるトラッキング制限が進んでいます。その結果、MTAのように「個人レベルの追跡に依存する手法」ではデータの欠落や偏りが増えています。
対してMMMは「集計データ」を用いるため、プライバシー制約の影響を比較的受けにくく、テレビや新聞など媒体を横断した分析や、在庫・価格といった広告以外の要因も扱うことができます。最近では、MMMの結果を因果検証する「インクリメンタリティテスト」を併用して精度を高めるのが一般的です。
出典:Think with Google「Marketing Mix Modeling Guidebook」
出典:Kochava「Incrementality vs. MMM vs. MTA」
意思決定の粒度でどう使い分けるか:大枠はMMM、細部はMTA
予算の「大枠の配分」を決めるのに強いのがMMMです。チャネルごとの効率を分析し「どの媒体に追加で投下すべきか」を見極められます。
一方で、検索広告の入札調整やクリエイティブのABテストといった「日々の細かな運用」にはMTAが適しています。実務では、まずMMMで大方針を定め、その方針をMTAや小規模実験で微調整し、次の四半期に再びMMMに戻して見直す、というサイクルを作るのが望ましい運用方法です。
出典:Think with Google「Marketing Mix Modeling Guidebook」
データから見るMTAとMMMの違いと使い分け—粒度・前処理・外部要因の重要性
MTAとMMMに必要なデータの粒度と取得方法の違い
MTAは、基本的に「ユーザーやデバイス単位の詳細な行動ログ」が前提です。具体的には、サイトやアプリに埋め込んだピクセル、SDK、プラットフォームとの連携によって広告のクリックや表示、購入イベントなどを細かく収集します。ただし、こうした細かいログはプライバシー規制や技術的制限によって欠けることが増え、媒体を横断したユーザー行動を完全に追い切れないリスクが高まっています。
一方のMMMは、個人単位のログではなく「媒体ごとの広告支出額」や「配信量(例:GRP、インプレッション数)」、「KPIの時系列データ(売上、新規顧客数など)」を基礎にします。さらに、価格・在庫・販促活動・季節性といった広告以外の要因も一つのモデルにまとめて入れるのが基本です。実務では、まず「影響が大きい外部要因(価格や大型セールなど)」から集め、段階的にデータを追加していくと安定したモデルが構築できます。
出典:Think with Google「CMO’s handbook(MMM)」
MMMの前処理で扱う減衰・飽和・相乗効果のポイント
MMMが強力なのは、広告効果の「現実的なふるまい」を数式に落とし込める点です。たとえば、テレビCMや動画広告の効果は放映直後だけでなく数週間にわたって残ります。これを「キャリーオーバー効果(減衰)」と呼びます。また、デジタル広告では出稿量がある一定のラインを超えると効果が鈍り始めます。これが「飽和」です。さらに、検索広告と動画広告のように掛け合わせると相乗効果が生まれることもあります。
こうした要素をモデルに組み込むのがMMMの前処理です。MetaのRobynやGoogleのMeridianといったツールは、adstock(減衰)、S字型飽和曲線、媒体間の相乗効果を標準で実装しています。もしこれらを考慮せず「投入量と成果は常に直線的に比例する」と仮定すると、実際の効き目を誤って評価してしまい、予算配分を誤る危険があります。
出典:Meta「Robyn Analyst’s Guide」
データ品質の赤信号を見抜き、精度を担保する方法
どれだけ高度なモデルを使っても、入力データに問題があれば正しい結論は出ません。典型的な「赤信号」としては以下があります。
データの欠損や異常なスパイク
粒度の不一致(媒体別の週次データと、KPIの月次データが揃っていないなど)
大型セールや価格改定が行われたのに、その情報がタグ付けされていない
こうした問題があると、MTAでもMMMでも推定結果が歪んでしまいます。実務では推定に入る前に「チェックリスト」で潰し込み、推定後にも「不自然に大きな係数」や「常識外のラグ」が出ていないか確認するのが重要です。OSSのガイドラインやベンダーが公開しているチェックリストをそのまま社内標準として採用すれば、属人化せずに安全な運用ができます。
出典:Google Developers「Meridian—migrate from LightweightMMM」
意思決定に活かすMTAとMMMの違いと使い分け—会議での具体的な利用法
配分の大枠はMMMで、運用の最適化はMTAと実験で詰める
企業の予算会議など「四半期や半期の大枠の配分」を決めるにはMMMが適しています。MMMはチャネルごとの限界効率(1円あたりの増分効果)を見極められるため、投資先を判断するのに役立ちます。
ただし、決まった方針を実務に落とし込む段階では、MTAや日々の運用KPIが欠かせません。具体的には、入札調整、クリエイティブの差し替え、ターゲティングの最適化などです。この「MMMで大枠を決定 → MTAと運用で細部を調整 → 次のMMMで見直し」という循環を、ダッシュボードや会議フォーマットに落とし込むと、社内への定着がスムーズになります。
不確実性を前提に“3案シナリオ”でリスクを共有する
MMMの強みは、推定結果に「不確実性の幅(レンジ)」を持たせられる点です。これを活用して、意思決定では以下のような3案を作ると良いでしょう。
強気シナリオ:積極投資で成長を狙う
現実シナリオ:現状維持を前提に安定運用
守りのシナリオ:リスク回避を最優先
それぞれのシナリオに対して「想定されるKPIレンジ」「必要な条件(在庫、営業体制など)」「制約条件(テレビ枠、入札上限など)」を添えると、経営層と現場担当者の間で同じ言語で会話できるようになります。特にベイズ推定などを用いたMMMの出力は、そのままでは専門的すぎるため「意思決定に翻訳する」ことが実務の鍵です。
出典:MSI/ARF「Packaging Up Media Mix Modeling(Robyn)」
相関だけで終わらせない:因果を確かめるインクリメンタリティテスト
MMMやMTAは、基本的に「相関」に基づいた推定です。しかし重要な施策については「その施策が実際に成果を増やしたのか」という因果関係を確かめる必要があります。そこで使われるのがインクリメンタリティテストです。
具体的には、地域や期間を区切って一部のユーザーだけに広告を配信し、配信しなかったグループと比較します。こうして「増分が本当にあったか」を確認します。その結果をMMMに戻して調整することで、モデルの暴れを抑えられます。多くのプラットフォームや測定ベンダーも「MMM+インクリメンタリティ」の組み合わせを推奨しています。
出典:Kochava「Incrementality Tests vs. MMM」
MTAとMMMの違いと使い分けに潜む落とし穴—現場で陥りやすい誤解
「MTAで全部わかる」「MMMだけで足りる」という極論の危うさ
現場でよくある誤解のひとつは、「MTAがあればすべてを把握できる」「MMMだけで十分だ」という極端な見方です。MTAはユーザー行動の細部に強いですが、テレビCMや屋外広告、在庫や価格といった“非媒体要因”を直接分析するのは苦手です。逆にMMMは大局的に強いですが、入札や広告クリエイティブの細かな運用判断には不向きです。
IABも明確に「どちらが優れているかではなく、両者を補完的に使うべき」としています。極論に流れると社内の意思統一に時間がかかりますが、役割の違いを理解すれば合意形成が早まります。
出典:IAB「Bringing Transparency to the Myth of MMM & MTA」
効果を直線と誤解することによる配分ミス(飽和・減衰の無視)
「広告出稿量を2倍にすれば成果も2倍になる」と考えてしまうのも典型的な誤解です。実際には、多くの媒体は一定点を超えると効果が鈍化します(飽和)。また、テレビCMや動画広告は放映後もしばらく効果が残ります(減衰)。
MMMでは、この「反応曲線」を前提に置いて、限界効率(1円あたりの追加効果)をもとに配分を決めます。もしこれを考慮しないと「なぜ出稿量を増やしたのにROASが下がったのか」を説明できません。主要なフレームワークは、この飽和や減衰を標準的に組み込んでいます。
出典:Meta「Robyn Analyst’s Guide」
データ品質確認を後回しにするリスクと対策
もうひとつの落とし穴は「データ品質の担保を後回しにすること」です。欠損やタグ漏れ、粒度の不一致、複数施策の同時実施による混乱が放置されると、モデルの推定が歪みます。失敗したときに「モデルが悪い」と片付けてしまいがちですが、多くの場合は入力データの不備が原因です。
これを避けるには、推定に入る前にチェックリストを用意し、入力データを徹底的に確認することが重要です。MetaのRobynやGoogleのMeridianにはチェックリストや標準的な品質確認手法が用意されているため、それをそのまま社内の標準運用に落とし込むと属人化を防げます。
出典:Google Developers「Meridian—migrate from LightweightMMM」
MTAとMMMを実務に落とすための導入ステップ—段階的な進め方
まずは意思決定の設問を一行で定義することから始める
最初に重要なのは「意思決定で答えるべき設問を一行で定義する」ことです。例えば「来期、どのチャネルに何%配分するのか」「目標CPAをどこまで許容するのか」といった問いを明確にします。
この問いを出発点に、MMMは「大枠を決める算盤」として活用し、MTAと実験は「日々の運用や因果確認の道具」として位置づけます。GoogleやMSI/ARFのガイドも「意思決定に直結する問いを明確にしてからモデルを選ぶべき」としています。
出典:Think with Google「Marketing Measurement Handbook / MMM」
OSSから内製まで、ツール選定を段階的に進める方法
導入初期は、まずMetaのRobynやGoogleのMeridianなどOSS・公開フレームワークを利用して「反応曲線→最適配分→シナリオ生成」までを定型化するのが良いです。次のステップでは、自社特有の要件(地域別のブランド階層、独自の飽和関数など)を少しずつカスタマイズします。最後に、社内で保守可能な範囲に絞って内製化するのが現実的です。
GoogleはLightweightMMMからMeridianへの移行ガイドも公開しており、将来的なメンテナンスの見通しも立てやすくなっています。
出典:Google Developers「Meridian—migrate from LightweightMMM」
MMM+実験+MTAの三位一体運用ループを定着させる
最も重要なのは「運用ループを固定化すること」です。具体的には:
四半期の始め:MMMで予算配分の大枠を決める
運用中:MTAで日々の調整を行い、クリエイティブや入札を最適化する
重要施策:インクリメンタリティテストで因果を確認する
期末:実績とテスト結果をMMMに戻して再推定し、次期に反映する
このループをダッシュボードや議事録のフォーマットとして定着させることで、属人化せずにチーム全体で測定のPDCAを回せます。ベンダー資料や業界解説でも、この「三位一体運用」がベストプラクティスとして推奨されています。
出典:MSI/ARF「Packaging Up Media Mix Modeling(Robyn)」
まとめ:MTAとMMMの違いと使い分けは“役割・データ・検証”の3点で整理する
MTA vs MMM 違い / 使い分けの本質は「どちらが優れているか」ではなく「役割を理解して組み合わせること」です。
大枠の配分:MMMで全体像を描く
運用の最適化:MTAで細部を調整する
因果の確認:インクリメンタリティテストで裏付けを取る
データ面では、広告だけでなく非媒体要因も同じ土俵に乗せ、飽和・減衰・相乗効果を前処理で明示します。品質チェックリストを固定化し、「赤信号」を潰す文化を根付かせることも欠かせません。
そして、四半期ごとに「MMMで方針を立てる → MTAと実験で運用する → 結果をMMMに戻す」というサイクルを続ければ、変化するプライバシー環境にも耐えられる実務的な測定体制が築けます。
BizShareTV
仕事に役立つ動画はここにある
いつでも、どこでも、無料で見放題
