クラウドコスト最適化チェックリストとは?コストカットできるポイントを解説

クラウドコスト最適化チェックリストの基本(体制・可視化・データ基盤)
クラウドコスト最適化チェックリストとは(FinOpsの考え方を下敷きに)
クラウドコスト最適化は「一度の削減施策で完了する単発的な取り組み」ではありません。むしろ、継続的な運用プロセスとして定着させるべき活動です。クラウド環境は常に新規リソースが追加され、部門やプロジェクトの状況に応じて構成が変化するため、一過性の削減ではすぐに元に戻ってしまいます。
そのため実務では、FinOps(Finance × Operations) の考え方が重要になります。これは、財務部門とエンジニアリング部門が協働し、コストを「見える化」しながら、責任を持って削減や最適化を判断していく枠組みです。単にエンジニアが無駄を減らすのではなく、経営や財務と現場が共通のデータをもとに判断することで、持続的にコストを抑制できます。
この考え方の中核は、「可視化 → 最適化 → 定着」 というサイクルです。クラウド コスト最適化 チェックリスト(AWS/Azure/GCP)は、このサイクルを日常業務として定着させるための実務的な道具となります。
また、各クラウド事業者が提示している Well-Architected Framework のコスト最適化原則も活用すると効果的です。たとえば Google Cloud のフレームワークでは「コスト最適化」が明確に柱として定義されており、設計や運用において意識すべき判断基準が整理されています。AWSやAzureも同様に、最適化の観点を設計段階から意識するようガイドラインを提供しています。こうした原則を参照することで、チェックリストに抜け漏れがなく、かつ業界標準に沿った内容にすることができます。
タグ/ラベルで費用配賦を整える(誰が何に使ったかを見える化)
最初に直面する課題は、「どの部門やプロジェクトが、どの目的でリソースを使っているか分からない」 という状況です。利用目的が明確にならなければ、どのコストを削減してよいかの判断も困難になります。
この問題を解決する第一歩が、タグやラベルを用いた費用配賦です。
AWS:コスト配賦タグを有効化すると、部門・プロジェクト・環境(開発/本番)ごとにコストをひもづけることが可能です。ただし、課金レポートに反映させるには別途「有効化」の設定が必要である点に注意が必要です。
Azure:公式のタグ戦略ガイドラインを提供しており、命名規則や標準化の方法、運用ルールを推奨しています。
GCP:リソースに「ラベル」を付与することで、同様に費用を詳細に把握できます。
運用のコツは、最初からタグを増やしすぎないことです。よくある失敗例は、初期段階で多数のキーを定義し、管理が破綻するケースです。実務的には「cost_center」「owner」「env」「project」など、必須のキーに絞ってスタートし、四半期ごとに棚卸しして調整するのが現実的です。
タグやラベルを適切に設定することで、「誰がどれだけ使っているか」を明確にでき、その後の予算設定や削減余地の特定につながります。まさに、クラウド コスト最適化 チェックリスト(AWS/Azure/GCP)の基盤となる取り組みです。
コストデータ基盤を用意する(標準レポート+明細エクスポート)
ダッシュボードだけの可視化では、急激なコスト増加の要因を特定できないことが多くあります。そこで欠かせないのが、明細レベルでのデータ基盤整備です。
AWS:Cost and Usage Report(CUR)を利用すれば、リソース単位の明細を取得できます。AthenaやBIツールと組み合わせることで、日次レベルでのコスト分析が可能になります。
GCP:課金データをBigQueryへエクスポートでき、SQLを使って詳細なコスト分析を実施できます。
Azure:コスト管理のエクスポート機能があり、定期的に明細を出力して外部分析に取り込めます。
最初の段階ではクラウド標準のダッシュボードを活用するだけでも十分ですが、必ず 明細エクスポートを仕組み化すること が重要です。これにより「どのサービスの、どのリソースが、いつから急に費用を増加させたのか」を粒度高く把握できるようになり、原因の早期特定と対策につながります。
結果として、単なる“見える化”に留まらず、根本原因を分析し、対策につなげられる強い運用体制を築くことができます。
出典:FinOps Foundation「FinOps Framework」
出典:Google Cloud「Well-Architected Framework: Cost optimization」
出典:AWS「Organizing and tracking costs using cost allocation tags
出典:Azure「Define your tagging strategy」
出典:GCP「Labels overview」
出典:AWS「Cost and Usage Report」
出典:GCP「Export Cloud Billing data to BigQuery」
出典:Azure「Cost Management exports」
チェックリスト① 予算・監視・推奨(早めに気づく仕組み)
予算アラートを必ず設定する(メールだけでなく自動対応も)
クラウド コスト最適化 チェックリスト(AWS/Azure/GCP)の中で最も早く成果が出るのが、予算アラートの設定です。これがないと「気付いたら予算を大幅に超過していた」という事態が避けられません。
AWS:AWS Budgetsを使うと、コスト・使用量・予約やSavings Plansの利用率までを監視できます。しきい値を超えた場合は通知だけでなく、Lambdaを用いた自動制御も可能です。
Azure:サブスクリプションやリソースグループごとに予算を設定でき、超過時にはアクショングループと連携して自動対応を実現できます。
GCP:予算としきい値を設定し、Pub/Sub通知を経由してサービス制御にまでつなげられます。
実務上の工夫としては、通知先を担当者の個人メールに限定せず、チームのチャットや共通チャンネルに集約することが効果的です。また「50%/80%/100%」の3段階でアラートを仕掛けると、より早期に対応できます。単なる通知で終わらせず、「誰が・どのタイミングで・何を行うのか」までをあらかじめ決めておくことで、予算アラートは真に機能します。
推奨(リサイズ・停止・世代更新)を週次で対応する
クラウドベンダーは、それぞれの環境で無駄になっているリソースを特定し、最適化提案を提供しています。これを週次でレビューして対応する体制を整えることが、削減効果を安定させる近道です。
AWS:Compute Optimizerを利用すると、EC2・EBS・Lambda・ECS on Fargateなどのリソース最適化提案が得られます。
Azure:Azure Advisorが、アイドル状態や過小利用のリソースを検出し、削減提案を提示します。
GCP:Idle VM Recommenderが、使われていないVMを特定し、削除や縮小を推奨します。
ただし注意すべき点は、推奨結果をそのまま本番系に適用しないことです。推奨はあくまで利用率の観点に基づいているため、冗長性やピーク性能を考慮していないケースがあります。安全に進めるには、まずは開発環境や検証環境、バッチ処理のように影響範囲を見極めやすい領域から着手し、本番は性能監視データと突き合わせながら慎重に対応します。
レポートと明細で“原因”を追う(エクスポートを必須化する)
予算アラートや推奨機能は「異常に気付く」ことには役立ちますが、その背後にある原因を特定しなければ本質的な解決にはつながりません。ここで活躍するのが、明細レベルでのデータ分析です。
AWSのCUR、GCPのBigQueryエクスポート、Azureのコスト管理エクスポートを日次で取得しておけば、たとえば「ネットワーク費用が特定のAZ間通信に偏っていた」といった具体的な要因を突き止めることができます。これにより、単なる一時的な対応ではなく、構成そのものを見直すきっかけを得られます。
つまり、アラート → 推奨 → 明細調査 → 根本対策という流れを定常業務として組み込むことが、クラウド コスト最適化 チェックリスト(AWS/Azure/GCP)の第一段階として不可欠です。
出典:AWS「Creating a budget」
出典:Azure「Create and manage budgets」
出典:GCP「Budgets & alerts」
出典:AWS「Compute Optimizer」
出典:Azure「Advisor cost recommendations」
出典:GCP「Idle VM recommendations」
チェックリスト② 使用量の最適化(リサイズ・スケール・ストレージ)
ライトサイジング(Rightsizing)を徹底する
クラウド コスト最適化 チェックリストの中核は、まず「リソースが大きすぎないか」を確認することです。CPUやメモリ、I/Oの利用率に対して過剰なスペックを維持すると、直接的にコスト増につながります。
AWSでは Compute Optimizer、Azureでは Advisor、GCPでは Idle VM Recommender などのサービスが、利用率をもとにリサイズ提案を提供します。これらの推奨は、単純なスペック縮小ではなく、性能要件を加味した提案になっているため、安全に導入できる点が特徴です。
実務的には、まずは 「上位コスト10件」のリソースを月次でリサイズ完了する ことを習慣化すると効果が大きいです。また、EBSやディスク種別の見直しも重要です。例えば、AWSのgp2からgp3に移行すれば、同じ容量で最大20%のコスト低減が可能であり、性能調整もしやすい設計になっています。
ライトサイジングは一度きりではなく、利用状況に応じた継続的な見直しが前提です。
スポット/プリエンプティブルの活用(中断を前提とした設計へ)
「止まってもよい処理」は、積極的にスポットインスタンスやプリエンプティブルVMへ移行するのがコスト最適化の定石です。
AWS:Spot Instances
Azure:Spot VM
GCP:Spot VM
これらは余剰キャパシティを割引提供する仕組みであり、大幅なコスト削減につながります。ただし「いつでも中断される」前提があるため、バッチ処理やCI/CD、分散ジョブといった性質のワークロードに向いています。
設計上のポイントは、ジョブを細分化してチェックポイントを設けること、オートスケールでの再配置を可能にすること、さらに複数インスタンスタイプやアベイラビリティゾーンを混在させることです。こうすることで中断リスクを吸収し、安定した削減効果を得られます。
ストレージの階層化と自動化(アクセス頻度でコストを下げる)
ストレージは「置きっぱなし」がもっともコストを押し上げる要因です。これに対抗するには、アクセス頻度に応じた階層化を導入することが効果的です。
AWS:S3 Intelligent-Tiering を使うと、アクセス頻度に応じて自動的にストレージ階層を切り替えられます。
Azure:Blob Storage のライフサイクル管理で、アクセスが少なくなったデータを低コスト階層へ自動移行できます。
GCP:Autoclass 機能を利用すると、利用状況に応じて最適なストレージクラスへ自動振り分けが可能です。
特に効果が大きいのは、ログやバックアップデータです。長期間アクセスされない一方で、一定期間は保存が必要なデータを自動で安価な階層に移動させれば、運用負荷も減らしながらコスト最適化が実現できます。
また、ブロックストレージについても、最新世代のディスク種別(例:AWS gp3やAzure/GCPの標準ディスク)に切り替えるだけで削減効果が見込めるため、定期的な見直しを推奨します。
出典:AWS「Get EC2 instance recommendations from Compute Optimizer」
出典:AWS「EBS gp3(gp2より最大20%低コスト)」
出典:AWS「Spot Instances 概要」
出典:Azure「Use Azure Spot Virtual Machines」
出典:GCP「Spot VMs」
出典:AWS「S3 Intelligent-Tiering」
出典:Azure「Blob Storage lifecycle management」
出典:GCP「Autoclass」
チェックリスト③ 価格モデルの最適化(予約・コミットで単価を下げる)
AWS:Savings Plans/RIで柔軟にコスト削減する
安定した利用量が見込まれる場合、オンデマンド料金を続けるのは非効率です。AWSでは Savings Plans や Reserved Instances(RI) を活用することで、最大72%の割引が可能になります。
Savings Plansは1年または3年単位で時間あたりの利用料金をコミットする仕組みで、EC2・Fargate・Lambdaに横断的に適用される柔軟性があります。購入にあたっては Cost Explorer の推奨値を確認し、過不足のない範囲で契約することが重要です。
Azure:ReservationsとSavings Plansを使い分ける
Azureも同様に、Reservations(予約)とSavings Plansを提供しています。特にVMやデータベースなど、利用が安定しているリソースには有効です。
Azureでは Advisor の推奨やコスト分析機能を活用して、リザーブのカバレッジと利用率を定期的に確認することが求められます。さらに、部分解約や柔軟な期間調整といった選択肢を含めて設計に組み込むと、予期せぬ利用変動にも対応可能です。
GCP:Committed Use Discounts(CUD)を戦略的に利用する
GCPでは、Committed Use Discounts(CUD) により、vCPUやメモリなどの使用量を一定期間コミットすることで割引を受けられます。
ただし、CUDは Sustained Use Discount と重複適用されないなどのルールがあり、適用条件を事前に確認する必要があります。実務的には、基幹系のVM群など 安定利用が見込めるリソースから8割程度を目安に段階導入 すると、安全に効果を得られます。
出典:AWS「Savings Plans(最大72%の割引)」
出典:AWS「Getting started with Savings Plans」
出典:Azure「Advisor cost recommendations(購入の根拠)」
出典:GCP「Committed Use Discounts ドキュメント」
チェックリスト④ ネットワークとデータ転送(見落としやすい費用)
NAT GatewayとVPCエンドポイントのコストを整理する(AWS)
クラウド コスト最適化 チェックリストでは、計算リソースやストレージに注目が集まりがちですが、実は「ネットワーク転送費用」が見落とされやすい項目です。AWSのNAT Gatewayは「時間単位の料金」と「処理データ量(GB)」の両方で課金される仕組みです。そのため、大量のS3やDynamoDBへのアクセスをすべてNAT経由にしてしまうと、想定以上に費用が膨らみます。
これを避けるために有効なのが VPCエンドポイント の活用です。S3 Gatewayエンドポイントを利用すれば、VPC内部からS3への通信はNATを経由せずに済み、追加料金も発生しません。設計段階で「どの通信がNATを通っているのか」を可視化し、NAT経由を減らすだけで、大幅なコスト削減につながります。
インターネット向け転送費用とCDN活用の考え方
クラウド各社ともに「INは無料、OUTは有料」という原則があります。特にインターネット向け転送(アウトバウンド)は、配信規模が大きくなると直線的にコストに跳ね返ります。この費用を最適化するためには、CDNを前段に置いてキャッシュヒット率を高めること が最も効果的です。
AWSではCloudFront、AzureではFront Door、GCPではCloud CDNが代表的なサービスです。これらを活用すれば、外部利用者への配信トラフィックの大部分をCDNで吸収でき、結果的にアウトバウンド料金を抑えられます。設計時点で「どのリージョンから、どの経路で、どれだけの転送が発生するか」を文書化しておくと、後から不明なコストが膨らむ事態を防げます。
リージョン間・階層間の転送料金を設計に組み込む
ネットワーク転送の落とし穴は「リージョン間通信」と「階層間通信」です。たとえば、災害対策(DR)や分散配置を目的に複数リージョン間でデータを同期すると、その転送料が積み上がります。AWSは「よくあるアーキテクチャにおけるデータ転送コスト」を整理した公式記事を公開しており、事前に移動コストを見積もる際の参考になります。
また、GCPの Network Service Tiers のように、経路や品質を選べる仕組みがある場合、要件に応じて「プレミアム」か「スタンダード」を選ぶことで費用と性能をバランスさせられます。こうした選択肢を設計の議題にあげることで、「動いてから気づくコスト増」を未然に防止できます。
出典:AWS「NAT Gateway pricing」
出典:AWS「Gateway endpoints for S3(NAT不要でアクセス)」
出典:AWS「EC2 On-Demand Pricing(データ転送の基本)」
出典:Azure「Bandwidth pricing」
出典:GCP「VPC network pricing」
出典:AWSアーキテクチャブログ「データ転送コストの概要」
出典:GCP「Network Service Tiers pricing」
まとめ:クラウド コスト最適化 チェックリストを“毎月の運用サイクル”に組み込む
クラウド コスト最適化は、一度削減して終わるプロジェクトではありません。継続的に実施しなければ、再びコストは膨らみます。したがって「チェックリストを毎月の定例サイクルに組み込む」ことが成功の鍵になります。
具体的には、次のような流れで運用するのが効果的です。
タグ/ラベルの確認:部門やプロジェクトごとのコスト配賦が正しくできているか棚卸しする。
予算・推奨のレビュー:予算超過アラートやベンダーの推奨削減項目を週次・月次で確認する。
ライトサイジングと階層化:上位コストリソースのリサイズや、ストレージの階層化を計画的に進める。
予約・コミットの適用状況を点検:Savings PlansやCUDの利用率を確認し、必要に応じて買い増しや調整を行う。
ネットワーク転送の把握:転送コストの明細をチェックし、NAT経由やリージョン間通信を最適化する。
さらに、月初の会議体で前月のコスト実績を振り返り、改善アクションを共有する仕組みを定着させると、属人的な取り組みから組織的な最適化に進化します。加えて、設計レビューの際には必ず「コスト最適化の観点」をチェックリストとして組み込み、アーキテクチャ設計段階からコストを考慮できるようにしておくことが重要です。
最終的に、クラウド コスト最適化 チェックリストは「削減の道具」ではなく「運用の標準」として根付かせることで、品質と効率を両立させながら継続的なコスト改善を実現できます。
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