【管理者・社員向け】セクハラ・マタハラ対策研修資料作成に向けた作成例を紹介!法令の骨格から現場のグレーゾーン対応まで解説

セクハラ/マタハラ研修の基本(目的・法的根拠・対象)
研修の目的:未然防止・早期是正・再発防止を“一枚の流れ”で
セクハラやマタハラ研修を開く目的は「研修をやったという実績を残すこと」ではありません。実際に現場で効果を発揮させるためには、三つの狙いをはっきり意識する必要があります。
1つ目は「どの行為がハラスメントに当たるのか、みんなで同じ理解を持つこと」。 2つ目は「困ったときに相談できる空気をつくり、窓口をはっきり見える形にすること」。 3つ目は「もし起きたときにも対応が標準化され、再発しない流れを作ること」。
厚労省も“事業主には必要な措置を講ずる義務がある”と明言しています。だからこそ、研修資料の構成は 定義 → 行為例 → NG/OK対応 → 相談フロー → 記録の残し方 → 再発防止 という流れにするのがおすすめです。こうして“一枚のストーリー”にすれば、受講する側も理解しやすくなります。
法的根拠:指針と義務(均等法・育児介護休業法)
研修資料をつくるうえで欠かせないのが「法的な裏付け」です。なぜ必要なのかを参加者に納得してもらうためには、法律や告示に基づいた内容にすることが大切です。
セクハラについては、男女雇用機会均等法第11条が根拠となり、厚労省告示615号で具体的な防止措置が指針として示されています。マタハラについては、均等法第11条の2を受けた厚労省告示312号があり、ここでは「方針の明確化」「相談体制」「事後対応」「原因や背景の解消」まで求めています。
さらに育児・介護休業法でも「育児や介護に関するハラスメント防止措置」が設けられています。つまり、セクハラ・マタハラ防止は“やった方がいい取り組み”ではなく、法律上の義務。研修資料では、条文や告示の番号をスライドに明示しておくと、参加者にとっても「単なる社内ルールではなく法に基づくものだ」と理解してもらいやすくなります。
対象と頻度:全社員+管理職別の“二層”が基本
対象をどうするかも、研修設計では重要なポイントです。ここは“全員”と考えるのが基本です。正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、派遣労働者など、その職場で働く人すべてを対象に含めます。
そのうえで、管理職向けと一般従業員向けを分けて考えます。管理職向け研修では「通報を受けたときの初動対応」「事実確認の仕方」「必要な配慮」「記録の残し方」といった実務演習を厚めに。一般向けには「どこからがハラスメントに当たるのかの境界線理解」や「相談窓口の使い方」を重点的に扱うと効果的です。
実施頻度は年1回を基本に、新入社員研修や昇格時にも追加で組み込みます。厚労省や労働局が公開しているテキストやパンフレットは、そのまま社内配布に使える無償資料が多く揃っているので、まずはそれを活用するとスムーズです。
研修シナリオと資料構成(スライドと配布物の“型”)
スライドの基本構成:定義→境界→行為例→初動→相談
スライドは研修の「骨格」です。ここをシンプルに整理しておくと、話の流れが自然になり、聞き手も迷わず理解できます。
最初に「職場の範囲」や「同性間の行為も対象になること」を示すことで、“自分ごと”として捉えてもらいやすくなります。セクハラは「対価型(不利益を受けるタイプ)」と「環境型(職場環境が害されるタイプ)」に分類して解説。マタハラは「制度利用に対する嫌がらせ型」と「妊娠・出産という状態に対する嫌がらせ型」に分け、根拠となる条文や指針名を明示します。これだけで資料の信頼性が一気に上がります。
ケーススタディ:NG言動→現場対応→再発防止
研修を受ける人にとって最も実感がわくのは「具体的なケーススタディ」です。厚労省が公開しているQ&Aや過去の事例をもとに、職場や飲み会、チャット、オンライン会議など、実際にありそうな場面を想定して「これはNG」「これは要注意」「これは望ましい」という形で整理します。
さらにそれぞれに「初動対応はこうすべき」「事実確認はこう進める」「必要なら配置転換や指揮系統の変更を」と具体的なハンドリングを結びつけます。曖昧なグレーゾーンについては「迷ったらまず相談窓口へ」と伝え続けることで、受講者の行動の指針がはっきりします。
相談フローと記録テンプレ:窓口→一次対応→調査→結論
最後に欠かせないのが「相談フロー」と「記録のテンプレート」です。研修では、社内の相談窓口(人事部や労組、コンプラ窓口など)と匿名で相談できる経路を必ず図で示します。
受付票は、日時・場所・発言・相手・目撃者・健康への影響・希望する措置といった基本項目を必須にしておくと、対応漏れが防げます。加えて、労働局の「総合労働相談コーナー」など外部の相談窓口も必ず併記し、どんな情報を持参すればよいかを説明しておくと安心です。
掲示ポスターや携帯カードは、労働局や厚労省が公開しているものを活用できます。ダウンロードしてそのまま社内に掲示すれば、職場の誰もがいつでも相談経路を確認できる環境が整います。
セクハラ研修の要点(定義・措置・初動対応)
定義と範囲:対価型/環境型・“職場”の広さを具体例で
まず大切なのは「セクハラとは何か」を具体的に押さえることです。セクハラは大きく二つに分かれます。
ひとつ目は「対価型」。これは、性的な言動に対して拒否したことなどを理由に、解雇や人事評価の不利益を受けるケースです。もうひとつは「環境型」。性的な言動そのものによって職場の雰囲気が悪化し、働く環境が害されるケースを指します。
ここで重要なのは「同性間でも成立する」という点。そして“職場”の範囲は会社のオフィスだけではありません。出張中の宿泊先、社内イベント、歓送迎会、リモート会議など「業務に関連する場」はすべて対象になります。研修の場では、「言動の意図ではなく、受け手の不利益や職場環境への影響を基準に判断する」ことを強調して伝えると、理解が進みやすくなります。
事業主が講ずべき措置:方針・周知・相談体制・再発防止
次に押さえるべきは、事業主に求められている具体的な措置です。厚労省の指針では、以下のような取り組みが必須とされています。
方針を明確にし、従業員に周知すること
相談窓口を設置すること
相談があったときに迅速かつ適切に対応すること
プライバシーを守ること
相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止すること
再発を防止すること
研修資料にはこの“措置リスト”をそのまま盛り込みましょう。さらに、就業規則や社内ポータルサイト、オフィス掲示物などを更新することも研修の一環として扱うと、「研修が実際の制度につながっている」ことを実感できます。
初動対応の原則:安全確保→事実確認→記録→ケア
研修で特に管理職に理解してほしいのは「通報があったときの初動」です。
ステップはシンプルで、①当事者の安全を確保して一時的に分離、②一次聴取で事実を押さえる(ただし解釈や主観には踏み込まない)、③記録を残す(日時・言動・証拠・目撃者など)、④必要に応じた業務上の配慮、⑤プライバシーの保護、そして⑥再発防止策の検討です。
また、「調査に協力したことを理由に不利益を与えてはいけない」というルールは必ずハンドアウトに明記しておきましょう。これを明文化して周知しておくことで、従業員が安心して相談や協力ができる空気を作れます。
マタハラ研修の要点(定義・不利益取扱い・措置)
マタハラの二類型:制度利用への嫌がらせ/状態への嫌がらせ
マタハラについては、二つのタイプをしっかり区別して教える必要があります。
ひとつは「制度利用への嫌がらせ」。たとえば育児休業や短時間勤務制度を利用しようとした社員に対して、昇進から外す、嫌味を言うなどのケースです。もうひとつは「妊娠・出産という状態に対する嫌がらせ」。妊娠中の体調変化を理由に無理な業務を強いる、配慮のない発言を繰り返す、といった行為が該当します。
どちらも就業環境を害するものであり、均等法や育児・介護休業法がしっかり保護している領域です。研修では「具体例 → 当事者が受ける不利益 → 禁止の根拠条文」という順で説明すると理解しやすくなります。
指針312号に沿う措置:方針→相談→事後対応→原因除去
厚労省告示312号(妊娠・出産等に関するハラスメント指針)では、事業主が取るべき措置が明確に示されています。具体的には「方針の明確化と周知」「相談体制の整備」「迅速・適切な事後対応」「原因や背景の解消」「プライバシーの保護」「不利益取扱いの禁止」です。
研修資料にこれをそのまま一覧として載せるだけでも効果的です。さらに、厚労省が公開している文例(“相談しても不利益はありません”という掲示用の一文)を引用し、規程や掲示物に転用することで、従業員が安心して声をあげられる環境を整えることができます。
不利益取扱いの禁止:産前産後・育休の条文を“併せて”
研修の中で必ず触れるべきなのが「不利益取扱いの禁止」です。
均等法第9条3項では、妊娠・出産や産前産後休業を理由に解雇や不利益な扱いをすることを禁じています。加えて育児・介護休業法でも、育休や介護休業の申出・取得を理由とする不利益取扱いは禁止されています。
研修では「配置転換の強要」「評価での不利益」「業務から外す」など、実務で起こりやすい事例を示し、これらが明確に法律違反にあたることを説明します。現場での“境界線”をケースを通じて理解してもらうのが重要です。
研修運用:KPI・証跡・周知物(配布して使える“ひな形”)
KPI設計:受講率・理解度・相談行動・離職抑制
研修をやりっぱなしにせず「効果を測る」ことも大切です。 おすすめなのは、次のようなKPIを組み合わせてモニタリングする方法です。
受講率・課題提出率:全社員がきちんと参加しているか
理解度テスト:定義・初動手順・相談窓口を問う小テスト
相談しやすさ調査:匿名サーベイで「相談できる雰囲気」を数値化
相談件数や初動SLA:相談から初期対応までの時間を指標化
離職・休職の動向:施策の成果が人材流出の減少につながっているか
厚労省の調査でも、ハラスメント対策を丁寧に行った企業ほど離職や休職が減少した例が報告されています。数字で効果を示すことで、経営層や監査への説得力が増します。
証跡の残し方:規程・掲示・ログを“3点止め”
セクハラ/マタハラ防止の措置には「周知・研修の実施」が含まれます。つまり、やった証拠を残すこと自体が義務対応の一部です。
具体的には:
就業規則や社内ポータルの更新履歴
出席ログやオンライン研修の参加記録
配布した教材PDFやハンドアウトの控え
掲示ポスターや周知物を貼った証拠写真
この3点を揃えて残しておけば、労基署の監査や内部監査にも耐えられる体制になります。
周知物と外部窓口:ダウンロード素材を“そのまま活用”
研修資料をゼロから作る必要はありません。厚労省の「あかるい職場応援団」には、ポスター・周知リーフレット・研修スライドなど、ダウンロードしてすぐ使える素材が多数あります。
これらを社内研修に転用するだけでも十分効果的です。さらに、外部の相談先として労働局「総合労働相談コーナー」のQRコードやリンクをスライド末尾に載せましょう。 「もし社内で相談できなかったら外部にも頼れる」と示すだけで、従業員の安心感は大きく変わります。
まとめ:セクハラ/マタハラ研修資料は“法の骨格×現場の会話”で作る
ここまで解説してきたポイントを整理します。
法的な根拠を明示する 均等法・育児介護休業法・各種指針の条文をスライドに記載し、禁止行為を条番号付きで押さえましょう。
役割ごとに焦点を変える 管理職研修では「初動・記録・事後対応」を演習形式で、一般社員向けには「境界線の理解・相談方法」を重点的に。
証跡を必ず残す 就業規則や掲示物の更新、出席ログ、教材配布記録を“3点止め”で保存しておくこと。
相談のラストワンマイルを支える 外部窓口や携帯カードを用意し、社員が「最後に頼れる場所」を確保しておく。
こうした工夫を積み重ねれば、研修は単なる形式的なイベントではなく、「未然防止」と「早期是正」を回す仕組みそのものになります。企業文化として根付かせる第一歩は、わかりやすい研修資料を作り、日常の会話にまで落とし込むことです。
出典:厚生労働省 「職場におけるハラスメントの防止のために(総合解説ページ)」
出典:厚生労働省 告示615号 「セクシュアルハラスメント指針」
出典:厚生労働省 告示312号 「妊娠・出産等に関するハラスメント指針」
出典:東京都労働相談情報センター 「ハラスメント防止ハンドブック」
出典:厚生労働省 「セクシュアルハラスメント対策(Q&A・定義)」
出典:厚生労働省 「妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(解説)」
出典:厚生労働省 「あかるい職場応援団/相談窓口」
出典:愛媛労働局 「ハラスメント関係資料(研修テキスト・携帯カード例)」
出典:厚生労働省 「事業主が雇用管理上講ずべき措置の解説」
出典:厚生労働省 リーフレット 「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」
出典:東京労働局 「育児・介護休業等におけるハラスメント(資料)」
出典:厚生労働省 「あかるい職場応援団/ダウンロードコーナー」
出典:厚生労働省 「事業主向け研修資料(令和5年度版)」
出典:厚生労働省 パンフレット 「職場におけるハラスメント(周知・研修の措置)」
BizShareTV
仕事に役立つ動画はここにある
いつでも、どこでも、無料で見放題
